上 下
160 / 519

第11章 13 余ったから・・・

しおりを挟む
 亮平・・・もしかして私の手作りのバレンタインチョコ、楽しみにしてるのかな・・・?そう思うと、嬉しくなり私は余ったチョコレートバーを全てラッピングした。自分の分なんかいらない。亮平が私のチョコを待っていてくれるなら全部あげよう。そして亮平には特別に余ったチョコを湯せんに溶かし、小さなアルミカップに注いで小さなチョコを5個作った。

「フフ・・亮平喜んでくれるかな・・・。」

そして時計を見るともう0時半を過ぎていた。

「大変!もうこんな時間だっ!」

明日は早番だから早起きしなくちゃいけないのに、つい調子に乗って亮平用のチョコを作ってしまった。慌てて後片付けをして、ベッドに入ったのは真夜中の1時を過ぎていた―。


 翌朝―

 職場用のバレンタインチョコが入った紙袋に川口さん用と亮平用のチョコを持って私は家を出た。
そしてまず川口さんのマンションの中へ入った。
1階のエントランスとエレベーターホールの前に、ズラリとポストが並んでいる。

「え・・と・・川口さんのポストは・・・あった。

505号室。ここに『川口』の名前が貼られていた。

「へ~・・川口さんって・・5階に住んでるんだ・・・。いいな、眺めが良さそうで。」

紙袋の中から川口さん用のチョコレートバーを郵便ポストの中に入れた。

ゴトン

「よし、それじゃ仕事行こう。」

踵を返すと私は駅へ向かった―。



 8時半―

代理店に到着した私は店の鍵を開けて開店準備を始めた。
次々と社員さん達が出社してくるたびに、1人1人にバレンタインのチョコを渡すと、皆大喜びしてくれた。特に喜んでくれたのは女性社員と井上君だった。井上君はホワイトデーには倍返しするからと言ったけど、そこは丁重にお断りした。

 そうだ、そう言えばどこで亮平と待ち合わせすればいいのかな?お昼休みになったら亮平にメールを入れてみよう・・・。
そして私は午前中、充実した気持ちで仕事に励んだ。でも・・楽しい気分でいられたのは午前中までの事だった。


 お昼休みになったので私は代理店を出てすぐにスマホを取り出した。すると着信が入っていることに気が付いた。

「あれ・・?メッセージが入ってる・・・?あ、亮平からだ。」

ひょっとして今日の待ち合わせの事でメールを入れてきたのかな?はやる気持ちでスマホをタップし・・目を見開いた。

「え・・・?」

『ごめん、鈴音。昨夜間違えてメールしてしまった。あれ、忍に送るメールだったんだ。間違えて悪かったな。 』

「何だ・・・そうだったのか・・・。だったらもっと早くにメール入れておいてくれれば良かったのに・・・。そうすればあんな事しなかったのに・・。」

思わずポツリと呟き、首を振った。
ううん、私もいけなかったんだ。メールを貰ってすぐに返信していれば良かったんだ。でも・・・そっか・・。今日はバレンタインだから・・亮平はお姉ちゃんと一緒にバレンタインを過ごすのか・・・。でも入院中なのに、そんな事可能なのかな?

「お昼・・・食べに行こう・・・。」

考えても仕方ない。だって所詮私には関係ない話だから・・・。
とぼとぼと歩き、目に入ったワンコインの定食屋さんに入って私の好きな親子丼を頼んだけど、今日は殆ど味を感じなくて、半分くらい食べ残してしまった。・・お店の人には悪いことをしてしまった。



 午後6時―

「お疲れさまでした。」

退勤時間になったので私は皆に挨拶をすると、改めてバレンタインのお礼の言葉を社員さん全員が掛けてくれた。


「加藤さん。駅まで一緒に帰ろう。」

ロッカールームで制服から私服に着がえて代理店を出ると、先に店を出たはずの井上君が待っていた。

「うん、いいよ。」

2人で駅まで並んで歩き始めると早速井上君が話しかけてきた。

「ありがとう、加藤さん。チョコ・・すごくうまかったよ。」

「え?もう食べたの?」

「あ、ああ。そうなんだ・・・あまりにも美味しそうだったから・・俺、甘い物大好きだし・・でも加藤さんてお菓子作り得意だったんだな?」

「うん・・得意って程じゃないけど・・お菓子作りは好きだよ。」

「そうか・・・でもほんと美味かったよ。ありがとう。」

井上君はニコニコしながら何度もお礼を言ってくる。そっか・・そんなに甘いものが好きなんだ・・・。だったら・・・。

私はバックに手を入れると紙袋を取り出して井上君に渡した。

「はい、これ・・あげる。」

「え?」

「余った分だよ。井上君にあげる。」

「え?!本当にいいのか?!」

「うん、いいよ。」

だってもうあげる人いなくなっちゃったしね・・・。

「ありがとう!今度は大事に食べるよっ!」

井上君は大げさな位喜んでくれた―。





しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...