16 / 119
第16話 仏の顔も3度まで…
しおりを挟む
私の家族が応接室からいなくなると伯爵がニコラスに言った。
「全く…何故あのような失礼な態度を取るのだ?あれ程ここへ来る前に言い聞かせただろう?!」
「そうよ、お前は馬鹿なのだから黙って親の言う事を聞きなさいっ!」
私は我が耳を疑った。夫人はいつも上品で物静かな女性だと思っていたのに、まさか自分の息子を馬鹿呼ばわりするなんて…。
「ああ、そうだ。良いか?ベルモンド子爵はああ見えて実は物凄い人物なのだぞ?元々はただの騎士の出身だが手柄を立てて、国王から子爵家の爵位を授かった人物だ。ベルモンド夫人もかなりの資産を持つ子爵家の女性、そして長男のカミーユはアカデミーを主席で卒業、そしてアンジェラだって学年1頭が良い娘だろう?良いか?お前の様な馬鹿には到底不釣り合いな位の縁組なんだ。お前とアンジェラを許婚にするのに、どれだけ大変だったかお前には分からんのかっ!」
伯爵は顔を真っ赤にしてニコラスに怒鳴りつける。
「うるさいっ!俺を馬鹿呼ばわりするなっ!俺が馬鹿なら俺という人間をこの世に送り出した親達だって馬鹿親だっ!」
あろうことか、この親子3人は我が家の応接室で親子喧嘩を始めてしまった。
「何て人達なの…」
私は半ば呆れた様子で眺めていると…。
「ははぁ~ん…成程…」
すぐ側で父の声が聞こえた。
「え?!お父様っ?!」
慌てて振り向くと背後にはいつの間にか、父ならず母も兄もマジックミラーからコンラート親子の喧嘩を眺めていたのだ。
「い、いつの間に…」
すると父が言った。
「成程…。何故伯爵がアンジェラを是非息子の婚約者にと粘って来たのか理由が分かったよ」
「でもこれで納得したわ。ニコラス様は両親から常に馬鹿呼ばわりされていたから、賢いアンジェラに強く当たっていたのね」
母が頷く。
「確かにニコラスは本当に馬鹿だったよ。家庭教師を頼まれて教えていたけれども彼ほどの馬鹿は見たことが無かったよ。入学試験に合格させるのにどれほど苦労したことか…こんな事なら、もっと授業料を釣り上げとけば良かったかな」
兄は腕組みしながら言う。
「お父様、お母様…それにお兄様まで…。まさにその通りだわ。それで…いつまであの親子を放置しておくつもりですか?このままではますますエスカレートしていくばかりですけど?」
「うむ…確かにそうだな。頃合いを見て出てもいいが…アンジェラ、お前はどうしたい?」
「そうですね…」
わたしはニコラスの様子を見た。彼は今両親から馬鹿だのクズだのと呼ばれて叱責されている。
「…こうしてみると何だかニコラス様が少し哀れに感じます。あれでは虐待に近いのでは無いでしょうか?」
「そのようだな。多少気の毒な境遇とも言える」
「それならアンジェラ。彼を気の毒に思って、このままずっと我慢していけるのかい?」
兄が尋ねてきた。
「いえ、無理ですね」
私はきっぱり答える。
「まぁ!てっきりニコラス様に同情してこのまま結婚するのかと思ったわ」
母が驚いたように目を見開く。
「ええ、本来ならそうかも知れませんが…でも虐待は負の連鎖を引き起こします。親から虐待されて育った者は生まれてきた我が子を同じ目に遭わせかねません。私は我が子をそのような目に遭わせたくありません」
「「「なるほど」」」
父、母、兄が声を揃える。
「ですが、このままあっさり切り捨てるのも気の毒といえば気の毒です。ニコラス様がああなってしまったのはそもそも両親の歪んだ教育のせいだと思うのです」
「まぁ、確かにそうと言えるかもしれないが…ではどうするのだ?」
父が尋ねてきた。
「はい、東の国では【仏の顔も3度まで】と言うことわざがあります。なので後3回だけ、今後私に対するニコラスの態度を許そうと思います。けれど4度目…私の我慢の限界を超えた場合は此方から婚約破棄を申し出る許可を取らせて下さい」
「え…貴女は本当にそれでいいの?」
「はい、お母様」
私は頷く。
「まぁ…アンジェラが自分で決めたことなら僕は何も言えないが…」
「よし、分かった。ではその様にしよう。しかし、本当にお前はよく出来た娘だな。私も鼻が高いよ」
父は私を見ると言った。
「ありがとうございます」
しかし、家族は私の本意を知らないだろう。あのニコラスの事。絶対にまた同じことを繰り返すに決まっている。私はただ自分から堂々とニコラスに公衆の面前でで婚約破棄を告げてやりたいのだ。仮にニコラスが心を入れ替えればそれはそれで婚約関係を続けても構わない。
どちらにしろ、もう私はニコラスにもパメラにも、そして2人の取り巻きたちにもうんざりしているのだから。
「よし、それでは…応接室へ行くとするか」
「はい、お父様」
父の言葉に私は返事をした―。
「全く…何故あのような失礼な態度を取るのだ?あれ程ここへ来る前に言い聞かせただろう?!」
「そうよ、お前は馬鹿なのだから黙って親の言う事を聞きなさいっ!」
私は我が耳を疑った。夫人はいつも上品で物静かな女性だと思っていたのに、まさか自分の息子を馬鹿呼ばわりするなんて…。
「ああ、そうだ。良いか?ベルモンド子爵はああ見えて実は物凄い人物なのだぞ?元々はただの騎士の出身だが手柄を立てて、国王から子爵家の爵位を授かった人物だ。ベルモンド夫人もかなりの資産を持つ子爵家の女性、そして長男のカミーユはアカデミーを主席で卒業、そしてアンジェラだって学年1頭が良い娘だろう?良いか?お前の様な馬鹿には到底不釣り合いな位の縁組なんだ。お前とアンジェラを許婚にするのに、どれだけ大変だったかお前には分からんのかっ!」
伯爵は顔を真っ赤にしてニコラスに怒鳴りつける。
「うるさいっ!俺を馬鹿呼ばわりするなっ!俺が馬鹿なら俺という人間をこの世に送り出した親達だって馬鹿親だっ!」
あろうことか、この親子3人は我が家の応接室で親子喧嘩を始めてしまった。
「何て人達なの…」
私は半ば呆れた様子で眺めていると…。
「ははぁ~ん…成程…」
すぐ側で父の声が聞こえた。
「え?!お父様っ?!」
慌てて振り向くと背後にはいつの間にか、父ならず母も兄もマジックミラーからコンラート親子の喧嘩を眺めていたのだ。
「い、いつの間に…」
すると父が言った。
「成程…。何故伯爵がアンジェラを是非息子の婚約者にと粘って来たのか理由が分かったよ」
「でもこれで納得したわ。ニコラス様は両親から常に馬鹿呼ばわりされていたから、賢いアンジェラに強く当たっていたのね」
母が頷く。
「確かにニコラスは本当に馬鹿だったよ。家庭教師を頼まれて教えていたけれども彼ほどの馬鹿は見たことが無かったよ。入学試験に合格させるのにどれほど苦労したことか…こんな事なら、もっと授業料を釣り上げとけば良かったかな」
兄は腕組みしながら言う。
「お父様、お母様…それにお兄様まで…。まさにその通りだわ。それで…いつまであの親子を放置しておくつもりですか?このままではますますエスカレートしていくばかりですけど?」
「うむ…確かにそうだな。頃合いを見て出てもいいが…アンジェラ、お前はどうしたい?」
「そうですね…」
わたしはニコラスの様子を見た。彼は今両親から馬鹿だのクズだのと呼ばれて叱責されている。
「…こうしてみると何だかニコラス様が少し哀れに感じます。あれでは虐待に近いのでは無いでしょうか?」
「そのようだな。多少気の毒な境遇とも言える」
「それならアンジェラ。彼を気の毒に思って、このままずっと我慢していけるのかい?」
兄が尋ねてきた。
「いえ、無理ですね」
私はきっぱり答える。
「まぁ!てっきりニコラス様に同情してこのまま結婚するのかと思ったわ」
母が驚いたように目を見開く。
「ええ、本来ならそうかも知れませんが…でも虐待は負の連鎖を引き起こします。親から虐待されて育った者は生まれてきた我が子を同じ目に遭わせかねません。私は我が子をそのような目に遭わせたくありません」
「「「なるほど」」」
父、母、兄が声を揃える。
「ですが、このままあっさり切り捨てるのも気の毒といえば気の毒です。ニコラス様がああなってしまったのはそもそも両親の歪んだ教育のせいだと思うのです」
「まぁ、確かにそうと言えるかもしれないが…ではどうするのだ?」
父が尋ねてきた。
「はい、東の国では【仏の顔も3度まで】と言うことわざがあります。なので後3回だけ、今後私に対するニコラスの態度を許そうと思います。けれど4度目…私の我慢の限界を超えた場合は此方から婚約破棄を申し出る許可を取らせて下さい」
「え…貴女は本当にそれでいいの?」
「はい、お母様」
私は頷く。
「まぁ…アンジェラが自分で決めたことなら僕は何も言えないが…」
「よし、分かった。ではその様にしよう。しかし、本当にお前はよく出来た娘だな。私も鼻が高いよ」
父は私を見ると言った。
「ありがとうございます」
しかし、家族は私の本意を知らないだろう。あのニコラスの事。絶対にまた同じことを繰り返すに決まっている。私はただ自分から堂々とニコラスに公衆の面前でで婚約破棄を告げてやりたいのだ。仮にニコラスが心を入れ替えればそれはそれで婚約関係を続けても構わない。
どちらにしろ、もう私はニコラスにもパメラにも、そして2人の取り巻きたちにもうんざりしているのだから。
「よし、それでは…応接室へ行くとするか」
「はい、お父様」
父の言葉に私は返事をした―。
82
お気に入りに追加
4,666
あなたにおすすめの小説
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
扇 レンナ
恋愛
一途な隠れ美形の竜騎士さま×捨てられた令嬢――とろけるほどに甘い、共同生活
小さな頃から《女》というだけで家族に疎まれてきた子爵令嬢メリーナは、ある日婚約者の浮気現場を目撃する。
挙句、彼はメリーナよりも浮気相手を選ぶと言い、婚約破棄を宣言。
家族からも見放され、行き場を失ったメリーナを助けたのは、野暮ったい竜騎士ヴィリバルトだった。
一時的に彼と共同生活を送ることになったメリーナは、彼に底なしの愛情を与えられるように……。
隠れ美形の竜騎士さまと極上の生活始めます!
*hotランキング 最高44位ありがとうございます♡
◇掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス
◇ほかサイトさまにてコンテストに応募するために執筆している作品です。
◇ベリーズカフェさん先行公開です。こちらには文字数が溜まり次第転載しております。
もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。
ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。
ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」
ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」
ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」
聞こえてくる声は今日もあの方のお話。
「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16)
自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる