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1章 6 銀色の子犬
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「あら? 今の音は何かしら?」
アンジェリカは花束を足元に置くと、門に近付いて外をのぞきこんだ。すると、門扉のすぐ傍に罠にかかって右後ろ脚を罠に挟まれた銀色の子犬を発見した。
子犬は余程足が痛いのか、声も出さずにブルブル震えている。
「痛そう……なんて可哀そうなの……」
アンジェリカの気配に気づいたのか子犬は顔上げて低く唸りだした。
「ウゥウゥ~……」
普通の子供なら怯むだろうが、アンジェリカは大の動物好きだった。
そろそろと近付くと、子犬はさらに低く唸る。
「大丈夫よ、怖くないわ……」
アンジェリカが子犬に手を伸ばしたその瞬間。
「ガウッ!」
子犬が突然アンジェリカの差し出してきた右手に噛みついた。
「うっ!」
アンジェリカの手に子犬の歯が食い込み、思わず顔を痛みで歪めるも何とか笑顔を作る。
「よしよし……」
左手で子犬の頭を撫でると、何かに気付いたかのように子犬は噛むのをやめてアンジェリカの手が解放された。
アンジェリカの手には歯形がつき、そこから血が滲んでいる。
「くぅ~ん……」
途端に子犬は尻尾を垂れて、傷付いたアンジェリカの手をぺろぺろと舐め始めた。
「もしかして心配してくれているの? いい子ね」
その時――
「アンジェリカ様―! どこですかー!」
門の中から庭師のトムの声が聞こえてくる。
「ここよー!」
大きな声で返事をすると、トムが慌てた様子で姿を現した。
「アンジェリカ様、どうして門の外に出ていたのですか? お姿が見えなくなったので心配したのですよ。一体ここで何を……え!? その右手はどうなさったのですか!?」
アンジェリカの怪我に気付き、トムはギョッとした表情を浮かべる。
「トムさん。子犬の罠を外して!」
アンジェリカは自分の怪我も顧みず、足元にいる子犬を指さして訴えた・
「え? 子犬……? あ! 罠にかかってしまったのですね?」
トムは軍手をはめると、子犬の足元にしゃがみと慎重に罠を外した。
ガチャン!
音を立てて罠を外すと子犬はすぐに背を向け、フラフラと傷付いた後ろ足を引きずるように森の中へ歩いていく。
「あ! 待ってワンちゃん! 何処へ行くの!?」
慌ててアンジェリカは後を追うと、子犬はすぐに倒れてしまった。
「ワンちゃん!」
アンジェリカが駆け寄ると、子犬は目を閉じてピクリとも動かない。
「そんな……! まさか、死んじゃったの!?」
するとトムが子犬の様子をじっと見つめ、首を振った。
「大丈夫です。息をしていますよ。気を失ってしまったのでしょう」
「本当? 死んでいないのね?」
「ええ。勿論です。でもすぐに連れ帰って手当てをしないと」
トムは子犬を抱き上げると、2人は屋敷へ向かった。
****
一方、その頃屋敷では姿が見えなくなったアンジェリカを捜して使用人達が大騒ぎになっていた。
「一体、アンジェリカ様は何処へ行ってしまったのかしら……! 私がもっと気を使っていれば……こんなことにはならなかったのに……!」
ヘレナは顔を覆って床に座り込んでしまった。
「落ち着いて下さい! ヘレナさん! アンジェリカ様はまだ5歳です。必ず見つかりますから!」
ニアがヘレナに声をかけたそのとき。
「アンジェリカ様が見つかりました!」
捜索に加わっていたフットマンが駆けつけてきた――
アンジェリカは花束を足元に置くと、門に近付いて外をのぞきこんだ。すると、門扉のすぐ傍に罠にかかって右後ろ脚を罠に挟まれた銀色の子犬を発見した。
子犬は余程足が痛いのか、声も出さずにブルブル震えている。
「痛そう……なんて可哀そうなの……」
アンジェリカの気配に気づいたのか子犬は顔上げて低く唸りだした。
「ウゥウゥ~……」
普通の子供なら怯むだろうが、アンジェリカは大の動物好きだった。
そろそろと近付くと、子犬はさらに低く唸る。
「大丈夫よ、怖くないわ……」
アンジェリカが子犬に手を伸ばしたその瞬間。
「ガウッ!」
子犬が突然アンジェリカの差し出してきた右手に噛みついた。
「うっ!」
アンジェリカの手に子犬の歯が食い込み、思わず顔を痛みで歪めるも何とか笑顔を作る。
「よしよし……」
左手で子犬の頭を撫でると、何かに気付いたかのように子犬は噛むのをやめてアンジェリカの手が解放された。
アンジェリカの手には歯形がつき、そこから血が滲んでいる。
「くぅ~ん……」
途端に子犬は尻尾を垂れて、傷付いたアンジェリカの手をぺろぺろと舐め始めた。
「もしかして心配してくれているの? いい子ね」
その時――
「アンジェリカ様―! どこですかー!」
門の中から庭師のトムの声が聞こえてくる。
「ここよー!」
大きな声で返事をすると、トムが慌てた様子で姿を現した。
「アンジェリカ様、どうして門の外に出ていたのですか? お姿が見えなくなったので心配したのですよ。一体ここで何を……え!? その右手はどうなさったのですか!?」
アンジェリカの怪我に気付き、トムはギョッとした表情を浮かべる。
「トムさん。子犬の罠を外して!」
アンジェリカは自分の怪我も顧みず、足元にいる子犬を指さして訴えた・
「え? 子犬……? あ! 罠にかかってしまったのですね?」
トムは軍手をはめると、子犬の足元にしゃがみと慎重に罠を外した。
ガチャン!
音を立てて罠を外すと子犬はすぐに背を向け、フラフラと傷付いた後ろ足を引きずるように森の中へ歩いていく。
「あ! 待ってワンちゃん! 何処へ行くの!?」
慌ててアンジェリカは後を追うと、子犬はすぐに倒れてしまった。
「ワンちゃん!」
アンジェリカが駆け寄ると、子犬は目を閉じてピクリとも動かない。
「そんな……! まさか、死んじゃったの!?」
するとトムが子犬の様子をじっと見つめ、首を振った。
「大丈夫です。息をしていますよ。気を失ってしまったのでしょう」
「本当? 死んでいないのね?」
「ええ。勿論です。でもすぐに連れ帰って手当てをしないと」
トムは子犬を抱き上げると、2人は屋敷へ向かった。
****
一方、その頃屋敷では姿が見えなくなったアンジェリカを捜して使用人達が大騒ぎになっていた。
「一体、アンジェリカ様は何処へ行ってしまったのかしら……! 私がもっと気を使っていれば……こんなことにはならなかったのに……!」
ヘレナは顔を覆って床に座り込んでしまった。
「落ち着いて下さい! ヘレナさん! アンジェリカ様はまだ5歳です。必ず見つかりますから!」
ニアがヘレナに声をかけたそのとき。
「アンジェリカ様が見つかりました!」
捜索に加わっていたフットマンが駆けつけてきた――
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