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第19章 19 叶わぬ恋
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「そうか、分かったよ」
勇気を振り絞った言葉なのに、太田先輩はそれをあっさり受け入れて逆に私は拍子抜けしてしまった。
「え?そ、そんなにあっさり受け入れるんですか?」
すると逆に尋ねられた。
「何?それじゃ俺が嫌だと拒否したら交際してくれるのかい?」
「え、そ・それは…」
思わず言葉に言い淀むと先輩は笑った。
「ハハハ…冗談だよ。気にしないでいいよ」
「じょ、冗談ですか…」
良かった…思わず心の中で安堵のため息を付くと、何故かこちらをじっと見つめている太田先輩がいた。そして私と目が合うと口を尖らせるように言った。
「そんなにあからさまに安心されても複雑なんだけどな」
「す、すみません…」
太田先輩は残りのマンハッタンを飲み干すと、再びバーテンダーを呼んだ。
「はい。何に致しますか?」
メニューを見ることも無く、太田先輩は言った。
「ブルームーンを頼みます」
すると何故かバーテンダーが私のことをチラリと見ると頭を下げた。
「かしこまりました」
そして鮮やかな手付きでカクテルを作り始める。私は隣に座る太田先輩をチラリと見ると、先輩もじっとバーテンダーを見つめていた。やがてカクテルは出来上がり、グラスがトンと置かれた。
「お待たせいたしました」
「…ありがとう」
太田先輩が礼を言うと、バーテンダーは静かに頭を下げ、また持ち場へと戻っていく。先輩の前に置かれたカクテル『ブルームーン』はまるで深海の色を映したかのような美しい色だった。間接照明に照らされたカクテルは美しく光っている。
「…きれいなカクテルですね」
「ああ、そうだね」
「どうして…あのバーテンの人は私を見たんでしょう?」
先程何故か意味深に私の事を見たバーテンダーの視線が忘れられず尋ねてみた。太田先輩なら何か知ってるような気がしたから。
「…知りたい?」
「ええ…出来れば…」
「この『ブルームーン』にはあるカクテル言葉があるのさ」
「カクテル言葉…?」
私は首を傾げた。
「加藤さんはカクテル言葉を知らないのかい?」
「はい。私が飲むのは…殆どサワーばかりなので」
すると太田先輩は『ブルームーン』に視線を移すと言った。
「『叶わぬ恋』…」
「え?」
「このカクテル言葉は…『叶わぬ恋』って言うんだよ」
「!」
思わずその言葉を聞き、私は酷い罪悪感を感じてしまった。太田先輩はそれに気付いたのか、私に言った。
「加藤さんは…もうお酒を飲み終わったようだね?」
「は、はい…」
テーブルの上に乗っていたおつまみも殆ど空になっていた。太田先輩は腕時計を見ると言った。
「そろそろ22時になるね。加藤さんはもう帰ったほうがいいかもね」
「あ、はい…」
その言葉はまるで『帰ってくれ』と言われているように感じた。
「あの、先輩は…?」
すると太田先輩は『ブルームーン』を傾けると言った。
「俺はもう少し飲んでから帰るよ。…1人で帰れるかい?」
「ええ、勿論です」
「そうか、なら気をつけて帰りなよ」
「はい」
私は上着を持つと立ち上がった。
「それでは帰りますね」
「うん」
そして背を向けて帰りかけた時、不意に背後から呼び止められた。
「加藤さん」
「はい」
「さよなら」
「え…?さ、さよなら…」
太田先輩は再びテーブルの方を向き、それから私の方を振り向くことは無かった。
私はモヤモヤする気持ちを抱えながらお店を出た。
「今の…どういう意味だったんだろう…?」
私は息を吐きながら自分のマンションへと帰って行った。
そして翌朝…太田先輩はもう二度と代理店へ戻ってくることは無かった―。
勇気を振り絞った言葉なのに、太田先輩はそれをあっさり受け入れて逆に私は拍子抜けしてしまった。
「え?そ、そんなにあっさり受け入れるんですか?」
すると逆に尋ねられた。
「何?それじゃ俺が嫌だと拒否したら交際してくれるのかい?」
「え、そ・それは…」
思わず言葉に言い淀むと先輩は笑った。
「ハハハ…冗談だよ。気にしないでいいよ」
「じょ、冗談ですか…」
良かった…思わず心の中で安堵のため息を付くと、何故かこちらをじっと見つめている太田先輩がいた。そして私と目が合うと口を尖らせるように言った。
「そんなにあからさまに安心されても複雑なんだけどな」
「す、すみません…」
太田先輩は残りのマンハッタンを飲み干すと、再びバーテンダーを呼んだ。
「はい。何に致しますか?」
メニューを見ることも無く、太田先輩は言った。
「ブルームーンを頼みます」
すると何故かバーテンダーが私のことをチラリと見ると頭を下げた。
「かしこまりました」
そして鮮やかな手付きでカクテルを作り始める。私は隣に座る太田先輩をチラリと見ると、先輩もじっとバーテンダーを見つめていた。やがてカクテルは出来上がり、グラスがトンと置かれた。
「お待たせいたしました」
「…ありがとう」
太田先輩が礼を言うと、バーテンダーは静かに頭を下げ、また持ち場へと戻っていく。先輩の前に置かれたカクテル『ブルームーン』はまるで深海の色を映したかのような美しい色だった。間接照明に照らされたカクテルは美しく光っている。
「…きれいなカクテルですね」
「ああ、そうだね」
「どうして…あのバーテンの人は私を見たんでしょう?」
先程何故か意味深に私の事を見たバーテンダーの視線が忘れられず尋ねてみた。太田先輩なら何か知ってるような気がしたから。
「…知りたい?」
「ええ…出来れば…」
「この『ブルームーン』にはあるカクテル言葉があるのさ」
「カクテル言葉…?」
私は首を傾げた。
「加藤さんはカクテル言葉を知らないのかい?」
「はい。私が飲むのは…殆どサワーばかりなので」
すると太田先輩は『ブルームーン』に視線を移すと言った。
「『叶わぬ恋』…」
「え?」
「このカクテル言葉は…『叶わぬ恋』って言うんだよ」
「!」
思わずその言葉を聞き、私は酷い罪悪感を感じてしまった。太田先輩はそれに気付いたのか、私に言った。
「加藤さんは…もうお酒を飲み終わったようだね?」
「は、はい…」
テーブルの上に乗っていたおつまみも殆ど空になっていた。太田先輩は腕時計を見ると言った。
「そろそろ22時になるね。加藤さんはもう帰ったほうがいいかもね」
「あ、はい…」
その言葉はまるで『帰ってくれ』と言われているように感じた。
「あの、先輩は…?」
すると太田先輩は『ブルームーン』を傾けると言った。
「俺はもう少し飲んでから帰るよ。…1人で帰れるかい?」
「ええ、勿論です」
「そうか、なら気をつけて帰りなよ」
「はい」
私は上着を持つと立ち上がった。
「それでは帰りますね」
「うん」
そして背を向けて帰りかけた時、不意に背後から呼び止められた。
「加藤さん」
「はい」
「さよなら」
「え…?さ、さよなら…」
太田先輩は再びテーブルの方を向き、それから私の方を振り向くことは無かった。
私はモヤモヤする気持ちを抱えながらお店を出た。
「今の…どういう意味だったんだろう…?」
私は息を吐きながら自分のマンションへと帰って行った。
そして翌朝…太田先輩はもう二度と代理店へ戻ってくることは無かった―。
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