上 下
20 / 519

第2章 10 訃報

しおりを挟む
 亮平のくれた痛み止めのお陰で片頭痛は収まり、何とか1日の業務をこなす事が出来た。そして今日の私は残業当番の日・・・。

「加藤さん。今日は残業だけど・・・大丈夫?」

早番で帰る井上君が心配そうに帰り際声を掛けて来てくれた。

「う~ん・・・どうかなあ・・。でもほら、痴漢は逮捕された訳だし?多分大丈夫・・・かなあ?そうだ!明日は仕事が休みだから自転車買いに行こうかな?」

そうだ、自転車を買えば良かったんだ。たかだか駅まで10分程度だったから自転車の事考えて居なかったけど・・・徒歩よりはずっと安全に帰れそうな気がする。

「ああ、それはいいね。自転車ならいいんじゃないかな?それじゃ・・本当に帰りは気を付けた方がいいからね?」

井上君は何故か必要以上に心配してくれる。その優しさ亮平にもあったらなあ・・・。
それじゃあお疲れさまでしたと井上君は皆に挨拶して帰って行った。さて、私も後ひと踏ん張りしなくちゃ。


「あちゃ~・・・遅くなっちゃたな・・。」

今の時刻は夜の9時。これから電車に乗って地元の駅に着くのは9時30頃。そこから歩きか・・・。私は溜息をついた。
それにしても・・・今私が一番気になっているのは昨日からお姉ちゃんと連絡が取れなくなっている事。一体何があったんだろう・・・。こんな丸1日たっても連絡が取れない事って今迄無かったのに・・。何だろう?何だがすごく嫌な予感がしてならない。
その時、突然スマホが鳴った。

「うわあっ!」

手にしていたスマホが鳴り響いたので、びっくりした私は思わずスマホを落しそうになってしまった。着信相手を見ると亮平からである。

「亮平・・?一体どうしたんだろう・・?」

私はスマホをタップすると電話に出た。

「はい、もしもし。」

『鈴音か?今何処だ?』

「何処って・・・。」

 私はこれから電車に乗って帰る事を伝えると、亮平は言った。

『よし、駅で待ってるからな。だから勝手に歩いて帰ったりするなよ?』

「うん!ありがとう!大好きだよ!」

どさくさに紛れて言ってみた。

『ば~か、気持ち悪い事言うなよ。』

変な返しをされてしまった。ちぇ・・・やっぱり本気で受け取ってくれなかったか。だから私も胡麻化すことにした。

「アハハハ・・・そうだよね。ちょっと気持ち悪かったかもね。でも・・有難う。」

それだけ言うと私は電話を切って、電車に乗り込んだ―。



「おーい、鈴音!」

車のドアを開けて身を乗り出している亮平を発見した。

「あ、亮平!」

私は手をブンブン振って亮平の車へ駆け寄った。

「どうもありがとう~。助かるわ・・朝も帰りも送って貰えるなんて夢みたい。」

すると、何を思ったか亮平は私のほっぺたをつねりあげた。

「痛い痛いっ!ちょ、ちょっと何するのっ!」

私は怒って抗議すると亮平はニヤニヤしながら言った。

「いや~夢みたいッて言ったから抓ってやろうと思って。痛かったか?」

「だから痛いって言ったでしょう?」

「まあいいや。それじゃ行くぞ。」

亮平はエンジンを掛けるとアクセルを踏んだ―。



「なあ・・・所で忍さんはどうしたんだ?まだ帰っていないんだけど・・。」

その言葉を聞いて私は凍り付いた。

「えっ?!嘘っ?!」

「何?鈴音・・・ひょとしてお前の所にも連絡が入っていないのか?!」

亮平が青ざめた顔で私を見る。

「う、うん・・・。」

返事をする私の声が自然と震えてしまう。何だろう・・?何かあったのかな・・・?どうしようもない程の不安感で胸が押しつぶされそうになった。何だかとてつも無く嫌な予感がする。

「・・・急ぐぞ、鈴音。」

亮平は前を見つめたまま言う。

「うん。お願い。」

亮平はさっきよりも一段とアクセルを強く踏んだ―。


「あ・・明かりがついている。」

急いで車から降りると私は家の中に飛び込んで、驚いた。
お姉ちゃんが居間に座りこんだまま涙を流していたからだ。

「お姉ちゃん!どうしたのっ?!」

「鈴音ちゃん・・・進さんが・・・。」

「え?進さんが?」

「進さんが死んじゃったーっ!!」

姉は絶叫し、私にしがみ付くと激しく泣きじゃくった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。 18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。 帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。 泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。 戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。 奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。 セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。 そしてその将兵は‥‥。 ※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※頑張って更新します。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

処理中です...