56 / 61
第56話 現れた人
しおりを挟む
重い鍵盤の音に混じり、部屋時折ガラス窓が割れる音がこの部屋に響いてくる。
私は黙ってピアノを引き続けた。脳裏によぎるのはこの城で大好きな父と母と幸せに暮らした懐かしい日々。親切な使用人たちに囲まれ、伯爵令嬢として何不自由なく、永遠にこの幸せが続くのだと信じて止まなかったあの頃はもう二度と帰ってくることはない。
お父様…お母様…こんな事になってごめんなさい。この城を守ることが出来ませんでした。大勢の人を殺戮し、この手を血で汚してしまいました。
私は死んでもお2人の元に逝くことは出来ないでしょう。
恐らく私が死んだ後、この魂は地獄に落ちてしまうでしょう。
親不孝な娘をお許しください…。
その時―。
「…ネ様ーっ!!」
何処かで誰かが私の名を叫んでいる気がした。でもきっと気の所為に決まっている。それとも地獄からの死者が私を呼んでいるのだろうか…?
「…ネ様ーっ!フィーネ様っ!何処ですかっ!」
「え?」
はっきり私の名を呼ぶ声が聞こえ、ピアノを弾く手を止めた。
あの声は…?まさか…そんなはずは…。
その時―。
「フィーネ様っ!!お願いですっ!返事をして下さいっ!!」
「そ、そんな馬鹿な…」
その声は私が逃したはずのユリアンの声だった。まさか…こんな燃え盛る炎の中、私を探しに戻ってきたのだろうか?
「フィーネ様ーっ!!うっ!!」
ユリアンの苦しげな声が聞こえた。
「ユリアンッ?!」
席から立ち上がると、広間の扉が勢いよく開かれた。
「フィーネ様っ!!」
「ユ、ユリアン…?」
広間に飛び込んできたユリアンの身体は金色の光に包まれていた。
「フィーネ様…っ!!」
ユリアンは駆け寄ってくると、無言で私を強く抱きしめてきた。
「良かった…。まだ…無事で…本当に…」
ユリアンは泣いているのだろうか?肩を震わせ、私のことを力強く抱きしめてくる。
「ユリアン…な、何故ここに…?それにその光る身体は…?」
するとユリアンはますます私を強く抱きしめてきた。
「そんな話はこの城を出た後にいくらでも聞きます…。早く一緒に逃げましょう!」
「駄目よっ!行ける訳無いでしょうっ?!私はこの城と一緒に死ぬのだからっ!」
「そんなの駄目ですっ!!」
ユリアンは叫んだ。
「ユ、ユリアン…」
するとユリアンは私から少しだけ身体を離し、両頬に触れながら言った。
「死んでは駄目ですっ!!貴女は死んではいけないっ!!」
そしてユリアンは有無を言わさず、私の身体を抱きかかえると口の中で何やら呪文のようなものを唱えた。
途端にユリアンの身体から眩しい光が放たれ、私はそのあまりの眩しさに思わず瞳を閉じた。
次の瞬間…フワリと身体が浮くような感覚に襲われた私はそのまま意識を失った―。
私は黙ってピアノを引き続けた。脳裏によぎるのはこの城で大好きな父と母と幸せに暮らした懐かしい日々。親切な使用人たちに囲まれ、伯爵令嬢として何不自由なく、永遠にこの幸せが続くのだと信じて止まなかったあの頃はもう二度と帰ってくることはない。
お父様…お母様…こんな事になってごめんなさい。この城を守ることが出来ませんでした。大勢の人を殺戮し、この手を血で汚してしまいました。
私は死んでもお2人の元に逝くことは出来ないでしょう。
恐らく私が死んだ後、この魂は地獄に落ちてしまうでしょう。
親不孝な娘をお許しください…。
その時―。
「…ネ様ーっ!!」
何処かで誰かが私の名を叫んでいる気がした。でもきっと気の所為に決まっている。それとも地獄からの死者が私を呼んでいるのだろうか…?
「…ネ様ーっ!フィーネ様っ!何処ですかっ!」
「え?」
はっきり私の名を呼ぶ声が聞こえ、ピアノを弾く手を止めた。
あの声は…?まさか…そんなはずは…。
その時―。
「フィーネ様っ!!お願いですっ!返事をして下さいっ!!」
「そ、そんな馬鹿な…」
その声は私が逃したはずのユリアンの声だった。まさか…こんな燃え盛る炎の中、私を探しに戻ってきたのだろうか?
「フィーネ様ーっ!!うっ!!」
ユリアンの苦しげな声が聞こえた。
「ユリアンッ?!」
席から立ち上がると、広間の扉が勢いよく開かれた。
「フィーネ様っ!!」
「ユ、ユリアン…?」
広間に飛び込んできたユリアンの身体は金色の光に包まれていた。
「フィーネ様…っ!!」
ユリアンは駆け寄ってくると、無言で私を強く抱きしめてきた。
「良かった…。まだ…無事で…本当に…」
ユリアンは泣いているのだろうか?肩を震わせ、私のことを力強く抱きしめてくる。
「ユリアン…な、何故ここに…?それにその光る身体は…?」
するとユリアンはますます私を強く抱きしめてきた。
「そんな話はこの城を出た後にいくらでも聞きます…。早く一緒に逃げましょう!」
「駄目よっ!行ける訳無いでしょうっ?!私はこの城と一緒に死ぬのだからっ!」
「そんなの駄目ですっ!!」
ユリアンは叫んだ。
「ユ、ユリアン…」
するとユリアンは私から少しだけ身体を離し、両頬に触れながら言った。
「死んでは駄目ですっ!!貴女は死んではいけないっ!!」
そしてユリアンは有無を言わさず、私の身体を抱きかかえると口の中で何やら呪文のようなものを唱えた。
途端にユリアンの身体から眩しい光が放たれ、私はそのあまりの眩しさに思わず瞳を閉じた。
次の瞬間…フワリと身体が浮くような感覚に襲われた私はそのまま意識を失った―。
36
お気に入りに追加
1,323
あなたにおすすめの小説
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

[完結]裏切りの学園 〜親友・恋人・教師に葬られた学園マドンナの復讐
青空一夏
恋愛
高校時代、完璧な優等生であった七瀬凛(ななせ りん)は、親友・恋人・教師による壮絶な裏切りにより、人生を徹底的に破壊された。
彼女の家族は死に追いやられ、彼女自身も冤罪を着せられた挙げ句、刑務所に送られる。
「何もかも失った……」そう思った彼女だったが、獄中である人物の助けを受け、地獄から這い上がる。
数年後、凛は名前も身分も変え、復讐のために社会に舞い戻るのだが……
※全6話ぐらい。字数は一話あたり4000文字から5000文字です。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる