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1章 1 愛らしい少女
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――5年後
背中まで届くライトゴールドの髪にブルーアイの美しい瞳のアンジェリカは、とても愛らしい少女に成長していた。
父親から一切の愛情を貰えないまま5年という歳月が流れてしまったものの、彼女の周囲には優しい侍女や使用人たちが側にいて常に見守ってくれていたので少しも孤独では無かった。
けれども……。
「あら? アンジェリカ様。一体何を熱心に描かれているのですか?」
10時のお茶を運んで来たニアが、クレヨンで画用紙に絵を描くアンジェリカに尋ねた。
「あのね、もうすぐお父様のお誕生日でしょう? だから絵をプレゼントしようかと思ってお絵描きしていたの」
アンジェリカは笑顔で画用紙の絵を見せた。そこにはアンジェリカと父親のカーティスが笑顔で手を繋いでいる絵が描かれている。
「まぁ、とても素敵な絵ですね。アンジェリカ様から絵をプレゼントされれば、きっと旦那様は喜ばれるに違いありません」
「本当? お父様、喜んでくれるかしら」
絵を褒められたアンジェリカは嬉しそうに笑う。
「ええ、もちろんですとも。ではお茶にいたしましょう」
「うん!」
ニアはカップにアップルティーを注ぎ、クッキーが乗せられた皿をアンジェリカの前に置いた。途端に部屋の中にリンゴの良い香りが漂う。
「ありがとう、ニア。いい匂いだね」
香りを吸い込むアンジェリカ。
「フフ、どうぞお召上がり下さい」
アンジェリカは早速クッキーをほおばり、アップルティーを飲む。
「このクッキーと紅茶、おいしいね」
「おかわりはまだありますので、いつでもおっしゃって下さいね?」
「うん!」
美味しそうにクッキーを食べているアンジェリカの側で、ニアは改めて絵を見つめる。
絵の中のカーティスは笑顔でアンジェリカの手を繋ぎ、誰が見ても仲の良い親子に見えた。
だが実際は違う。カーティスは、この5年間一度たりとも自ら足を運んでアンジェリカの元を訪ねたことはなく、食事すらほとんど一緒にとったことは無かったのだ。
(可哀そうなアンジェリカ様……口には出さないけれども、旦那様のことが恋しくてならないのだわ)
父親からの愛を求めているアンジェリカが気の毒で、思わずニアの目頭が熱くなる。
「どうしたの? ニア。おめめが赤いよ?」
不意にアンジェリカに声をかけられ、我に返った。
「い、いえ。何でもありません。ちょっと目にゴミが入ってしまったようです。ところでヘレナ様はどちらへ行かれたのですか?」
ニアは目をゴシゴシこすった。
「あのね、お父様の所へ行ってくるって言ってたよ?」
「え!? 旦那様のところへですか!?」
「うん、何だか大事な話があるって。私も行きたかったけど、いけませんって言われちゃった」
そして再びアンジェリカはクッキーを口に入れる。
「そうでしたか……」
今の話で、ニアは気付いた。
(きっと、ヘレナ様はもうすぐチャールズ様の誕生日だから、アンジェリカ様とお祝いの席を設ける為に説得に行かれたのね)
ヘレナにとってアンジェリカはアンジェリーナの大切な忘れ形見であり、我が子のように可愛らしい存在だった。
娘を顧みようとしないチャールズに、せめて誕生日くらいは一緒に過ごして貰えないかと頼みに行ったのだ。
(アンジェリカ様を一緒に連れて行かなかったのは、目の前で断られた時傷つけたくなかったからに違いないわ……)
きっと今年もチャールズに断られるに違いないだろう。
ニアは心の中でため息をつくのだった――
背中まで届くライトゴールドの髪にブルーアイの美しい瞳のアンジェリカは、とても愛らしい少女に成長していた。
父親から一切の愛情を貰えないまま5年という歳月が流れてしまったものの、彼女の周囲には優しい侍女や使用人たちが側にいて常に見守ってくれていたので少しも孤独では無かった。
けれども……。
「あら? アンジェリカ様。一体何を熱心に描かれているのですか?」
10時のお茶を運んで来たニアが、クレヨンで画用紙に絵を描くアンジェリカに尋ねた。
「あのね、もうすぐお父様のお誕生日でしょう? だから絵をプレゼントしようかと思ってお絵描きしていたの」
アンジェリカは笑顔で画用紙の絵を見せた。そこにはアンジェリカと父親のカーティスが笑顔で手を繋いでいる絵が描かれている。
「まぁ、とても素敵な絵ですね。アンジェリカ様から絵をプレゼントされれば、きっと旦那様は喜ばれるに違いありません」
「本当? お父様、喜んでくれるかしら」
絵を褒められたアンジェリカは嬉しそうに笑う。
「ええ、もちろんですとも。ではお茶にいたしましょう」
「うん!」
ニアはカップにアップルティーを注ぎ、クッキーが乗せられた皿をアンジェリカの前に置いた。途端に部屋の中にリンゴの良い香りが漂う。
「ありがとう、ニア。いい匂いだね」
香りを吸い込むアンジェリカ。
「フフ、どうぞお召上がり下さい」
アンジェリカは早速クッキーをほおばり、アップルティーを飲む。
「このクッキーと紅茶、おいしいね」
「おかわりはまだありますので、いつでもおっしゃって下さいね?」
「うん!」
美味しそうにクッキーを食べているアンジェリカの側で、ニアは改めて絵を見つめる。
絵の中のカーティスは笑顔でアンジェリカの手を繋ぎ、誰が見ても仲の良い親子に見えた。
だが実際は違う。カーティスは、この5年間一度たりとも自ら足を運んでアンジェリカの元を訪ねたことはなく、食事すらほとんど一緒にとったことは無かったのだ。
(可哀そうなアンジェリカ様……口には出さないけれども、旦那様のことが恋しくてならないのだわ)
父親からの愛を求めているアンジェリカが気の毒で、思わずニアの目頭が熱くなる。
「どうしたの? ニア。おめめが赤いよ?」
不意にアンジェリカに声をかけられ、我に返った。
「い、いえ。何でもありません。ちょっと目にゴミが入ってしまったようです。ところでヘレナ様はどちらへ行かれたのですか?」
ニアは目をゴシゴシこすった。
「あのね、お父様の所へ行ってくるって言ってたよ?」
「え!? 旦那様のところへですか!?」
「うん、何だか大事な話があるって。私も行きたかったけど、いけませんって言われちゃった」
そして再びアンジェリカはクッキーを口に入れる。
「そうでしたか……」
今の話で、ニアは気付いた。
(きっと、ヘレナ様はもうすぐチャールズ様の誕生日だから、アンジェリカ様とお祝いの席を設ける為に説得に行かれたのね)
ヘレナにとってアンジェリカはアンジェリーナの大切な忘れ形見であり、我が子のように可愛らしい存在だった。
娘を顧みようとしないチャールズに、せめて誕生日くらいは一緒に過ごして貰えないかと頼みに行ったのだ。
(アンジェリカ様を一緒に連れて行かなかったのは、目の前で断られた時傷つけたくなかったからに違いないわ……)
きっと今年もチャールズに断られるに違いないだろう。
ニアは心の中でため息をつくのだった――
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