上 下
34 / 519

第3章 9 仮のお付き合いだけど・・・

しおりを挟む
 亮平は私が急に黙ってしまったのを不思議に思ったのか声を掛けてきた。

「おい、どうしたんだよ鈴音。うん・・?何だ、お前良く見れば顔色が悪いぞ?あ・・お前、まさか俺と忍さんが付き合うって話を聞いてショック受けているのか?」

「な、な、何言ってるのかな・・?ハハッ・・・そ、それくらいでショ、ショック受けるなんて・・・。」

図星をつかれ、思わず慌ててしまう私。

「嘘言うなよ。鈴音。さっきからお前・・・言葉噛みっぱなしだ。」

「う・・・。」

「やっぱりな~・・そうだと思ったよ。」

亮平は両腕を頭の後ろで組むと言った。

「な、何がやっぱりなのよ。」

言いながら私の心臓は口から今にも飛び出しそうだ。まさか・・・亮平・・気づいていたの・・?私が子供の頃から亮平の事を好きだった事に・・・。


しかし亮平の口から出てきた言葉は意外なものだった。

「お前、昔から忍さんにべったりだったからな。鈴音・・お前、俺に忍さんを取られそうで嫌だと思っているんだろう?」

へ・・?

思わずぽかんとした顔で亮平を見ると、私の頭を小突いてきた。

「お前なあ・・・いくら俺が忍さんと付き合ったって、姉妹の縁が切れるわけじゃないんだからそんな顔するなって。あ、それとももしかして俺が忍さんを泣かしたりするんじゃないかって思ってるんじゃないだろうな?」

「さ、さあ・・・それはどうかな~。」

内心の動揺を隠すために私はわざと軽いノリで言う。

「俺が忍さんを泣かすような真似なんかするはずないだろう?何せ俺は昔からずっと忍さんの事が好きだったんだから。それにな・・・まだ正式に付き合う話にはなっていないんだよ・・・。」

「え?それってどういう事?」

「うん・・・とりあえず1カ月お試しで付き合ってから正式に付き合うかどうか考えるって忍さんが言ったんだ。」

「え・・何それ・・・。」

それじゃあ、亮平は正式にお姉ちゃんとお付き合いが決まったわけでもないのに眠っているお姉ちゃんに勝手にキスしたって事になるんじゃない!
そのことに気づいた私の目に徐々に軽蔑の目が宿る・・・・。

「お、おい・・。何だ?お前のその眼付・・・何か怖いんだけど・・?」

亮平が一歩後ずさる。そんな態度を取るならこっちにだって考えがあるんだからね?
私はずんずん亮平に近づき、車まで追い詰めると亮平の襟首を掴むと言ってやった。

「この痴漢。」

「な、何で!この俺が痴漢なんだよっ!って・・まずいっ!」

亮平はここがしんと静まり返った夜の住宅街であった事を思い出したのか、慌てて口を押える。

「なんで俺が痴漢なんだよっ!」

亮平は小声で抗議してきた。

「だってそうでしょう?亮平とお姉ちゃんは仮のお付き合いでしょう?それってキスはダメなんじゃないの?」

「な、何言ってるんだよっ!キ・キスまでならいいって、忍さんから許可貰ってるんだよっ!」

亮平の言葉に私は今度こそ凍り付いた。え・・?キスまでならいい・・?お姉ちゃんから許可も貰ってる・・・?私は亮平の襟首から手を離した。心臓がうるさいほどにドキドキと鳴っている。駄目だ、私・・・。冷静にならなくちゃ・・・。

「あ・・・。」

思わず俯くと、亮平が声を掛けてくる。

「どうした?鈴音。」

「あ・・・な~んだ・・アハハハ。そうだったんだ~キスまでならOKだったんだね?それならそうと言ってくれれば良かったのに・・。」

「あのなあ・・・そんな事言う前にお前が勝手に思い込みしたんだろう?第一、どうして俺と忍さんの事お前に話さなくちゃならないんだよ。普通恋人同士の話を他の人間に話さないだろう?お前には何の関係も無いんだから。」

関係ない・・・。そうだ、確かに私には亮平とお姉ちゃんの事は関係無いんだ。

「うん、そうだったよね。いや~ごめんごめん。さて、それじゃお姉ちゃんを車から起こしてあげないと。」

私はわざと明るい声で助手席のドアを開けてお姉ちゃんを揺さぶった。

「お姉ちゃん。ほら、起きて。」

「う~ん・・・・。」

しかし、お姉ちゃんは全く目が覚める気配がない。

「仕方ないな・・・。鈴音、ちょっとどいてくれ。」

背後で亮平に言われ、どけると亮平はお姉ちゃんの膝と背中にスルリと腕を回して抱き上げた。

「!」

亮平は軽々とお姉ちゃんを御姫様抱っこすると私に言う。

「鈴音、玄関のドア開けてくれ。」

「う、うん。」

急いで玄関のドアを開けると亮平は靴を脱いで上がり込み、ソファの上にお姉ちゃんを横たわらせた。


「あ・・ははは・・・。亮平って・・力持ちなんだね・・。」

「忍さんは軽いからな。お前は・・・。」

そう言いながら亮平は私の事を頭のてっぺんからつま先まで見ると言った。

「ま・・・お前はあと2、3キロ・・ってな・何で睨むんだよっ!」

「そんなセリフ・・乙女に言っていいと思ってるのかな~。」

私の迫力に押されたのか、亮平は後ずさると言った。

「お・・俺、帰るわっ!じゃあなっ!」

そして脱兎のごとく逃げるように玄関から飛び出して行った。亮平が去って、姉の寝息だけが聞こえてくる。

「お姉ちゃん・・・。」

毛布を持ってくると眠っているお姉ちゃんにかけてあげた―。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜

浅大藍未
恋愛
国で唯一の公女、シオン・グレンジャーは国で最も有名な悪女。悪の化身とまで呼ばれるシオンは詳細のない闇魔法の使い手。 わかっているのは相手を意のままに操り、心を黒く染めるということだけ。 そんなシオンは家族から疎外され使用人からは陰湿な嫌がらせを受ける。 何を言ったところで「闇魔法で操られた」「公爵様の気を引こうとしている」などと信じてもらえず、それならば誰にも心を開かないと決めた。 誰も信用はしない。自分だけの世界で生きる。 ワガママで自己中。家のお金を使い宝石やドレスを買い漁る。 それがーーーー。 転生して二度目の人生を歩む私の存在。 優秀で自慢の兄に殺された私は乙女ゲーム『公女はあきらめない』の嫌われ者の悪役令嬢、シオン・グレンジャーになっていた。 「え、待って。ここでも死ぬしかないの……?」 攻略対象者はシオンを嫌う兄二人と婚約者。 ほぼ無理ゲーなんですけど。 シオンの断罪は一年後の卒業式。 それまでに生き残る方法を考えなければいけないのに、よりによって関わりを持ちたくない兄と暮らすなんて最悪!! 前世の記憶もあり兄には不快感しかない。 しかもヒロインが長男であるクローラーを攻略したら私は殺される。 次男のラエルなら国外追放。 婚約者のヘリオンなら幽閉。 どれも一巻の終わりじゃん!! 私はヒロインの邪魔はしない。 一年後には自分から出ていくから、それまでは旅立つ準備をさせて。 貴方達の幸せは致しません!! 悪役令嬢に転生した私が目指すのは平凡で静かな人生。

婚約者の浮気をゴシップ誌で知った私のその後

桃瀬さら
恋愛
休暇で帰国中のシャーロットは、婚約者の浮気をゴシップ誌で知る。 領地が隣同士、母親同士の仲が良く、同じ年に生まれた子供が男の子と女の子。 偶然が重なり気がついた頃には幼馴染み兼婚約者になっていた。 そんな婚約者は今や貴族社会だけではなく、ゴシップ誌を騒がしたプレイボーイ。 婚約者に婚約破棄を告げ、帰宅するとなぜか上司が家にいた。 上司と共に、違法魔法道具の捜査をする事となったシャーロットは、捜査を通じて上司に惹かれいくが、上司にはある秘密があって…… 婚約破棄したシャーロットが幸せになる物語

彼女たちは爛れたい ~性に積極的すぎる彼女たちと普通の青春を送りたい俺がオトナになってしまうまで~

邑樹 政典
青春
【ちょっとエッチな青春ラブコメディ】(EP2以降はちょっとではないかも……)  EP1.  高校一年生の春、俺は中学生時代からの同級生である塚本深雪から告白された。  だが、俺にはもうすでに綾小路優那という恋人がいた。  しかし、優那は自分などに構わずどんどん恋人を増やせと言ってきて……。  EP2.  すっかり爛れた生活を送る俺たちだったが、中間テストの結果発表や生徒会会長選の案内の折り、優那に不穏な態度をとるクラスメイト服部香澄の存在に気づく。  また、服部の周辺を調べているうちに、どうやら彼女が優那の虐めに加担していた姫宮繭佳と同じ中学校の出身であることが判明する……。      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  本作は学生としてごく普通の青春を謳歌したい『俺』ことセトセイジロウくんと、その周りに集まる性にアグレッシブすぎる少女たちによるドタバタ『性春』ラブコメディです。  時にはトラブルに巻き込まれることもありますが、陰湿な展開には一切なりませんので安心して読み進めていただければと思います。  エッチなことに興味津々な女の子たちに囲まれて、それでも普通の青春を送りたいと願う『俺』はいったいどこまで正気を保っていられるのでしょうか……?  ※今作は直接的な性描写はこそありませんが、それに近い描写やそれを匂わせる描写は出てきます。とくにEP2以降は本気で爛れてきますので、そういったものに不快に感じられる方はあらかじめご注意ください。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 本作の感想欄を開けました。 お返事等は書ける時間が取れそうにありませんが、感想頂けたら嬉しいです。 賞を頂いた記念に、何かお礼の小話でもアップできたらいいなと思っています。 リクエストありましたらそちらも書いて頂けたら、先着三名様まで受け付けますのでご希望ありましたら是非書いて頂けたら嬉しいです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

僕は弟を救うため、無自覚最強の幼馴染み達と旅に出た。奇跡の実を求めて。そして……

久遠 れんり
ファンタジー
五歳を過ぎたあたりから、体調を壊し始めた弟。 お医者さんに診断を受けると、自家性魔力中毒症と診断される。 「大体、二十までは生きられないでしょう」 「ふざけるな。何か治療をする方法はないのか?」 その日は、なにも言わず。 ただ首を振って帰った医者だが、数日後にやって来る。 『精霊種の住まう森にフォビドゥンフルーツなるものが存在する。これすなわち万病を癒やす霊薬なり』 こんな事を書いた書物があったようだ。 だが、親を含めて、大人達はそれを信じない。 「あての無い旅など無謀だ」 そう言って。 「でも僕は、フィラデルを救ってみせる」 そして僕は、それを求めて旅に出る。 村を出るときに付いてきた幼馴染み達。 アシュアスと、友人達。 今五人の冒険が始まった。 全くシリアスではありません。 五人は全員、村の外に出るとチートです。ご注意ください。 この物語は、演出として、飲酒や喫煙、禁止薬物の使用、暴力行為等書かれていますが、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。またこの物語はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは関係ありません。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

処理中です...