上 下
21 / 519

第2章 11 姉と私と亮平の涙

しおりを挟む
 お姉ちゃんの様子を伺い、私は部屋のドアを閉めると階下に降りた。リビングルームには亮平が頭を押さえてソファの上に座っている。

「亮平。」

私がそっと名前を呼ぶと、亮平は素早く頭を上げて私を見た。

「どうだ・・?忍さんの様子は・・・。」

「うん・・・始めのうちは・・大分興奮して・・泣き叫んでいたけど・・今はもう泣き疲れて眠ってる。多分一睡もしていないんだと思う・・。」

そして私も亮平の隣にすわり、ため息をついた。


 それは突然の出来事だった。
姉と進さんは2人でデートをしていた。交差点で信号待ちをしていて、信号が青になったので渡って歩いていたら、そこへ1台の車が猛スピードで突っ込んできた。進さんは咄嗟に姉を突き飛ばし・・・姉の目の前で車に轢かれてしまった。そしてあろう事かその車はそのまま走り去ってしまった・・・。ひき逃げだったのだ。
辺りは騒然となった。
取り乱した姉を周囲にいた人たちが何とか落ち着かせ、すぐに救急車が呼ばれた。
進さんは救急車で運ばれ、突き飛ばされた事で怪我をした姉も同じ病院に運ばれた。
車に轢かれた進さんは5時間にも及ぶ手術を受けたものの、結局助からなかった。
一方の姉は打撲の治療を受けた後、進さんの両親と手術が終わるのをずっと待っていたが、手術を終えた医師から進さんが帰らぬ人となった事にショックを受け、気を失ってしまい・・私とは一切連絡が途絶えてしまっていたらしい。
そしてやっと目を覚ました姉は進さんの両親に言われ、帰宅してきたのだった。

「信じられないよ・・・。進さんが・・・死んでしまったなんて・・・。」

私は震えながら言った。
何て可愛そうなお姉ちゃん。お父さんもお母さんも死んでしまって苦労して・・私の面倒を見てくれて、進さんという恋人が出来てようやく今年結婚して幸せになるはずだったのに・・・。

「俺が悪いんだ・・・。」

亮平が口を開いた。

「え・・?何が悪いの・・?」

一体亮平は何を言っているのだろう。

「俺が・・・忍さんの事を好きだったから・・・忍さんの恋人の事を妬んで・・。」

亮平が頭を抱えた。

「ちょっと・・・亮平、落ち着いて。」

私は亮平の肩に手を置いた。

「そうだ・・俺は願った事もある。あいつなんかいなくなってしまえばいいのにって・・。俺がそんな事を願ったから・・・あの人は・・・っ!」

「亮平っ!」

パンッ!!

私は亮平の頬を叩いた。

「鈴音・・・?」

亮平は呆然と私の顔を見た。

「自分のせい?進さんがいなくなってしまえばいいのにって願ったから?ふざけないでよっ!」

いつしか私は泣いていた。

「進さんが死んでしまったのは・・・車に轢かれたから・・・そして轢いた相手は逃げたのよっ?!亮平のせいじゃないっ!進さんは・・・殺されたんだからっ!だから私達に出来る事は・・ひき逃げ犯を捕まえて・・・罪を償わせる事よっ!そして・・お姉ちゃんの笑顔を取り戻す事なんだからっ!」

気付けば私の顔は涙でグチャグチャになっていた。亮平も泣いていた。
私と亮平は・・・2人で抱き合ったまま、涙が枯れるまで泣き続けた―。

しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

偽りの結婚生活 ~私と彼の6年間の軌跡

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
偽りの結婚をした男性は決して好きになってはいけない私の初恋の人でした― 大手企業に中途採用された「私」。だけどその実態は仮の結婚相手になる為の口実・・。 これは、初恋の相手を好きになってはいけない「私」と「彼」・・そして2人を取り巻く複雑な人間関係が繰り広げられる6年間の結婚生活の軌跡の物語—。 <全3部作:3部作目で完結です:終章に入りました:本編完結、番外編完結しました> ※カクヨム・小説家になろうにも投稿しています

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)
恋愛
少女プリシラには大好きな人がいる、でも適当にあしらわれ相手にして貰えない。 幼過ぎた彼女は上位騎士を目指す彼に恋慕するが、彼は口もまともに利いてくれなかった。 やがて成長したプリシラは初恋と決別することにした。 すっかり諦めた彼女は見合いをすることに…… だが、美しい乙女になった彼女に魅入られた騎士クラレンスは今更に彼女に恋をした。 二人の心は交わることがあるのか。

処理中です...