上 下
437 / 519

川口直人 12

しおりを挟む
 2人で電車に乗っている間も加藤さんは元気がなかった。ずっと黙ったままで一言も口を聞かない。

「ねえ…あれで良かったの?」

我慢できず、つり革の手すりに捕まってボーッとしている加藤さんに声を掛けた。

「え?や、やだ。ごめんなさい!私、ついぼ~っとして…」

慌てた様に俺から視線をそらせた。

「さっきの男誰?差し支えなければ…聞いてもいい?」

こんな事聞いていいかどうか分からなかったが、気になって仕方がなかった。

「あの人は私と同い年の幼馴染なの」

やっぱり…何となくそんな予感がした。2人の間は友達以上、恋人未満に思えた。

「ふ~ん。お姉ちゃんて…」

「私にはね、5歳年上の姉がいて彼は私の姉の恋人だよ」

「え…?」

「昨日、姉と私と…亮平でちょっとしたトラブルがあって、その謝罪の意味で亮平は私に今日は奢ってやるから出掛けようって誘われていたんだけど断ったの。だって亮平は姉の恋人だから」

何だ?その話…。けれど、少なくとも俺の目にはあの男は加藤さんに好意を抱いているように見えたけど…。

「亮平ってさっきの男の名前だよね?」

「うん。そうだよ」

「ひょっとして…好きなの?」

加藤さんの気持ちが知りたくなった。

「え?!」

途端に大きな目が見開かれる。そうか…。やっぱり…。

「いや…いいよ…別に答えなくても。今の加藤さんの様子で分かったから」

そう言ったけど、自分でも思っていた以上にショックを受けていることに気がついた。そして加藤さんは気まずそうにしている。

「楽しみだなぁ~プラネタリウム見るの。一度も行ったことが無いからさ」

その場の雰囲気を取り繕う為に俺は咄嗟に言った。…本当はプラネタリウムなんかどうでも良かった。ただ、加藤さんと一緒にいたかったからなんて口が裂けても言えない立場が辛かった。

「川口さん…」

するとちょうどその時、車内に押上駅到着のアナウンスが流れた。

「よし、着いたみたいだ。行こう」

俺は笑顔で加藤さんに言うと、先に電車から降りた―。


****


 プラネタリウムは思っていた以上に素晴らしかった。大迫力の映像と音楽。まるで自分が宇宙空間にいるような臨場感で、久々に子供のように興奮してしまった。

「あ~楽しかった。映像もすごい迫力だったし、こんなに興奮したのは久しぶりだよ」

会場を出ると、早速加藤さんに感想を述べた。

「そう?そんなに良かった?そこまで喜ばれるとこっちも一緒に来て良かったなって思うよ」

俺と加藤さんはすっかり親しくなっていた。

「ねぇ、この後すぐに帰るのもなんだし、ちょうどお昼の時間帯だからスカイツリーで食事して帰らないか?」

もっと加藤さんといっしょにいたい…。

このまま何処にも寄らずに真っ直ぐに帰るのは嫌だった。

「うん。そうだね。3階にフードコートがあるみたいだからそこに行こうか?」

良かった、誘いに応じてくれた。

「よし、決まりだ。なら早速行こう」

そして俺と加藤さんは人が混み合うエレベータホールへ向かっていたのだが…。

「え?」

隣を歩いていたはずの加藤さんの姿が見えなくなっている。この人混みではぐれてしまったのだ。

一体何処に…?

慌てて周囲を見渡すと、後ろの列に加藤さんの姿を発見した。慌てて加藤さんに駆け寄ると言った。

「ごめん加藤さん。はぐれちゃって…」

「ううん。見つかったから大丈夫だよ」

笑顔で答える彼女。

「…」

少し迷ったが、俺は加藤さんの左手を繋いだ。

「一緒に行こう」

「え?」

戸惑う加藤さん。

俺はつなぐ手に少しだけ力を込めた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

ヒロインに騙されて婚約者を手放しました

結城芙由奈 
恋愛
地味で冴えない脇役はヒーローに恋しちゃだめですか? どこにでもいるような地味で冴えない私の唯一の長所は明るい性格。一方許嫁は学園一人気のある、ちょっぴり無口な彼でした。そんなある日、彼が学園一人気のあるヒロインに告白している姿を偶然目にしてしまい、捨てられるのが惨めだった私は先に彼に婚約破棄を申し出て、彼の前から去ることを決意しました。だけど、それはヒロインによる策略で・・・?明るさだけが取り柄の私と無口で不器用な彼との恋の行方はどうなるの?

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。 18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。 帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。 泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。 戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。 奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。 セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。 そしてその将兵は‥‥。 ※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※頑張って更新します。

処理中です...