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亮平 17
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あの後、俺と鈴音の間にはギクシャクした空気が流れていた。そんな事になったのもアイツ…井上って奴のせいだ。アイツ…彼氏でもないくせに鈴音に勝手にキスして挙げ句にその事を俺に報告するなんて。俺だってまだ…!
え…?俺だって…一体何を考えてしまったんだ?俺が好きな相手も、恋人も忍だったはずなのに…。最近自分の心の内が分からなくなってしまった。俺はどうしてしまったんだ?
そんな時…鈴音の計らいで俺は忍の主治医の笠井と言う医者の診察を受けることになった―。
****
「え?」
笠井医師の言葉に俺は愕然となった。
「い、今の話は…本当ですか…?」
向かい側に座る笠井医師の姿をじっと観ながら俺は尋ねた。
「ええ。そうです。岡本さん、貴方は忍さんに長い間洗脳されていました。自分を愛するように…そして鈴音さんに辛く当たるようにと」
嘘だ、まさか…そんな話、信じられるはずがない。
「嘘だっ!」
気づけば俺は笠井医師に向かって叫んでいた。
「忍が俺を洗脳していた?鈴音に辛く当たるように洗脳してきたっていうのか?そんなの信じられるかよ!」
気づけば俺は怒鳴りつけていた。
「…」
しかし笠井医師は静かに俺の様子を見守っている。
「く…」
ドサリと椅子に座った俺に笠井医師が言った。
「岡本さん、本当にご自分は洗脳されていないと言えますか?貴方は自分の意志とは無関係に行動してしまった事は一度も無いと言い切れますか?」
「え…?い、一体何を…」
「これは大事なことなのです。思い出してみて下さい」
「お、俺は…」
笠井医師に言われて少し冷静になれたので言われた通り今までの事を思い出してみた。そして…思い出せば出すほどに、俺には心あたりがあることばかりたと言うことに気付かされた。
「…先生の仰る通りです…確かにそうだったかも…いや、俺は過去に何度も何度も自分の医師とは無関係な態度や言葉を言ってきました」
うなだれながら言うと、笠井医師がため息を付きながら言った。
「やはりそうでしたか…。貴方の場合は忍さんから受けた洗脳期間があまりにも長過ぎる。恐らく今まで会う度に洗脳されてきたのではないでしょうか?自分を慕い、鈴音さんに意地悪な態度を取るようにと…」
「な、何で…忍はそこまでして…?」
ポツリと呟くと笠井医師が言った。
「鈴音さんから何も聞かされていないのですか?」
「え?」
「忍さんの事…何も話していませんでしたか?」
「…聞いています。忍は…養女だったんですよね?」
「ええ。その通りです。忍さんは自分だけが血の繋がらない家族であることにコンプレックスを抱いていました。だから貴方に暗示を掛けたのですよ。鈴音さんを苦しめる為に…」
「忍は…鈴音を憎んでいたって事ですか…?」
「昔から言うじゃありませんか。『可愛さ余って憎さ100倍』と。愛と憎しみは表裏一体なのですよ」
「そ、そんな…」
それじゃ忍は鈴音の事を愛しているが…それ以上に憎しみを抱いているってことだったのか?!だけど…。
「…分からないことがあります…」
「え?何が分からないのですか?」
「何故、忍が鈴音を苦しめる為に暗示を掛けた相手が俺だったのか…と言う事です」
「え…?」
すると笠井医師が微妙な表情で俺を見た。
「何ですか?」
「い、いえ…。そうですか…そこが謎ということなのですね」
「はい。先生は理由をご存知ですか?」
「いえ、私にもその辺のことは不明です」
何故か少し視線をそらすよう答える。
「そうですか、先生にも分からないということですね」
「…取り敢えず、忍さんはもう病院に入院しているわけです。今の忍さんは…精神も壊れかかっている分、貴方にかけた暗示も徐々に薄れていくと思います。忍さんから少しずつ距離を開けていけば…いずれ完全に暗示は解けるのではないでしょうか?」
「そう…なのでしょうか…?」
俺は曖昧に返事をしたが…笠井医師の話は事実だった。
尤も…その事を知るのはかなり後になってからの話だが―。
え…?俺だって…一体何を考えてしまったんだ?俺が好きな相手も、恋人も忍だったはずなのに…。最近自分の心の内が分からなくなってしまった。俺はどうしてしまったんだ?
そんな時…鈴音の計らいで俺は忍の主治医の笠井と言う医者の診察を受けることになった―。
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「え?」
笠井医師の言葉に俺は愕然となった。
「い、今の話は…本当ですか…?」
向かい側に座る笠井医師の姿をじっと観ながら俺は尋ねた。
「ええ。そうです。岡本さん、貴方は忍さんに長い間洗脳されていました。自分を愛するように…そして鈴音さんに辛く当たるようにと」
嘘だ、まさか…そんな話、信じられるはずがない。
「嘘だっ!」
気づけば俺は笠井医師に向かって叫んでいた。
「忍が俺を洗脳していた?鈴音に辛く当たるように洗脳してきたっていうのか?そんなの信じられるかよ!」
気づけば俺は怒鳴りつけていた。
「…」
しかし笠井医師は静かに俺の様子を見守っている。
「く…」
ドサリと椅子に座った俺に笠井医師が言った。
「岡本さん、本当にご自分は洗脳されていないと言えますか?貴方は自分の意志とは無関係に行動してしまった事は一度も無いと言い切れますか?」
「え…?い、一体何を…」
「これは大事なことなのです。思い出してみて下さい」
「お、俺は…」
笠井医師に言われて少し冷静になれたので言われた通り今までの事を思い出してみた。そして…思い出せば出すほどに、俺には心あたりがあることばかりたと言うことに気付かされた。
「…先生の仰る通りです…確かにそうだったかも…いや、俺は過去に何度も何度も自分の医師とは無関係な態度や言葉を言ってきました」
うなだれながら言うと、笠井医師がため息を付きながら言った。
「やはりそうでしたか…。貴方の場合は忍さんから受けた洗脳期間があまりにも長過ぎる。恐らく今まで会う度に洗脳されてきたのではないでしょうか?自分を慕い、鈴音さんに意地悪な態度を取るようにと…」
「な、何で…忍はそこまでして…?」
ポツリと呟くと笠井医師が言った。
「鈴音さんから何も聞かされていないのですか?」
「え?」
「忍さんの事…何も話していませんでしたか?」
「…聞いています。忍は…養女だったんですよね?」
「ええ。その通りです。忍さんは自分だけが血の繋がらない家族であることにコンプレックスを抱いていました。だから貴方に暗示を掛けたのですよ。鈴音さんを苦しめる為に…」
「忍は…鈴音を憎んでいたって事ですか…?」
「昔から言うじゃありませんか。『可愛さ余って憎さ100倍』と。愛と憎しみは表裏一体なのですよ」
「そ、そんな…」
それじゃ忍は鈴音の事を愛しているが…それ以上に憎しみを抱いているってことだったのか?!だけど…。
「…分からないことがあります…」
「え?何が分からないのですか?」
「何故、忍が鈴音を苦しめる為に暗示を掛けた相手が俺だったのか…と言う事です」
「え…?」
すると笠井医師が微妙な表情で俺を見た。
「何ですか?」
「い、いえ…。そうですか…そこが謎ということなのですね」
「はい。先生は理由をご存知ですか?」
「いえ、私にもその辺のことは不明です」
何故か少し視線をそらすよう答える。
「そうですか、先生にも分からないということですね」
「…取り敢えず、忍さんはもう病院に入院しているわけです。今の忍さんは…精神も壊れかかっている分、貴方にかけた暗示も徐々に薄れていくと思います。忍さんから少しずつ距離を開けていけば…いずれ完全に暗示は解けるのではないでしょうか?」
「そう…なのでしょうか…?」
俺は曖昧に返事をしたが…笠井医師の話は事実だった。
尤も…その事を知るのはかなり後になってからの話だが―。
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