上 下
287 / 519

第17章 17 戻りつつある日常

しおりを挟む
 10時になって太田先輩が出社してきた。私はPCで顧客データを入力していた手を止めて先輩が席に座る前に素早く近づき声を掛けた。

「おはようございます」

「ああ、おはよう。加藤さん」

太田先輩は爽やかな笑顔で挨拶を返してくれた。

「昨夜、動画を送っていただいてありがとうございます。おかげさまで元気が出ました」

「そうか、シロの動画気に入ってくれたのか」

「え?シロ?もしかしてあの子猫、シロって名前なんですか?」

「ああ、そうだよ。毛並みが白だからシロって名付けたんだ」

「そうだったんですね。シロちゃんですか…とても可愛かったです。本当にありがとうございます。では失礼します」

「ああ」

頭をさげて席へ戻ると井上君が小声で話しかけてきた。

「何?昨夜…太田先輩と何かあったのかい?」

「え?別に。メール貰っただけだよ」

それだけ答え、再びPCに向かってキーボードを叩き始めると、何か言いたげだった井上くんも再び仕事を始めた―。



****

 お昼休み―

コートを羽織って、代理店を出てランチに向かった。

「今日はどこで食べようかな…」

歩きながらお店を散策していると、ふと前方に見たことの無いベーカリーショップが目に入った。

「あれ?いつの間にオープンしたんだろう?」

近付いて中を覗いてみると、そのベーカリーショップは店内で購入したパンも食べられるようになっていた。

「へ~…ちょっとしたカフェみたい。コーヒーも売ってるみたいだし…」

よし、今日のランチはこのお店にしよう。私は店内へ足を踏み入れた。


 お店に中はお昼の時間帯ということもあり、なかなか盛況だった。そしてお客の殆どは女性が大半を締めていた。陳列棚には大きなトレーやバスケットの上に載せられた様々な種類のパンが売られている。どれも美味しそうで、さんざん迷ったけど、とりあえずハーブとチーズの練り込まれたパンといちじくとナッツのテーブルパンを購入することにした。ついでに飲み物はグリーンスムージーを注文した。
品物を受け取ると私は窓際のカウンター席にトレーを持って移動すると席に付いた。

「頂きます」

早速いちじくとナッツのテーブルパンを口に入れるとドライフルーツの程よい甘みが弾力のあるパンにとてもよく馴染んで美味しかった。

「美味しい…。そうだ、何時までこの店やってるのかな?」

店内をキョロキョロ見渡してみると、このお店のポスターが貼られていた。見ると営業時間は朝の7時~20時までとなっている。そうだ、明日の朝食用に仕事の帰りにまたこの店に来よう…そんな事を考えているとスマホに着信が入ってきた。相手は亮平からだった。

『鈴音、今夜お前のマンションへ寄っていいか?2人で引っ越し祝しないか?』

「引越し祝いか…」

まだ部屋の中の片付け終わっていないんだけどな…。でも私の事を元気づけてくれようとしているのかもしれないし…。

『うん、いいよ。何時頃になりそう?』

メールを返信すると、直後に電話がかかってきた。

「もしもし?」

『鈴音、今昼休みなんだろう?電話大丈夫だよな?』

「うん、大丈夫だよ。亮平はお昼食べたの?」

『いや、これからなんだ。今外回りの最中なんだ。何か食べ物買って行くからお前は何も用意しなくていいからな?多分19時位には行けると思うから』

「え?いいの?でも何か簡単なものくらい用意できるけど?」

『でも鈴音だって仕事だろう?無理しなくていいぞ?』

「それじゃあさ、もし用意できそうなら何か準備しておくよ」

『そうか、悪いな。でも本当に無理しなくていいからな?』

「うん。分かったよ」

『じゃあまた夜にな』

「またね」

そして電話を切った。

「そうだ、ここのパンを買って亮平に食べさせてあげよう。ついでにお姉ちゃんにも持っていってもらおう。」

私は自分の日常生活が少しずつ戻ってきていることを感じた―。

しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

偽りの結婚生活 ~私と彼の6年間の軌跡

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
偽りの結婚をした男性は決して好きになってはいけない私の初恋の人でした― 大手企業に中途採用された「私」。だけどその実態は仮の結婚相手になる為の口実・・。 これは、初恋の相手を好きになってはいけない「私」と「彼」・・そして2人を取り巻く複雑な人間関係が繰り広げられる6年間の結婚生活の軌跡の物語—。 <全3部作:3部作目で完結です:終章に入りました:本編完結、番外編完結しました> ※カクヨム・小説家になろうにも投稿しています

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...