46 / 61
第46話 今迄お世話になりました
しおりを挟む
「本当だな?本当にこの城から出ていくと言うのだな?」
叔父は念押ししてくる。
「ええ。本当です」
しかしジークハルトが言った。
「お待ち下さい、伯爵。相手は狡猾な魔女です。信用に値しない。今すぐここを追い出すべきです」
…まさかジークハルトのような人間に『狡猾な魔女』と言われるとは思わなかった。むしろ彼らのほうが余程狡猾な人間ではないだろうか?
「うむ…確かにそうだな」
そして叔父は私を見ると言った。
「ならぬ、フィーネ。今すぐこの城を出るのだ。一刻も早くこの城を出て…二度とこの地に戻ってくるな!」
「…分かりました。そこまで仰るのであれば出ていきます。もう荷造りは済んでおりますので」
私は自分の部屋を振り返った。視線の先にはトランクケースが置いてある。
「ああ、そうだ。この城に居座る汚らわしい魔女め…さっさと去れ!そして二度と我らの前に姿を現すなっ!」
ジークハルトは吐き捨てるように言う。
「…」
無言でジークハルトを見た。いくら私を『魔女』と蔑むにせよ、仮にも元婚約者を相手にどうしてここまで酷い態度を取れるのだろうか…?
すると私の視線が気に入らなかったのか、ジークハルトが殺気を込めた目で睨みつけてきた。
「何だ?魔女…汚らわしい目で俺を見るんじゃないっ!」
そしていきなり剣の柄で私のお腹を殴りつけてきた。
ドスッ!
「ウッ…!ゴ…ゴホッ!」
衝撃で私は激しく咳き込んだ…フリをした。本来ならこんな攻撃、もう止めることも容易いし、無意識の内に衝撃を和らげる事も造作なかった。ただ彼らを油断させる為だけにあえて大袈裟な演技をしたのだ。
「フン…魔女でも痛みや苦しみは感じるのだな」
ジークハルトは冷たい目で私を見下ろす。
「さぁ、フィーネ。荷物を持って今すぐ何処へなりとも行くがいい!」
叔父は私を指差すと言った。
「…はい。分かりました…」
私はフラフラした足取りで部屋に入るとトランクケースを持ち、部屋から出てきた。そんな一連の動きを叔父もジークハルトも無言で見ている。
「さよなら、皆さん。今迄お世話になりました」
一礼すると私は彼らに背を向け、長い廊下を歩き始めた。…城の出口目指して―。
****
ギィィィ~…
城の扉を開けて、外へと出てきた。
私を見送るものは誰一人としていなかった。城を出た私は一度だけ、17年間育った城を振り返った。すると2階の窓からジークハルトがヘルマの肩を抱いて私をじっと見ている姿が目に飛び込んできた。2人は私が自分達を見つめている事に気付くと、これみよがしにキスをする。
「…愚かね…」
私はポツリと言った。今更そんな事をしても、私は何も感じない。ジークハルトが私を憎むのと同様、今の私は彼を心の底から憎悪している。いっその事、今すぐ殺してくれと私に懇願してくるほどに、地獄のような苦しみを彼らに与えてやるのだ。
「待っていなさい…今宵、復讐する為に…私は再びこの城に戻ってくるから…」
そして私はキスを続けるジークハルトとヘルマに笑みを浮かべ、背中を向けると森へ向かった―。
叔父は念押ししてくる。
「ええ。本当です」
しかしジークハルトが言った。
「お待ち下さい、伯爵。相手は狡猾な魔女です。信用に値しない。今すぐここを追い出すべきです」
…まさかジークハルトのような人間に『狡猾な魔女』と言われるとは思わなかった。むしろ彼らのほうが余程狡猾な人間ではないだろうか?
「うむ…確かにそうだな」
そして叔父は私を見ると言った。
「ならぬ、フィーネ。今すぐこの城を出るのだ。一刻も早くこの城を出て…二度とこの地に戻ってくるな!」
「…分かりました。そこまで仰るのであれば出ていきます。もう荷造りは済んでおりますので」
私は自分の部屋を振り返った。視線の先にはトランクケースが置いてある。
「ああ、そうだ。この城に居座る汚らわしい魔女め…さっさと去れ!そして二度と我らの前に姿を現すなっ!」
ジークハルトは吐き捨てるように言う。
「…」
無言でジークハルトを見た。いくら私を『魔女』と蔑むにせよ、仮にも元婚約者を相手にどうしてここまで酷い態度を取れるのだろうか…?
すると私の視線が気に入らなかったのか、ジークハルトが殺気を込めた目で睨みつけてきた。
「何だ?魔女…汚らわしい目で俺を見るんじゃないっ!」
そしていきなり剣の柄で私のお腹を殴りつけてきた。
ドスッ!
「ウッ…!ゴ…ゴホッ!」
衝撃で私は激しく咳き込んだ…フリをした。本来ならこんな攻撃、もう止めることも容易いし、無意識の内に衝撃を和らげる事も造作なかった。ただ彼らを油断させる為だけにあえて大袈裟な演技をしたのだ。
「フン…魔女でも痛みや苦しみは感じるのだな」
ジークハルトは冷たい目で私を見下ろす。
「さぁ、フィーネ。荷物を持って今すぐ何処へなりとも行くがいい!」
叔父は私を指差すと言った。
「…はい。分かりました…」
私はフラフラした足取りで部屋に入るとトランクケースを持ち、部屋から出てきた。そんな一連の動きを叔父もジークハルトも無言で見ている。
「さよなら、皆さん。今迄お世話になりました」
一礼すると私は彼らに背を向け、長い廊下を歩き始めた。…城の出口目指して―。
****
ギィィィ~…
城の扉を開けて、外へと出てきた。
私を見送るものは誰一人としていなかった。城を出た私は一度だけ、17年間育った城を振り返った。すると2階の窓からジークハルトがヘルマの肩を抱いて私をじっと見ている姿が目に飛び込んできた。2人は私が自分達を見つめている事に気付くと、これみよがしにキスをする。
「…愚かね…」
私はポツリと言った。今更そんな事をしても、私は何も感じない。ジークハルトが私を憎むのと同様、今の私は彼を心の底から憎悪している。いっその事、今すぐ殺してくれと私に懇願してくるほどに、地獄のような苦しみを彼らに与えてやるのだ。
「待っていなさい…今宵、復讐する為に…私は再びこの城に戻ってくるから…」
そして私はキスを続けるジークハルトとヘルマに笑みを浮かべ、背中を向けると森へ向かった―。
15
お気に入りに追加
1,273
あなたにおすすめの小説
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~
葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」
男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。
ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。
それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。
とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。
あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。
力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。
そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が……
※小説家になろうにも掲載しています
婚約を破棄したいと言うのなら、私は愛することをやめます
天宮有
恋愛
婚約者のザオードは「婚約を破棄したい」と言うと、私マリーがどんなことでもすると考えている。
家族も命令に従えとしか言わないから、私は愛することをやめて自由に生きることにした。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
とある侯爵令息の婚約と結婚
ふじよし
恋愛
ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。
今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる