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第38話 物乞い呼ばわりされる親子

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ガラガラガラガラ…

 自分たちの身分を隠す為、あえて父が手配した然程乗り心地の良くない辻馬車に揺られながら私達3人は話をしていた。

「あれから色々調べてみたのだが、パメラの父であるウッド氏は小麦の栽培をメインに他にライ麦とオーツ麦を栽培してかなり利益を出しているようなんだ」

父は手にした書類をペラペラとめくりながら説明している。

「オーツ麦ですか…。だいたい一般家庭では朝食にオートミールを食べていますからね…かなり需要はありそうですね」

兄の言葉に父は頷く。

「ああ、そうだ。しかもウッド氏はオーツ麦の独占栽培の権利を持っているそうなんだが、農園組合がこれに反発している。自分達にも栽培させる権利を持たせろと訴えているのだが、一向に聞く耳を持たないそうだ」

「まぁ、それはそうですよね?誰だってそんなに需要がある商売なら独占したいでしょうからね。さすがあのパメラの父親だけあります」

私は思ったことを述べた。

「それで?他に何かウッド氏に関する情報はありますか?」

兄が父に尋ねた。

「ああ、あるぞ。ウッド氏はとにかく強欲な人間で最低賃金以下で休みもほとんど与えていないらしい」

「ひどい話ですね…」

兄が眉をしかめる。

「全くだ。とにかウッド氏には労働環境を改善させるように警告しなくてはならないな」

そして父は窓の外に目を向けた―。


****


 パメラの父が経営する農園に辿り着き、辻馬車から私達は降りたった。
眼前には立派なウッドハウスが建てられている。父の話ではあの建物がこの農園の事務所になっているらしい。

成程…ウッドを名乗っているので、ウッドハウスの事務所を建てたのだろう。
私は1人納得しながら建物を見上げた。そこへ父が声を掛けてくる。

「いいか、我々の身元は必要な時が来るまでは明かさないのだぞ?」

「はい、分かりました」
「勿論です」

私と兄は返事をする。

「よし、それでは行くか」

「「はい」」


そして私と父はパメラの父がいるとされているウッドハウスへ向かった。

 ウッドハウスは2階建ての造りになっており、丸太を組んで作られていた、ハウスには外の明かりをふんだんに取り入れられるように窓が正面と左右に3枚ずつはめられている。天井部分の屋根にも出窓が取り付けてあるのが外から見て取れた。

「ほう…これはなかなか立派なウッドハウスだな」

父が感心したように言う。

「本当ですね。どれだけ贅沢な暮らしをしているか、この建物を見るだけで分かりますよ」

兄が忌々しげに眉をしかめる。

「全くその通りだ。自分たちだけで私利私欲を肥やすような奴らだからな…。それではどんな悪徳経営者か、早速顔を拝みに行くとするか?」

父が何処か楽しげに言う。

「ええ。そうですね。楽しみです」

何と兄まで楽しみにしていたとは…。かくいう私もそうなのだけど。

私達は正面扉に立つと父がドアノッカーをつかみ、扉をノックした。


コンコン

するとややあって…。

扉がカチャリと開き、頭頂部が剥げた背の低い小太りの中年男性が現れた。よく見るとつり上がった目元がパメラを彷彿とさせる。

間違いない…この人物がウッド氏に違いないだろう。

男性は私達3人をジロジロ見ると、軽蔑の眼差しを向けながら尋ねてきた。

「…何だ?お前たちは、この私に何か用事でもあるのか?悪いが物乞いなら帰ってくれ。いくら私が金持ちでも物乞いに施しを与えるようなつもりは何も無いのでな」

…驚くべきことに、この人物は私達を物乞いと勘違いして話し始めた―。




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