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第10話 おやすみなさい

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 離れが見えてくると私は言った。

「ユリアン…降ろして。もう…1人で歩けるから…」

「はい、分かりました」

ユリアンは背をかがめて私を背中から降ろした。

「もう行って。1人で部屋に戻れるから」

私はユリアンに向かい合うと言った。

「ですが…本当に大丈夫ですか?」

ユリアンが心配そうに私を見つめる。

「え…?何故そう思うの?」

「それは…フィーネ様が震えているからです」

「え?」

言われてみて私は始めて気がついた。自分の身体が小刻みに震えているのを…。

「あ…さ、さっき…倉庫で怨霊に襲われかけたから…で、でも…貴方が助けに来てくれて…た、助かった…わ…。あ、ありがとう…」

自分の身体を抱きしめ、声を震わせながら何とかお礼を述べた。

「いえ…でも怖かったですよね…?」

ユリアンが気遣うように尋ねて来る。私は黙ってコクンと頷く。

「やはりお部屋まで…」

「いいの」

言いかけたところを私は静止した。

「私に…関わった使用人は…見つかればクビにされてしまうわ…。だ、だから…私に構わないで…?」

「ですが…っ!」

ユリアンは拳を握りしめた。

「身勝手な話かもしれないけれど…私、ユリアンには…ここを去って欲しくは無いの…。もし私に親切にしている姿を叔父家族に見つかってユリアンがクビにされるのはいやだから…」

「フィーネ様…」

「大丈夫よ。ほら、話している内に震えも止まったし…離れはすぐそこだから1人で帰れるわ。それで…最後に一つ聞かせてくれる?」

「はい、何でしょうか?」

「どうして私があそこに捕らえられていると分かったの?」

「それは…ヘルマお嬢様の側使いの3人のメイドに尋ねたからです。するとフィーネ様を倉庫に閉じ込めたことを話したので…急いで助けに参りました」

「まぁ、そうだったの…。それにしてもよくあの3人が話してくれたわね?」

するとユリアンは少しだけ目を伏せると言った。

「ええ…。実は白状させるのに少々乱暴な手を使ってしまったものですから」

「えっ?!そ、そんな事をしたのっ?!それじゃ、叔父家族にユリアンが私に親切にしていることがバレてしまったんじゃないの?!」

しかし私の言葉にユリアンは笑みを浮かべると言った。

「大丈夫です。ご心配には及びません」

「だけど…」

「私の身を案じてくださってありがとうございます。大丈夫です。決してフィーネ様が心配される事態にはなりませんから」

ユリアンは妙な自信を持っている。

「そう…?なら信じるけど…でも、本当にここまでで大丈夫よ?」

「なら、ついてはいきませんが…せめてここからフィーネ様が離れに入るまで見守らせて頂けますか?」

大きな月を背に、ユリアンが尋ねてきた。

「え、ええ。それくらいなら…」

ためらいがちに返事をする。

「本当ですか?ありがとうございます。ならどうぞお入り下さい。私はここで見守らせていただきますから」

「ありがとう。それじゃおやすみなさい」

「はい、おやすみなさいませ」

私は頷くとユリアンに背を向け、離れへと戻って行った。最後に扉を開けて振り返ると、まだユリアンは同じ場所に立っていた。

私は最後にユリアンに手を振ると屋敷の中へ入っていった―。
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