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第53話 ここからは私の時間
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翌朝7時―
「はい、どうぞ。アンジェラ様」
「ありがとう」
厨房で私はコック長のアンリさんからバスケットに入ったお弁当を受け取った。
「それにしてもアンジェラ様は相変わらずお料理のアイデアが優れていますね。オートミールを…なんでしたっけ?」
アンリさんが首を傾げた。
「おにぎりよ」
「そうそう、オートミールなんて普通は鍋でグツグツ煮込んで調理するものと思っておりましたがこんなに風に具材を中に入れて、三角に握って周りに塩をまぶすなんて、斬新ですね」
「そう?でもこうやって握れば食べやすいでしょう?具材が中に入っているからおかずもいらないし」
私は前世ではご飯…特におにぎりにして食べるのが大好きだった。しかし、あいにくこの世界ではお米というものが存在しない。いや、実際は他の国に行けばあるのかもしれないが、生憎私はまだお米を目にしたことはない。そこで苦肉の策として、お米の代わりにオートミールを代用しておにぎりにしてもらったのだ。
「もうお出かけになるのですか?」
「ええ、この屋敷にいるといつまたニコラス様が来るとも限らないし。もうすぐお店のオープンが迫っているから、ニコラス様のお相手をする時間が惜しいのよ」
…正確に言えば、ニコラスの相手をしているのは時間の無駄だ。だから今日は夕方までオープニングへ向けて準備しようと思っていた。仮にニコラスがパメラの件で私に文句を言いに来たとしても不在ならば諦めて帰るに決まっているだろうから。
「そうですか、頑張って下さい」
「ええ、ありがとう」
そして私は手を振って厨房を後にした―。
****
7時半―
リュックサックを背負い、ランチバッグを手に屋敷の外に出るとすでに正面エントランスには馬車がとまっていた。
「あ、おはようございます。アンジェラ様」
御者台から降りてきたジムさんが挨拶をしてきた。
「おはよう、ジムさん。こんなに朝早くからごめんなさい」
「何を仰ってるんですか。これが私の仕事なのですから気になさらないで下さい。さ、ではお乗り下さい」
「ええ、ありがとう」
私が乗り込むと、馬車はすぐに音を立てて走り出した―。
****
「どうもありがとう」
店に到着し、馬車から下りるとジムさんにお礼を述べた。
「いいえ、とんでもございません。それでお迎えは何時に伺えば宜しいでしょうか?」
「17時に来てもらる?」
「勿論です。それでは失礼致しますね」
「ええ、又ね」
そしてジムさんを乗せた馬車は再び音を立てて走り去って行った。
「さて、それじゃ準備を始めましょう」
大きなリュックを背負い直し、スカートのポケットから鍵を取り出して店の扉を開けると、私は店内へと足を踏みれた。
ニコラスはこの店の場所を知らない。そして私もまたニコラスに言うつもりも無いので邪魔をされる心配も無い。
ここからは私のお楽しみの時間が始まる―。
「はい、どうぞ。アンジェラ様」
「ありがとう」
厨房で私はコック長のアンリさんからバスケットに入ったお弁当を受け取った。
「それにしてもアンジェラ様は相変わらずお料理のアイデアが優れていますね。オートミールを…なんでしたっけ?」
アンリさんが首を傾げた。
「おにぎりよ」
「そうそう、オートミールなんて普通は鍋でグツグツ煮込んで調理するものと思っておりましたがこんなに風に具材を中に入れて、三角に握って周りに塩をまぶすなんて、斬新ですね」
「そう?でもこうやって握れば食べやすいでしょう?具材が中に入っているからおかずもいらないし」
私は前世ではご飯…特におにぎりにして食べるのが大好きだった。しかし、あいにくこの世界ではお米というものが存在しない。いや、実際は他の国に行けばあるのかもしれないが、生憎私はまだお米を目にしたことはない。そこで苦肉の策として、お米の代わりにオートミールを代用しておにぎりにしてもらったのだ。
「もうお出かけになるのですか?」
「ええ、この屋敷にいるといつまたニコラス様が来るとも限らないし。もうすぐお店のオープンが迫っているから、ニコラス様のお相手をする時間が惜しいのよ」
…正確に言えば、ニコラスの相手をしているのは時間の無駄だ。だから今日は夕方までオープニングへ向けて準備しようと思っていた。仮にニコラスがパメラの件で私に文句を言いに来たとしても不在ならば諦めて帰るに決まっているだろうから。
「そうですか、頑張って下さい」
「ええ、ありがとう」
そして私は手を振って厨房を後にした―。
****
7時半―
リュックサックを背負い、ランチバッグを手に屋敷の外に出るとすでに正面エントランスには馬車がとまっていた。
「あ、おはようございます。アンジェラ様」
御者台から降りてきたジムさんが挨拶をしてきた。
「おはよう、ジムさん。こんなに朝早くからごめんなさい」
「何を仰ってるんですか。これが私の仕事なのですから気になさらないで下さい。さ、ではお乗り下さい」
「ええ、ありがとう」
私が乗り込むと、馬車はすぐに音を立てて走り出した―。
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「どうもありがとう」
店に到着し、馬車から下りるとジムさんにお礼を述べた。
「いいえ、とんでもございません。それでお迎えは何時に伺えば宜しいでしょうか?」
「17時に来てもらる?」
「勿論です。それでは失礼致しますね」
「ええ、又ね」
そしてジムさんを乗せた馬車は再び音を立てて走り去って行った。
「さて、それじゃ準備を始めましょう」
大きなリュックを背負い直し、スカートのポケットから鍵を取り出して店の扉を開けると、私は店内へと足を踏みれた。
ニコラスはこの店の場所を知らない。そして私もまたニコラスに言うつもりも無いので邪魔をされる心配も無い。
ここからは私のお楽しみの時間が始まる―。
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