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1章 9 ヘレナの推測

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 7日後――

シルバーの怪我の状態も良くなり、今では包帯もとれて歩けるほどにまで回復していた。


「はい、シルバー。食事の時間よ」

アンジェリカがシルバーの前に餌を置いた。餌と言っても、メニューは人の食べるものとさほど変わりは無い。
焼いたお肉に、野菜のソテー。そしてミルクにパン。これがシルバーの食事だ。

「ワン!」

シルバーは嬉しそうに吠えると、皿に顔をつけてムシャムシャと食べ始めた。
その様子をアンジェリカとヘレナ、そして専属メイドのニアがじっと見つめていた。

「フフフ、美味しい? シルバー」

尻尾を振りながら食事をしているシルバーにアンジェリカは笑顔で声をかける。

「それにしても、この子犬は不思議ですね。犬なのに、生肉は見向きもしないのですから」

ヘレナが首を傾げた。

実は初日に餌として新鮮な生肉を用意したのだが、シルバーはそっぽを向いて決して口にしようとはしなかったのだ。その代わり、アンジェリカの食事を欲しがった。
そこで、シルバーの食事は全てアンジェリカと同じ料理が用意されるようになったのだった。

「もしかすると、シルバーはどこか高貴な方に飼われていたのではないでしょうか? それで人と同じ食事を……あ! も、申し訳ございません!」

ニアは自分が失言したことに気付き、慌てて謝った。何故なら、アンジェリカの顔に寂しげな表情が浮かんでいたからだ。
「そう……なのかしら。シルバーは、やっぱり誰かに飼われていたのかしら……だとしたら飼い主が見つかれば……返さないと……」

「ニア、言動には気をつけなさい」

ヘレナはニアを窘める。

「はい……失言でした。本当に申し訳ございません」

ニアが謝ると、ヘレナはアンジェリカに話しかけた。

「アンジェリカ様。実はシルバーを保護した翌日に、迷い犬を預かっていると貼り紙を作って、町のあちこちに貼り出したのですよ。でも今の所飼い主だと名乗り出てくる人がおりません。なので、もしかするとシルバーは飼い犬では無かったのかもしれませんよ?」

チャールズは滅多に町に出ることはない。恐らく貼り紙を出しても気付くことは無いだろうと思い、新聞社に勤めている知り合いに頼んで迷い犬の貼り紙を作成して貰っていたのだった。

「え? それって……?」

「はい、シルバーはひょっとすると野良犬だったのかもしれません。それで餌につられて罠にひっかかってしまったのではないでしょうか?」

「なら、ずっと一緒にいられるかもしれないのね?」

アンジェリカは嬉しそうに笑う。

「ええ、そうですね」

「良かったね、シルバー」

アンジェリカは餌を食べているシルバーの頭をそっと撫でる。

「……」

その様子を見つめながら、ヘレナはあることを危惧していた。それは、シルバーが高貴な家柄の人物に飼われていたのではないかということだ。

実はシルバーが保護された場所で、宝石が埋め込まれたブレスレットが落ちていたのだ。発見したのはトムで、すぐにヘレナに預けてきたのである。

(あのブレスレットはかなりの値打ちの物だわ。もし、シルバーの物だとすれば……飼い主は必死になって行方を捜しているかもしれない)

飼い主が見つかる前にチャールズにシルバーの存在がバレてしまえば、何をされるか分かったものでは無い。

(アンジェリカ様には気の毒だけど……この屋敷でシルバーを飼うのは危険だわ……)

ヘレナは心の中で、飼い主が早く見つかることを祈るのだった――

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