10 / 61
第10話 おやすみなさい
しおりを挟む
離れが見えてくると私は言った。
「ユリアン…降ろして。もう…1人で歩けるから…」
「はい、分かりました」
ユリアンは背をかがめて私を背中から降ろした。
「もう行って。1人で部屋に戻れるから」
私はユリアンに向かい合うと言った。
「ですが…本当に大丈夫ですか?」
ユリアンが心配そうに私を見つめる。
「え…?何故そう思うの?」
「それは…フィーネ様が震えているからです」
「え?」
言われてみて私は始めて気がついた。自分の身体が小刻みに震えているのを…。
「あ…さ、さっき…倉庫で怨霊に襲われかけたから…で、でも…貴方が助けに来てくれて…た、助かった…わ…。あ、ありがとう…」
自分の身体を抱きしめ、声を震わせながら何とかお礼を述べた。
「いえ…でも怖かったですよね…?」
ユリアンが気遣うように尋ねて来る。私は黙ってコクンと頷く。
「やはりお部屋まで…」
「いいの」
言いかけたところを私は静止した。
「私に…関わった使用人は…見つかればクビにされてしまうわ…。だ、だから…私に構わないで…?」
「ですが…っ!」
ユリアンは拳を握りしめた。
「身勝手な話かもしれないけれど…私、ユリアンには…ここを去って欲しくは無いの…。もし私に親切にしている姿を叔父家族に見つかってユリアンがクビにされるのはいやだから…」
「フィーネ様…」
「大丈夫よ。ほら、話している内に震えも止まったし…離れはすぐそこだから1人で帰れるわ。それで…最後に一つ聞かせてくれる?」
「はい、何でしょうか?」
「どうして私があそこに捕らえられていると分かったの?」
「それは…ヘルマお嬢様の側使いの3人のメイドに尋ねたからです。するとフィーネ様を倉庫に閉じ込めたことを話したので…急いで助けに参りました」
「まぁ、そうだったの…。それにしてもよくあの3人が話してくれたわね?」
するとユリアンは少しだけ目を伏せると言った。
「ええ…。実は白状させるのに少々乱暴な手を使ってしまったものですから」
「えっ?!そ、そんな事をしたのっ?!それじゃ、叔父家族にユリアンが私に親切にしていることがバレてしまったんじゃないの?!」
しかし私の言葉にユリアンは笑みを浮かべると言った。
「大丈夫です。ご心配には及びません」
「だけど…」
「私の身を案じてくださってありがとうございます。大丈夫です。決してフィーネ様が心配される事態にはなりませんから」
ユリアンは妙な自信を持っている。
「そう…?なら信じるけど…でも、本当にここまでで大丈夫よ?」
「なら、ついてはいきませんが…せめてここからフィーネ様が離れに入るまで見守らせて頂けますか?」
大きな月を背に、ユリアンが尋ねてきた。
「え、ええ。それくらいなら…」
ためらいがちに返事をする。
「本当ですか?ありがとうございます。ならどうぞお入り下さい。私はここで見守らせていただきますから」
「ありがとう。それじゃおやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
私は頷くとユリアンに背を向け、離れへと戻って行った。最後に扉を開けて振り返ると、まだユリアンは同じ場所に立っていた。
私は最後にユリアンに手を振ると屋敷の中へ入っていった―。
「ユリアン…降ろして。もう…1人で歩けるから…」
「はい、分かりました」
ユリアンは背をかがめて私を背中から降ろした。
「もう行って。1人で部屋に戻れるから」
私はユリアンに向かい合うと言った。
「ですが…本当に大丈夫ですか?」
ユリアンが心配そうに私を見つめる。
「え…?何故そう思うの?」
「それは…フィーネ様が震えているからです」
「え?」
言われてみて私は始めて気がついた。自分の身体が小刻みに震えているのを…。
「あ…さ、さっき…倉庫で怨霊に襲われかけたから…で、でも…貴方が助けに来てくれて…た、助かった…わ…。あ、ありがとう…」
自分の身体を抱きしめ、声を震わせながら何とかお礼を述べた。
「いえ…でも怖かったですよね…?」
ユリアンが気遣うように尋ねて来る。私は黙ってコクンと頷く。
「やはりお部屋まで…」
「いいの」
言いかけたところを私は静止した。
「私に…関わった使用人は…見つかればクビにされてしまうわ…。だ、だから…私に構わないで…?」
「ですが…っ!」
ユリアンは拳を握りしめた。
「身勝手な話かもしれないけれど…私、ユリアンには…ここを去って欲しくは無いの…。もし私に親切にしている姿を叔父家族に見つかってユリアンがクビにされるのはいやだから…」
「フィーネ様…」
「大丈夫よ。ほら、話している内に震えも止まったし…離れはすぐそこだから1人で帰れるわ。それで…最後に一つ聞かせてくれる?」
「はい、何でしょうか?」
「どうして私があそこに捕らえられていると分かったの?」
「それは…ヘルマお嬢様の側使いの3人のメイドに尋ねたからです。するとフィーネ様を倉庫に閉じ込めたことを話したので…急いで助けに参りました」
「まぁ、そうだったの…。それにしてもよくあの3人が話してくれたわね?」
するとユリアンは少しだけ目を伏せると言った。
「ええ…。実は白状させるのに少々乱暴な手を使ってしまったものですから」
「えっ?!そ、そんな事をしたのっ?!それじゃ、叔父家族にユリアンが私に親切にしていることがバレてしまったんじゃないの?!」
しかし私の言葉にユリアンは笑みを浮かべると言った。
「大丈夫です。ご心配には及びません」
「だけど…」
「私の身を案じてくださってありがとうございます。大丈夫です。決してフィーネ様が心配される事態にはなりませんから」
ユリアンは妙な自信を持っている。
「そう…?なら信じるけど…でも、本当にここまでで大丈夫よ?」
「なら、ついてはいきませんが…せめてここからフィーネ様が離れに入るまで見守らせて頂けますか?」
大きな月を背に、ユリアンが尋ねてきた。
「え、ええ。それくらいなら…」
ためらいがちに返事をする。
「本当ですか?ありがとうございます。ならどうぞお入り下さい。私はここで見守らせていただきますから」
「ありがとう。それじゃおやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
私は頷くとユリアンに背を向け、離れへと戻って行った。最後に扉を開けて振り返ると、まだユリアンは同じ場所に立っていた。
私は最後にユリアンに手を振ると屋敷の中へ入っていった―。
12
お気に入りに追加
1,217
あなたにおすすめの小説
あなたの事は記憶に御座いません
cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。
ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。
婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。
そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。
グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。
のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。
目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。
そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね??
記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分
★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?)
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する
音爽(ネソウ)
恋愛
家族と婚約者に虐げられてきた伯爵令嬢ジーン・ベンスは日々のストレスが重なり、高熱を出して寝込んだ。彼女は悪夢にうなされ続けた、夢の中でまで冷遇される理不尽さに激怒する。そして、目覚めた時彼女は気弱な自分を払拭して復讐に燃えるのだった。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私
青空一夏
恋愛
私には一歳年下の妹がいる。彼女はとても男性にもてた。容姿は私とさほど変わらないのに、自分を可愛く引き立てるのが上手なのよ。お洒落をするのが大好きで身を飾りたてては、男性に流し目をおくるような子だった。
妹は男爵家に嫁ぎ玉の輿にのった。私も画廊を経営する男性と結婚する。私達姉妹はお互いの結婚を機に仲良くなっていく。ところがある日、夫と妹の会話が聞こえた。その会話は・・・・・・
これは妹と夫に裏切られたヒロインの物語。貴族のいる異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。
※表紙は青空作成AIイラストです。ヒロインのマリアンです。
※ショートショートから短編に変えました。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる