上 下
377 / 519

亮平 22

しおりを挟む
 鈴音が目を覚ました知らせが入ってきた!

「そ、それじゃ今夜仕事が終わったらすぐに病院に行きます!勿論会えますよね?!」

しかし返事は俺の期待を裏切るものだった。

『申し訳有りませんが、まだ無理です』

「な、何故ですかっ?!」

どうして目が覚めたのに会わせてくれないんだよっ?!

『患者さんはまだICUから出ることは出来ません。何度も申し上げている通り、親族以外はICUの患者さんの面会は出来ないことになっているのです』

「そ、そんな…!」

すぐに会えると思ったのに…!

『個室病棟に移動出来らまたご連絡致します』

「わ、分かりました。…どうぞよろしくお願い致します…」

ピッ

電話を切ると深いため息が出てしまった。

「はぁ~…」

何てこった…。すぐにでも会えると思っていたのに…。そこでふと思った。

「忍は…鈴音の目が覚めた事を聞かされているのだろうか…?」

そうだ、忍に鈴音の目が覚めたことを教えてやろう。最近大分調子がよくなってきたからな…。
そして気を取り直して俺は外回りを再開した―。



****


 午後7時―

「う~…すっかり遅くなってしまったな…」

腕時計を見ながら病院の臨時出入り口をくぐり抜けて、俺は忍の病室を目指した。
それにしても助かった。ここの病院は入院患者の面会を午後8時まで延長してくれる。そうじゃなければ俺は忍の面会に来ることが出来なかった。

 エレベーターホールへ向かい、上行きのボタンを押した。

チーン

すぐにエレベーターのドアが開いたので乗り込むと忍が入院している5階の病室のボタンを押した。

上昇するエレベータの中で思った。

「忍…鈴音の目が覚めたら…どう思うかな…?」



 3ヶ月前―

鈴音が交通事故に遭った直後、忍は半狂乱になって泣き叫んだという。そして血まみれで倒れている鈴音を抱き起こそうとした所を周囲の人々に動かしては駄目だと止められていた。忍の絶叫は救急車がやってくるまで続いた。
救急車がやってくるとすぐに忍は救急隊員から鈴音を引き剥がされて鎮静剤を撃たれ、そのまま病院へ戻され…今は鍵が掛けられた部屋に入院している―。


503号室―

看護師の案内の元、俺は忍の部屋の前に立っていた。

「それでは面会時間は30分ですからね」

俺を案内してくれた女性の看護師が言う。

「はい、分かりました」

看護師は頷くと個室の鍵を開けたので、俺は部屋の扉を開けて中へ入った。

「忍さん…俺だよ」

するとベッドの上でテレビを見ていた忍が俺の方を振り向くと言った。

「あら、今晩は。亮平君」

忍は俺を見てにっこり笑った。

そこにはもう…狂気を宿した忍はいなかった―。



****

「今日も来てくれたのね。仕事が忙しいから無理しなくてもいいのよ?」

「いえ、実は今日は忍さんに大事な話が合って来たんですよ」

椅子に座りながら俺は忍に言った。

「大事な話…?ま、まさか鈴音ちゃんに関することなのねっ?!」

「ええ、そうですよ」

「鈴音ちゃんは?鈴音ちゃんはどうなったのっ?!」

「はい…。鈴音は今日…目が覚めたそうです。看護師から電話が入ってきました」

「ほ、本当に…?」

「はい」

「そう…よ、良かった…」

忍…いや、忍さんは涙を流しながら…口元に笑みを浮かべた。その姿はとても美しかったけれども…俺の心には嘘のように忍に対する恋心は消えていた。代わりに俺の頭をしめていたのは鈴音のことばかりだった。

鈴音…早く、お前に会いたい。

会って…お前に大事な事を伝えたいんだ―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。 18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。 帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。 泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。 戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。 奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。 セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。 そしてその将兵は‥‥。 ※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※頑張って更新します。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

処理中です...