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第60話 ユリアンの秘密
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「そんな…私はてっきり王宮に招かれたのは国王陛下が父に用事があるからだと思っていたのに…違ったのね…?本当は…呼ばれてたのは私だったって事なの…?」
だけど私はその日、体調を崩してしまって王宮に行く事が出来なかった。代わりに父と母だけが馬車に乗り…事故が起きて2人は還らぬ人に…。
「お…お父様…お母さま…」
私は顔を覆って泣き崩れた。
「フィーネ…。ノイヴァンシュタイン家のせいで本当に申し訳ないことをしてしまった。だから私はフィーネの手助けがしたくてアドラー家のフットマンとしてこの屋敷にやってきたんだ…」
ユリアンが私の髪にそっと触れながら声を振り絞る様に語り掛けて来る。
「だ、だけど…両親が事故で死んだのは…やはり王宮は関係無いわ…だって事故に見せかけ両親を殺したのは…叔父なのだから…」
顔を覆って泣きながら私は言った。
「それでも…やはり間接的に関わっている事には変わらないよ。償いなんか出来るはずが無いことは分り切っていたけれど、それでも私はフィーネの力になりたくてここに来たんだ。けれど君に婚約者がいる事を知り、私の出る幕では無いと思った。だから陰でそっと見守ろうと決めたのに…まさかジークハルトがあんな人間だとは思いもしなかった…!」
ユリアンの声にはどこか怒りが込められているようだった。
「いいのよ…私だって気付かなかったのだから…ユリアンが分るはず無いわ…。だから、私は彼を…」
愛されていると思っていたのに…ジークハルトは私を騙し、愛するふりをしていた。湖に落とされそうになったのは私の方なのに、ヘルマが逆に湖に落ちたところで、ついにジークハルトの本性が現れたのだ。
何度も魔女と罵った。そして私は本当の魔女になってしまった。彼に剣を胸で貫かれた時はもう心が痛むことも無くなっていた…。
「フィーネ。私と一緒に行こう」
「え…?」
ユリアンの声に顔を上げると、そこには月明かりに照らされたユリアンが私に右手を差し出している。その顔には…優し気な笑みが浮かんでいた。
「行くって…一体何所へ…?まさか…ノイヴァンシュタイン王家へ行くつもりなの?」
「勿論だよ」
「だ…駄目よっ!行けるはずはないでしょう?私は魔女なのよ?この長く黒い髪を見て頂戴!この…腕に浮かんだ黒薔薇を見てよ!」
今や私の黒髪は背丈をとうに超えた長さになっている。そして両腕には黒い薔薇の紋章がくっきりと浮かんでいる。私はユリアンに両腕に浮かんでいる黒い薔薇の紋章を見せた。
「こ、これは…?」
ユリアンが目を見開いて腕に浮かんだ紋章を見つめている。
「この黒薔薇はね…闇の力を手に入れた証なんですって…。グレン伯爵の日記に記されていたわ…。でもこれで分ったでしょう?私は闇に落ちた魔女なのよ。残虐な方法で大勢の人を手に掛けた殺人鬼がお城に行けるはず無いでしょう?ましてや貴方は第一王位継承者なのに…」
するとユリアンは意外な言葉を口にした。
「いや…私は第一王子だけど、王位継承権は持っていないんだ…」
「え…?」
「私の母は聖なる魔法を操ることの出来た一族の人間で…人々からは『聖女』と呼ばれていたんだ。そこで父は城に招き…いつしか2人は恋仲になって私が生まれたのだが、爵位すら持たなかった母は側室にもなれなかった。父は既に后を迎えていたけど2人の間にまだ子は成されていなかっただけに…城では冷遇されたよ。私と母は王宮に住むことは許されず、離宮で暮らしたんだ。私が聖なる魔法を扱えるのは母の血を引いているからなんだ。でも、この事を知っているのは…フィーネだけだよ」
ユリアンは寂し気な笑みを浮かべた―。
だけど私はその日、体調を崩してしまって王宮に行く事が出来なかった。代わりに父と母だけが馬車に乗り…事故が起きて2人は還らぬ人に…。
「お…お父様…お母さま…」
私は顔を覆って泣き崩れた。
「フィーネ…。ノイヴァンシュタイン家のせいで本当に申し訳ないことをしてしまった。だから私はフィーネの手助けがしたくてアドラー家のフットマンとしてこの屋敷にやってきたんだ…」
ユリアンが私の髪にそっと触れながら声を振り絞る様に語り掛けて来る。
「だ、だけど…両親が事故で死んだのは…やはり王宮は関係無いわ…だって事故に見せかけ両親を殺したのは…叔父なのだから…」
顔を覆って泣きながら私は言った。
「それでも…やはり間接的に関わっている事には変わらないよ。償いなんか出来るはずが無いことは分り切っていたけれど、それでも私はフィーネの力になりたくてここに来たんだ。けれど君に婚約者がいる事を知り、私の出る幕では無いと思った。だから陰でそっと見守ろうと決めたのに…まさかジークハルトがあんな人間だとは思いもしなかった…!」
ユリアンの声にはどこか怒りが込められているようだった。
「いいのよ…私だって気付かなかったのだから…ユリアンが分るはず無いわ…。だから、私は彼を…」
愛されていると思っていたのに…ジークハルトは私を騙し、愛するふりをしていた。湖に落とされそうになったのは私の方なのに、ヘルマが逆に湖に落ちたところで、ついにジークハルトの本性が現れたのだ。
何度も魔女と罵った。そして私は本当の魔女になってしまった。彼に剣を胸で貫かれた時はもう心が痛むことも無くなっていた…。
「フィーネ。私と一緒に行こう」
「え…?」
ユリアンの声に顔を上げると、そこには月明かりに照らされたユリアンが私に右手を差し出している。その顔には…優し気な笑みが浮かんでいた。
「行くって…一体何所へ…?まさか…ノイヴァンシュタイン王家へ行くつもりなの?」
「勿論だよ」
「だ…駄目よっ!行けるはずはないでしょう?私は魔女なのよ?この長く黒い髪を見て頂戴!この…腕に浮かんだ黒薔薇を見てよ!」
今や私の黒髪は背丈をとうに超えた長さになっている。そして両腕には黒い薔薇の紋章がくっきりと浮かんでいる。私はユリアンに両腕に浮かんでいる黒い薔薇の紋章を見せた。
「こ、これは…?」
ユリアンが目を見開いて腕に浮かんだ紋章を見つめている。
「この黒薔薇はね…闇の力を手に入れた証なんですって…。グレン伯爵の日記に記されていたわ…。でもこれで分ったでしょう?私は闇に落ちた魔女なのよ。残虐な方法で大勢の人を手に掛けた殺人鬼がお城に行けるはず無いでしょう?ましてや貴方は第一王位継承者なのに…」
するとユリアンは意外な言葉を口にした。
「いや…私は第一王子だけど、王位継承権は持っていないんだ…」
「え…?」
「私の母は聖なる魔法を操ることの出来た一族の人間で…人々からは『聖女』と呼ばれていたんだ。そこで父は城に招き…いつしか2人は恋仲になって私が生まれたのだが、爵位すら持たなかった母は側室にもなれなかった。父は既に后を迎えていたけど2人の間にまだ子は成されていなかっただけに…城では冷遇されたよ。私と母は王宮に住むことは許されず、離宮で暮らしたんだ。私が聖なる魔法を扱えるのは母の血を引いているからなんだ。でも、この事を知っているのは…フィーネだけだよ」
ユリアンは寂し気な笑みを浮かべた―。
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