82 / 519
第6章 16 ファミレス
しおりを挟む
「亮平・・・。」
ダウンジャケットのポケットに両手を突っ込み、クリスマスツリーの傍で立つ亮平は何だか不機嫌そうだった。だけど、私だって今日はとても疲れている。疲れている上に苛立っている亮平を相手になんかしたくない。
「ごめん・・・亮平。私・・今日は疲れていて・・すぐに帰りたいんだ・・。」
そして亮平のそばを通り抜けようとした時に、亮平が言った。
「そうか、そんなにすぐにあの男の元へ帰りたいのか?やっぱりあいつは鈴音の恋人なんだろう?」
何故か棘のあるその言い方に私はカチンと来てしまった。だから振り向くと亮平に言った。
「あのねえ・・・あの人は確かに2年前は恋人だったけど、今はそんなんじゃないからね?隆司さんは親切で置いてくれているんだから。それに疲れているのは本当の話。」
「何が親切だよ。赤の他人である男が何の見返りもなく元カノと暮らすはずないだろう?とにかく今は俺に付き合えよ。忍の事で大事な話があるんだよ。疲れているんなら何か甘いものご馳走してやるから。」
そして亮平は私の右袖を掴むと歩き出した。
「ねえ・・何処へ行くのよ。」
亮平に腕を引かれながら尋ねた。
「まあ・・とりあえずはファミレスでいいだろう?ドリンクメニューの品揃えも多いしな。」
「ファミレスか・・・。」
どうせならもっとムードのあるお店を選んでくれればいいのに・・・。
「何だよ、ファミレスじゃ不満か?俺が奢ってやるんだから贅沢言うな。」
亮平は振り返ると言った。
「はいはい。」
別に奢ってもらわなくてもいいんだけどな・・。でもここでまた余計な事を言えばますます亮平が機嫌を損ねるかもしれないし・・。だから私はもう黙って従う事にした。
「お、ここなんかいいんじゃないか?」
亮平が足を止めたのは安くて美味しいイタリアン料理がメインのファミレスだった。ここはフードがメインなので、ドリンク類はあまり種類は多くない。
「え?ちょっと待って。私食事するなんて一言も・・・。」
「いいから、行くぞ。」
亮平は私の意見を聞きもせずにさっさと店内へと入ってしまった。
「全く・・。」
溜息を一つつくと、私は亮平の後を追って店内へと足を踏み入れた。
「鈴音。早く座れよ。」
店の中には既に窓際の4人掛けソファのテーブル席に着席している亮平の姿があった。
「もう・・本当に強引なんだから・・。」
だけど、亮平と2人きりでファミレスに来るなんて高校生以来だ。何となく口では文句を言いながらも、心が弾んでいる自分がいた。そんな私の様子に気付いたのか、亮平が笑いながら言った。
「何だよ、鈴音。お前、やっぱりここのファミレスに来たかったんだろう?」
「え?ど、どうしてそんなふうに思うの?」
椅子に腰かけながら私は尋ねた。
「だってすごく嬉しそうにしているからさ。ほら。遠慮せずに好きなものを頼めよ。」
「・・・。」
私は亮平の顔を見た。
「・・何だよ?」
「ううん・・べっつに。」
きっと亮平は・・一生私の気持ちに気付かないんだろうな・・・でも気づかれても困るんだけどね。
「それじゃ・・私はホットココアでいいよ。」
メニューを見ないで亮平に告げると、また亮平は不機嫌な顔を見せた。
「お前なあ・・・何だよ。人が折角おごってやるって言ってるのにココアだけなんて・・。」
「だって・・今日は日曜日でしょう?だから・・。」
そこまで言いかけて私は口を閉ざした。しまった・・疲れすぎていたから頭も良く回らなかったんだ。土日は隆司さんと2人で夜ご飯を食べる約束をしているって事・・危うく口走りそうになってしまった。
「何だよ?日曜だと何かあるのか?あ・・・鈴音。お前・・・やっぱり・・。」
亮平がそこまで言いかけた時・・私のスマホが鳴った。
慌ててチラリとスマホを見ると・・着信相手は・・・言うまでも無く、隆司さんからだった―。
ダウンジャケットのポケットに両手を突っ込み、クリスマスツリーの傍で立つ亮平は何だか不機嫌そうだった。だけど、私だって今日はとても疲れている。疲れている上に苛立っている亮平を相手になんかしたくない。
「ごめん・・・亮平。私・・今日は疲れていて・・すぐに帰りたいんだ・・。」
そして亮平のそばを通り抜けようとした時に、亮平が言った。
「そうか、そんなにすぐにあの男の元へ帰りたいのか?やっぱりあいつは鈴音の恋人なんだろう?」
何故か棘のあるその言い方に私はカチンと来てしまった。だから振り向くと亮平に言った。
「あのねえ・・・あの人は確かに2年前は恋人だったけど、今はそんなんじゃないからね?隆司さんは親切で置いてくれているんだから。それに疲れているのは本当の話。」
「何が親切だよ。赤の他人である男が何の見返りもなく元カノと暮らすはずないだろう?とにかく今は俺に付き合えよ。忍の事で大事な話があるんだよ。疲れているんなら何か甘いものご馳走してやるから。」
そして亮平は私の右袖を掴むと歩き出した。
「ねえ・・何処へ行くのよ。」
亮平に腕を引かれながら尋ねた。
「まあ・・とりあえずはファミレスでいいだろう?ドリンクメニューの品揃えも多いしな。」
「ファミレスか・・・。」
どうせならもっとムードのあるお店を選んでくれればいいのに・・・。
「何だよ、ファミレスじゃ不満か?俺が奢ってやるんだから贅沢言うな。」
亮平は振り返ると言った。
「はいはい。」
別に奢ってもらわなくてもいいんだけどな・・。でもここでまた余計な事を言えばますます亮平が機嫌を損ねるかもしれないし・・。だから私はもう黙って従う事にした。
「お、ここなんかいいんじゃないか?」
亮平が足を止めたのは安くて美味しいイタリアン料理がメインのファミレスだった。ここはフードがメインなので、ドリンク類はあまり種類は多くない。
「え?ちょっと待って。私食事するなんて一言も・・・。」
「いいから、行くぞ。」
亮平は私の意見を聞きもせずにさっさと店内へと入ってしまった。
「全く・・。」
溜息を一つつくと、私は亮平の後を追って店内へと足を踏み入れた。
「鈴音。早く座れよ。」
店の中には既に窓際の4人掛けソファのテーブル席に着席している亮平の姿があった。
「もう・・本当に強引なんだから・・。」
だけど、亮平と2人きりでファミレスに来るなんて高校生以来だ。何となく口では文句を言いながらも、心が弾んでいる自分がいた。そんな私の様子に気付いたのか、亮平が笑いながら言った。
「何だよ、鈴音。お前、やっぱりここのファミレスに来たかったんだろう?」
「え?ど、どうしてそんなふうに思うの?」
椅子に腰かけながら私は尋ねた。
「だってすごく嬉しそうにしているからさ。ほら。遠慮せずに好きなものを頼めよ。」
「・・・。」
私は亮平の顔を見た。
「・・何だよ?」
「ううん・・べっつに。」
きっと亮平は・・一生私の気持ちに気付かないんだろうな・・・でも気づかれても困るんだけどね。
「それじゃ・・私はホットココアでいいよ。」
メニューを見ないで亮平に告げると、また亮平は不機嫌な顔を見せた。
「お前なあ・・・何だよ。人が折角おごってやるって言ってるのにココアだけなんて・・。」
「だって・・今日は日曜日でしょう?だから・・。」
そこまで言いかけて私は口を閉ざした。しまった・・疲れすぎていたから頭も良く回らなかったんだ。土日は隆司さんと2人で夜ご飯を食べる約束をしているって事・・危うく口走りそうになってしまった。
「何だよ?日曜だと何かあるのか?あ・・・鈴音。お前・・・やっぱり・・。」
亮平がそこまで言いかけた時・・私のスマホが鳴った。
慌ててチラリとスマホを見ると・・着信相手は・・・言うまでも無く、隆司さんからだった―。
1
お気に入りに追加
812
あなたにおすすめの小説
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる