さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

第37話 豪華な食事

「な、何…今、お前何と言った…？ま、まさか…っ！！」

叔父の顔が真っ青になる。

「フィ…フィーネ…なの…？」

ジークハルトが声を震わせながら問いかけて来る。

「あら？やっと名前を呼んでくれたのですね？私の事を魔女と呼んでいたので、もう名前を忘れてしまったのかと思っておりましたわ」

「な、何ですってっ？！」

ガチャーンッ！

叔母が床に皿を落として割ってしまった。

「キャアアアッ！！」

怯えたヘルマが悲鳴を上げ、ますますジークハルトにしがみつく。

「大丈夫だ…ヘルマには指1本触れさせないよ」

優しい声でヘルマの髪を撫でるジークハルト。以前の私ならそんな姿を見せつけられようものなら心がかき乱されていたかもしれないが…今は何も感じない。何故なら彼はもう私の愛する人では無くなったのだから。

「フィーネ…お前、その姿は一体どうしたのだ…？」

ジークハルトが私を睨みつけながら尋ねて来る。

「見ての通りです。貴方のお望み通り、魔女になっただけですが？」

「何だと？」

怒気を含んだ声でジークハルトは睨み付けて来た。

「フィ、フィーネ。お前…一体どういうつもりでここへやって来たのだ？」

叔父は私を指差しながら尋ねて来た。

「随分野暮な事を尋ねるのですね？食事を頂きに来たに決まっているではないですか？」

「何ですってっ？！」
「お前に用意する食事など無い！さっさと我々の前から姿を消せ！」

「叔父様、叔母様。ここは私の城です。当然ここで食事をする権利は私にあります」

腕組みをしながら言うと、ジークハルトが鼻で笑った。

「誰がお前のような魔女に食事を用意する者などいるか」

「そうでしょうか？」

チラリとジークハルトを一瞥した。
それにしても…私はあれ程ジークハルトを愛していたのに今では何も感じなくなっていた。心は凍り、感情を持たない人間になってしまった。…これが魔女になった証なのだろうか…？

「ジークハルト様の言う通りよ！あんたみたいな醜い魔女はさっさとここから出て行きなさいよっ！」

ジークハルトに守られているとでも思っているのだろうか？愚かなヘルマが金切り声で毒づいて来た。

「うるさいわね、ヘルマ。あまり騒ぐと口をきけないようにするわよ」

「！！」

するとその言葉に、ヘルマがビクンと肩を跳ねさせた。

「ヘルマを怖がらせるな！魔女っ！」

ジークハルトが叫んだその時―。

「失礼致します…。フィーネ様の朝食を…お、お持ちしました…」

大きく開け放たれた扉からワゴンにのせた料理が運ばれて来た。ざっと見るだけでも少なくとも10種類以上の料理が乗せられている。

「何だと？食事なら既に我々の席に…」

言いかけた叔父は何かに気付いたのか、ハッとした様子で私を振り返った。

「ま、まさか…フィーネ…」

しかし、私は叔父を無視するとワゴンを押して来たフットマンに声を掛けた。

「ありがとう、こちらに運んで頂戴」

笑みを浮かべて、手招きする。

「は、はい！ただいまっ！」

すっかり怯え切った様子のフットマンはワゴンを押してくると、私の前で足を止めた。

「し、失礼致します…」

小刻みに震えているフットマンはガタガタ震えながら料理を並べていく。その料理は私が命じた通り、叔父たちよりもずっと豪華な内容だった。

私は満足そうに料理が並べられていく様子を眺めていた―。