上 下
242 / 519

第15章 20 私に甘いその理由

しおりを挟む
ピンポーン

501号室のインターホンを押すと、すぐにドアがガチャリと開いて川口さんが姿を現した。

「鈴音…」

川口さんは私をじっと見つめた。

「ごめんね…いきなり電話掛けちゃっ…!」

言葉を言い終わる前に…私は川口さんに強く抱きしめられていた。

「お帰り、鈴音。」

私の髪を撫でながら川口さんが言う。

「うん…ただいま…」

川口さんの胸に顔をうずめ、私は言った―。


夜9時―

川口さんの部屋でテレビを観ていると、バスルームに行っていた川口さんがを声を掛けてきた。

「鈴音、お風呂沸いたよ」

「うん、ありがとう。」

持ってきたバックから自分の着がえや洗面道具を持っていそいそとバスルームへ来ると川口さんが言った。

「その洗面道具、予備として俺の部屋に置いておかないかい?」

「え…?」

「これから鈴音が次の日に休みの時は泊まりに来て欲しいんだ。少しでも長く一緒にいたいから…」

私の頬に手を触れながら言う。

「うん、ありがとう。それじゃ今日持ってきてくれた洗面用具置かせてもらうね。私も…直人さんと長く一緒にいたいし」

「本当かい?ありがとう!鈴音っ!」

川口さんは私を力強く抱きしめた後に体を離すと言った。

「じゃあゆっくり入っておいで」

「うん」

コクリと頷くと、川口さんは笑みを浮かべてバスルームから去っていた。そして私は早速お風呂に入らせてもらう事にした―。


****

カコーン

洗面器をタイルの床に置いた音がお風呂場に響き渡る。そして私は久々にお湯が張られた浴槽へ身体を沈め…。

「ふぅ~…お風呂ってやっぱり気持ちい。最高…」

改めて私はバスルームを見渡した。高い天井に追い焚き機能が付いたお風呂。広い洗い場に温度調節機能付きのシャワー…。

「やっぱり家賃が12万5千円ともなればお風呂もついてくるのかな…?」

きっと川口さんは引っ越し屋さんという肉体労働の仕事だからお風呂付のマンションを賃貸しているのかもしれない。でもこんなに素敵なお風呂を貸してくれたのだからあがったらお礼を言わないと…。

色々考えながら私は久しぶりのバスタイムを堪能した―。

 薄い水色のダブルガーゼのチュニック風パジャマに着替え、濡れた髪をバスタオルで良く拭いてドライヤーで乾かした後、私はバスルームから出てきた。
すると川口さんはローソファに座ってテレビを眺めていた。

「直人さん、お風呂ありがとう。とても気持ち良かったよ」

すると川口さんは目を細めて私を見ると手招きした。

「おいで、鈴音」

言われて川口さんの元へ行き、隣に座るといきなり抱きしめられた。

「な、な、何?」

思わず真っ赤になって川口さんを見ると彼は言った。

「そのパジャマ、可愛いね。良く似合ってるよ」

そして私の髪に顔をうずめると言った。

「うん、鈴音の匂いがする…やっぱり落ち着くな。…好きだよ」

言いながらますます私を抱きしめてくる。一方の私は先ほどから甘いセリフばかり耳元で囁いてくるので恥ずかしくてたまらない。今まで過去に何人かの男性と付き合ったことはあったけれども、川口さんみたいなタイプの男性は初めてだ。隆司さんだってこんなタイプじゃなかった。

「鈴音…耳まで真っ赤だ。ひょっとして…恥ずかしいの?」

川口さんが尋ねてきた。

「そ、それは恥ずかしいよ…ね、ねぇ‥直人さんて誰と付きあってもこんな感じだったの?」

抱きしめられながら私は尋ねた。

「こんな感じって?」

「だ、だから…今みたいな、こんな感じ」

もう勘弁して欲しい。羞恥で顔が赤くなり、見られない為に俯いた。すると川口さんは言う。

「違うよ。今まで過去に付き合ってきた女性にここまで過剰な事はしたことがないよ。鈴音が初めてだよ」

「え?本当に?」

信じられない。驚いて川口さんを見つめると彼は言った。

「一目惚れだったんだ‥」

「え?」

「初めて引っ越し作業で鈴音に会った時…何て可愛い人なんだろうって目が離せなくなっていた。それにあんな風に引っ越し作業の後に栄養ドリンクにどら焼き迄くれた人は誰もいなかった。すごく気遣いの出来る優しい人なんだって思ったよ」

川口さんは愛し気な目で私を見つめながら頬に触れる。

「鈴音の傍に幼馴染で親しくしている男が傍にいる事を知った時は‥すごくショックだったし、あの男に嫉妬したよ…」

「え‥?」

「だから…鈴音が幼馴染の男じゃなくて、俺を選んでくれた事すごく嬉しかった。だけど嬉しい半面、不安なんだ。油断すればあの男に鈴音を取られそうで…余裕が無いんだろうな。今、こうして鈴音は腕の中にいるのにすぐにいなくなってしまうんじゃないかと不安になってくるんだ…」

「!」

その言葉を聞いた時、以前までの自分の心を見透かされたようでドキッとした。だけど、さっきは…亮平から電話を切った後、どうしよも無い程に声が聞きたくなった相手は川口さんだった。だから私は言った。

「私が亮平と付き合う事は絶対に無いよ。だって私の恋人は直人さんだから…」

「鈴音…」

川口さんの顔が近づいてきたので目を閉じるとキスされた。

そして、今夜も私と川口さんはベッドを共にした―。









しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

偽りの結婚生活 ~私と彼の6年間の軌跡

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
偽りの結婚をした男性は決して好きになってはいけない私の初恋の人でした― 大手企業に中途採用された「私」。だけどその実態は仮の結婚相手になる為の口実・・。 これは、初恋の相手を好きになってはいけない「私」と「彼」・・そして2人を取り巻く複雑な人間関係が繰り広げられる6年間の結婚生活の軌跡の物語—。 <全3部作:3部作目で完結です:終章に入りました:本編完結、番外編完結しました> ※カクヨム・小説家になろうにも投稿しています

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...