上 下
147 / 519

第10章 13 側にはいられない

しおりを挟む
 夜道―

片側1車線の公道の歩行者道路を歩いていた。

「う~・・お腹苦しい・・・・。」

スーパー銭湯で亮平が注文した料理が予想以上に重く、半分も食べきれなかった私は苦しいお腹を抱えて亮平の後ろをついて歩いていると不意に亮平が振り返った。

「何だよ、たったあれっぽっちでもう苦しいのかよ・・。体重も小学生並みだけど、胃袋も小学生並みだな?ほら、荷物持ってやるよ。苦しいんだろう?」

亮平は私に手を差し出してきた。

「ありがとう・・・。」

荷物を渡すと、亮平は私を見てため息をついた。

「全く・・・そんな痩せっぽちだから体力も力も無いんだろう?やっぱりお前に1人暮らしは無理だったんじゃないか?」

「そんな事言われたって・・・。」

亮平はまだ何も分かっていないのだろうか?私があの家を好きで出たわけじゃないって事を。

「だからさ・・・俺んちで暮らさないか?」

亮平が振り返ると言った。その顔には優し気な笑みが浮かんでいる。

「え?」

街灯の下で笑顔で言う亮平は何だかいつもと違って見えた。そうか・・うん、きっと亮平は酔っぱらっているんだ。

「大丈夫?亮平・・・ひょっとして酔ってるんでしょう?」

「え?何でそう思うんだよ。」

「私が亮平の家でお世話になるわけにいかないでしょう?」

「だから・・・どうして駄目なんだよ。父さんも母さんも鈴音の事・・本当の娘のように思っているんだぞ?」

亮平の言葉に胸がズキリとなる。うん・・・本当にそう思うよ・・。私と亮平が本当の兄や妹のような関係だったら・・こんな辛い思いをする事は無かったはずなのに・・。

「だから・・余計お世話になることが出来ないんだってば・・。」

俯きながら道路で立ち止まっている亮平を追い抜きながら言う。

「父さんと母さんが言ってるんだぞ?鈴音にここに住んでもらえって。どうせ部屋は余ってるんだし・・・。」

背後で亮平が少し苛立ちを含めた声で言う。ああ・・そっか・・・一緒に暮らすって言う案は・・おじさんとおばさんだったんだ。なら・・亮平は?亮平はどう思っているのだろう?

「それじゃあ・・・亮平はどう思ってるの?私が・・一緒に暮らす事について。」

「いや?別に構わないんじゃないか?もともと俺は忍と結婚したら、お前たちの家で暮らすつもりだったんだから。」

「!」

思わず、その言葉に肩がピクリと跳ねてしまう。
そうだった・・・。亮平は以前にそんな事を言っていた。だけど・・私にはそんな生活は耐えられない。自分の大好きな人が・・私ではない他の誰かを愛し気に見つめて
仲睦まじく暮らす様をすぐそばで見ているなんて・・・私はそんなに強い人間じゃない。今だって・・お姉ちゃんの事で悩んで・・自分でも気づかないうちにこんなに体重が落ちてしまうくらい・・もろい精神しか持っていないのだから・・。

「お姉ちゃんが私の事を嫌っているのに・・亮平の家でお世話になるなんて事・・・出来るはずがないでしょう?もし、そのことがお姉ちゃんにばれたら、どうするつもりなの?」

「ばれる事は・・無いだろう?俺がそんな話・・忍にするはずないじゃないか?」

何も知らない亮平は言う。

だけど・・私はお姉ちゃんがずっと秘密にしていたあの事を知ってしまった。それが分かった時・・本当に背筋がさむくなり、つくづくお姉ちゃんが怖いと思った。

けれど・・それでも私はお姉ちゃんを嫌う事が出来ない。だって、お姉ちゃんがあんな風になってしまったのは・・きっと私が原因だから。私の事がずっと憎かったはずなのに・・・お父さんとお母さんが死んでしまった後・・私の面倒を一生懸命見てくれた。お姉ちゃんには感謝しているし、今もその気持ちに変わりはない。
私が亮平の隣に住んでいる限り、おじさんとおばさんは私に良くしてくれるだろう。そして亮平も・・・。でも、お姉ちゃんがいない隙を狙って亮平や・・・おじさん、おばさんの懐に入るような真似は私にはやっぱり出来ない。

だから私は亮平にきっぱり言った。

「亮平。」

「何だ?」

後ろを歩く亮平の声が聞こえる。そこで私は振り向いた。

「私・・・明日からやっぱりアパートに戻るよ。」

亮平の顔には・・・戸惑いの表情が浮かんでいた―。



しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

偽りの結婚生活 ~私と彼の6年間の軌跡

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
偽りの結婚をした男性は決して好きになってはいけない私の初恋の人でした― 大手企業に中途採用された「私」。だけどその実態は仮の結婚相手になる為の口実・・。 これは、初恋の相手を好きになってはいけない「私」と「彼」・・そして2人を取り巻く複雑な人間関係が繰り広げられる6年間の結婚生活の軌跡の物語—。 <全3部作:3部作目で完結です:終章に入りました:本編完結、番外編完結しました> ※カクヨム・小説家になろうにも投稿しています

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

処理中です...