上 下
121 / 519

第9章 3 電話越しの涙

しおりを挟む
『・・・っ・・』

電話越しからは・・亮平の悲し気な嗚咽が聞こえて来る。その声を聞いているだけで私の胸も締め付けられそうになってくる。

「あの・・ね・・亮平・・・。」

『す・・鈴音・・・・。俺・・・ひょっとすると・・・忍に捨てられてしまうかもしれない・・・。』

「!」

亮平は苦し気に私に訴えて来る。もし、今私に自信があったら・・亮平がほんの少しでも私に好意を寄せてくれていると確信が持てたなら・・迷わず、こう伝えるのに。
『大丈夫、私がいるから』って・・だけど悲しいことに亮平は私をただの一度も1人の女性として見てくれたことはない。いつまでたっても幼馴染から抜け出せる日が来る事はない。だから・・・私は言った。

「亮平・・・大丈夫だよ・・。少なくとも・・亮平とお姉ちゃんがディズニーランドへ行った時は・・・お姉ちゃんは亮平の事を<進さん>としてではなく・・・亮平と認識していたんだから・・きっと病状が安定すれば・・・その内・・・・。」

言いながら、思う。私は何をやっているのだろうと。お姉ちゃんは私の事を酷く憎んでいる。そして私にとってお姉ちゃんは恋敵。なのに・・・私はお姉ちゃんに恋する自分の好きな男性の恋を・・・応援しているのだから。

『そう・・・か・・?鈴音・・本当にそう思うか?心の病が回復すれば・・忍は俺たちが恋人同士だった事を・・思い出してくれると思うか・・?』

涙声で尋ねてくる亮平。お願いだから、そんな声で訴えて来ないで。聞いてるこっち迄・・辛く、悲しくなってしまう。私は自分の心を押し殺しながら亮平に応えた。

「勿論だよ、思い出すに決まってるでしょう?それより・・ありがとうね。亮平。私の代わりに・・・お姉ちゃんに付き添いしてくれて。わたし、3日後が仕事休みの日だから・・その日に私物探してナースステーションに届けるね?」

『ああ・・・ありがとう、鈴音。』

「それじゃ・・もう切るね。」

『じゃあな。』

それだけ短く言うと、私は電話を切って・・・溜息をついた。

「はぁ・・・何だか今の電話で・・・食欲無くなっちゃったな・・。」

だけど、これ以上痩せてしまったら皆に心配かけさせてしまう。だから無理してでも食べなくちゃ。
こうして・・私は40分近く時間をかけて、何とか夜ご飯を食べ終えた。


 食事を終えた後・・・私はぼんやりとインターネットの配信ドラマを眺めていた気れでも、内容は少しも頭に入って来なかった。

「・・・何かお酒でも飲もうかな・・。」

ポツリと言ったものの、冷蔵庫の中に買い置きのお酒が1缶も無いことに気が付いた。そうだ・・・お酒無かったんだっけ・・・。どうしよう?諦めようかな・・・。
だけど一度お酒を飲もうかと思った以上、その気持ちを抑える事は無理だった。

「・・コンビニに買いに行こう。」

テーブルに手をついて立ち上がると、ハンガーラックに吊り下げていた分厚いダウンコートを羽織りマフラーを巻き付けた。そしてポシェットを肩から下げると玄関を出た。


「うわああ・・綺麗な星・・・。」

外に出て白い息を吐きながら見上げる夜空には美しい星々が見えていた。

「やっぱり・・冬場は星がきれいに見えるな・・。」

そう言えば、川口さん・・・プラネタリウム喜んでくれたっけ・・。不意に夜空を見上げ・・ふと川口さんの事を思い出した。そう言えば、元カノとの仲はどうなったのだろう・・?


****

「ありがとうございましたー。」

コンビニの店員さんの声を聞きながら店を出た私は缶チューハイが3缶入ったレジ袋を持ってブラブラとマンションへの道のりを歩いていた。

 
 あと少しでマンションという所までやってきた時、住宅街の街灯の下に1組の男女が立っているのが目に入った。

「え・・・?」

けれど次の瞬間、私は目を見張った。

その男性は・・・川口さんだったから―。







しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

偽りの結婚生活 ~私と彼の6年間の軌跡

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
偽りの結婚をした男性は決して好きになってはいけない私の初恋の人でした― 大手企業に中途採用された「私」。だけどその実態は仮の結婚相手になる為の口実・・。 これは、初恋の相手を好きになってはいけない「私」と「彼」・・そして2人を取り巻く複雑な人間関係が繰り広げられる6年間の結婚生活の軌跡の物語—。 <全3部作:3部作目で完結です:終章に入りました:本編完結、番外編完結しました> ※カクヨム・小説家になろうにも投稿しています

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

処理中です...