上 下
201 / 519

第13章 22 車内での姉についての会話

しおりを挟む
「で、でも・・・姉は・・・会ってくれるでしょうか・・・・?」

うつむきながら服部さんに尋ねる声が震えてしまう。

「少なくとも・・・私が見る限り・・このメールでは忍さんは貴女に会いたいと言っているように思えますけど・・。それに・・。」

コホンと咳ばらいを一つすると、服部さんは言った。

「忍さん・・・よく私に貴女の事を話してくれていますよ。」

「え?」

その言葉に私はうつむいていた顔を服部さんに向けた。

「私には5歳年下の妹がいて、とても可愛いと言ってました。男の人たちからすゴクモテるのに、本人は全くそれに無自覚で、天然なところも可愛らしいと言ってましたよ。」

「姉が・・そんな事を・・?」

服部さんの言葉に胸が熱くなり、思わず目頭がうるんできた。ぐっと涙がにじみ出そうになるのを堪えていると服部さんが声を掛けてきました。

「なら・・こうしましょうか?」

「?」

「まず、私がいつものように忍さんのご自宅を訪問します。加藤さんは外で待っていて下さい。そして私が忍さんに、今加藤さんも一緒に来ていると伝え、会う意思はあるか尋ねます。もし・・忍さんが会いたいと言うなら・・・会われたらいかがですか?」

「そうですね。是非そうさせて下さい。」

私はありがたく服部さんの提案を受けた。

「それではすぐに自宅へ向かいましょうか?」

「ええ、よろしくお願いします。」

そして私たちはアイスコーヒーを飲み終えると、席を立った—。




「すみません・・加藤さん。なかなか空いている駐車場が無くて・・歩かせてしまいましたね?」

服部さんに連れられてやってきた駐車場は駅から5分程離れた場所にあるコインパーキングだった。そこに止められていたのは白い軽自動車だった。

「いえ、そんなことはありません。それでも自宅まで歩くよりは近い距離ですから。」

「そう言ってもらえると嬉しいですね。」

服部さんは車のキーを開けて、運転席のドアを開けながら言う。

「加藤さんもどうぞ助手席にお座り下さい。」

「はい、失礼します。」

服部さんに促され、私も助手席のドアを開けて車に乗り込む。そしてシートベルトをするのを見届けると服部さんが言った。

「では、行きましょうか?」

「お願いします。」

そして加藤さんはハンドルを握るとアクセルを踏んだ—。




 車の中では普段姉と会ったとき、どんな会話や何をして過ごすかを色々教えて貰った。

「忍さんが病院から退院時の手続きは私がやりました。最初はまず、買い物から始めたんですよ。」

「すみません・・・本来であれば家族である私が姉の退院手続きをしなければならなかったのに・・。」

すると服部さんは言った。

「何をおっしゃっているのですか?話は伺っていますよ?加藤さんも忍さんが退院した同じ日に病院を退院されたのですよね?しかも重い交通事故で長いこと入院までしていて・・。」

「はい・・そうです。」

「それに・・・何故忍さんのケースワーカーが女性ではなく、男性である私になったかお分かりになりますか?」

「い、いえ・・。」

私は首を傾げた。そう言えば・・何でだろう?買い物の付き添いにしたって・・男性の前では買いにくい買い物だってあるはずだし・・。

「それはね・・・最初は年が近い女性の方が良いかと思い、入院中に一度別のケースワーカーの女性を連れて行ったところ・・彼女を貴女だと勘違いしたのでしょうね。突然彼女を抱きしめて、忍さん・・泣きじゃくったのですよ。ごめんなさい、鈴音ちゃんと・・何度も泣きながら離さなくて・・・・。」

「え?!」

私は驚いて服部さんを見た。服部さんはハンドルを握り、前を向いたま言った。

「だから、女性のケースワーカーの派遣はやめて・・私が選ばれたのですよ。」

赤信号になり、車が止まると服部さんは私を見た―。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。 18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。 帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。 泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。 戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。 奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。 セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。 そしてその将兵は‥‥。 ※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※頑張って更新します。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

処理中です...