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2章 3 初めての顔合わせ 1
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――11時
アンジェリカはヘレナに付き添われて、ガゼボで待っていた。
「お相手のセルヴィ様はまだいらっしゃらないようですね」
ヘレナがキョロキョロ辺りを見渡す。
「もしかしてセルヴィ様は私とのお見合いが嫌で、来るのをやめてしまったのかしら……」
アンジェリカが心配そうに呟いた。
「何を仰っているのですか? そのようなことは断じてありません。大丈夫、きっといらっしゃいます。ご安心ください」
ヘレナは力強く否定するも、心の中ではヤキモキしていた。
(本当に、旦那様はどこまで冷たいお方なのかしら。本来であればヴァレンシア家と縁戚関係を結ぶ為の大切なお見合いなのだから、アンジェリカ様に付き添うべきなのに……1人でガゼボに行かせようとするなんて)
チャールズは、アンジェリカに1人でガゼボに行くように命じたのだ。そこで黙っていられなくなったヘレナは自ら付き添いを願い出た。
勿論チャールズは良い顔をしなかったが、勝手にしろと言ってきたのだった。
「はぁ……」
アンジェリカがため息をついたので、ヘレナは笑顔で声をかけた。
「アンジェリカ様、不安なお気持ちは分かりますが笑顔ですよ。セルヴィ様に気に入っていただきたいのですよね?」
「分かったわ、笑顔ね」
アンジェリカが頷いたそのとき、茂みの奥から話し声がこちらに近づいて来た。
「あのガゼボがそうですか?」
「はい、そうです。あそこで娘のアンジェリカが待っております」
その声はチャールズの声だった。
「お父様の声だわ」
アンジェリカが席を立ち上がった直後庭に植えた木々から、紳士と少年を連れてチャールズが現れた。
「おお、あの子がアンジェリカさんですか?」
品の良い紳士がチャールズに尋ねる。
「ええ、そうです。娘のアンジェリカですよ。アンジェリカ、挨拶をなさい」
チャールズは笑顔でアンジェリカに話しかけた。それは今まで一度も聞いたことが無いような優しい声だった。
(お父様が私に笑いかけてくれた……!)
アンジェリカはそのことが嬉しく、笑顔で挨拶をした。
「はじめまして、アンジェリカと申します」
「これは愛らしいお嬢さんだ。私はマイク・ヴァレンシア。君のお父さんとは懇意にしている。そして、後ろにいるのが息子のセルヴィだ。ほら、セルヴィ。お前の婚約者になる子だ。挨拶しなさい」
父親に言われて前に出てきたのはダークブラウンの髪にヘーゼルの瞳を持つ少年。
「……はじめまして。セルヴィです」
そしてすぐに口を閉ざしてしまった。
「それでは、後は2人で話をするといい。アンジェリカ、しっかり彼のお世話をするように」
「はい、お父様」
次にチャールズはヘレナに視線を移す。
「ヘレナ。お前も下がれ。茶なら、後で別のメイドに運ばせる」
「……はい、旦那様」
本当はアンジェリカの側についていたかったが、当主の命令には従うしかない。
「アンジェリカ様、私は席を外させて頂きますね」
「ええ」
アンジェリカは頷き、ヘレナは一礼するとその場を去って行った。
「さて、ヴァレンシア伯爵。我々も席を外しましょう」
チャールズがヴァレンシア伯爵に声をかけた。
「そうですね、セルヴィ、アンジェリカと仲良くするのだぞ」
「はい」
セルヴィが頷くと、大人二人は談笑しながら去って行った――
アンジェリカはヘレナに付き添われて、ガゼボで待っていた。
「お相手のセルヴィ様はまだいらっしゃらないようですね」
ヘレナがキョロキョロ辺りを見渡す。
「もしかしてセルヴィ様は私とのお見合いが嫌で、来るのをやめてしまったのかしら……」
アンジェリカが心配そうに呟いた。
「何を仰っているのですか? そのようなことは断じてありません。大丈夫、きっといらっしゃいます。ご安心ください」
ヘレナは力強く否定するも、心の中ではヤキモキしていた。
(本当に、旦那様はどこまで冷たいお方なのかしら。本来であればヴァレンシア家と縁戚関係を結ぶ為の大切なお見合いなのだから、アンジェリカ様に付き添うべきなのに……1人でガゼボに行かせようとするなんて)
チャールズは、アンジェリカに1人でガゼボに行くように命じたのだ。そこで黙っていられなくなったヘレナは自ら付き添いを願い出た。
勿論チャールズは良い顔をしなかったが、勝手にしろと言ってきたのだった。
「はぁ……」
アンジェリカがため息をついたので、ヘレナは笑顔で声をかけた。
「アンジェリカ様、不安なお気持ちは分かりますが笑顔ですよ。セルヴィ様に気に入っていただきたいのですよね?」
「分かったわ、笑顔ね」
アンジェリカが頷いたそのとき、茂みの奥から話し声がこちらに近づいて来た。
「あのガゼボがそうですか?」
「はい、そうです。あそこで娘のアンジェリカが待っております」
その声はチャールズの声だった。
「お父様の声だわ」
アンジェリカが席を立ち上がった直後庭に植えた木々から、紳士と少年を連れてチャールズが現れた。
「おお、あの子がアンジェリカさんですか?」
品の良い紳士がチャールズに尋ねる。
「ええ、そうです。娘のアンジェリカですよ。アンジェリカ、挨拶をなさい」
チャールズは笑顔でアンジェリカに話しかけた。それは今まで一度も聞いたことが無いような優しい声だった。
(お父様が私に笑いかけてくれた……!)
アンジェリカはそのことが嬉しく、笑顔で挨拶をした。
「はじめまして、アンジェリカと申します」
「これは愛らしいお嬢さんだ。私はマイク・ヴァレンシア。君のお父さんとは懇意にしている。そして、後ろにいるのが息子のセルヴィだ。ほら、セルヴィ。お前の婚約者になる子だ。挨拶しなさい」
父親に言われて前に出てきたのはダークブラウンの髪にヘーゼルの瞳を持つ少年。
「……はじめまして。セルヴィです」
そしてすぐに口を閉ざしてしまった。
「それでは、後は2人で話をするといい。アンジェリカ、しっかり彼のお世話をするように」
「はい、お父様」
次にチャールズはヘレナに視線を移す。
「ヘレナ。お前も下がれ。茶なら、後で別のメイドに運ばせる」
「……はい、旦那様」
本当はアンジェリカの側についていたかったが、当主の命令には従うしかない。
「アンジェリカ様、私は席を外させて頂きますね」
「ええ」
アンジェリカは頷き、ヘレナは一礼するとその場を去って行った。
「さて、ヴァレンシア伯爵。我々も席を外しましょう」
チャールズがヴァレンシア伯爵に声をかけた。
「そうですね、セルヴィ、アンジェリカと仲良くするのだぞ」
「はい」
セルヴィが頷くと、大人二人は談笑しながら去って行った――
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