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第5話 証拠は?

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「ほら!これが証拠だ」

「…」

私はあまりの言いがかりに反論する気にもなれなかった。確かにノートは無惨に破かれてはいるが何処に私が破いたという証拠があるのだろう?

「黙っている…と言う事はその通りなのだろう?何故破いたのだ!言えっ!」

「あの…私が破いたという証拠はどこにあるのですか?」

「証拠だと?彼女たちが見ていたのだからな、証拠などいらないだろう」

ニコラスは後ろに立つ3人の女子学生たちに言う。

「ええ。私達は見たわ」
「アンジェラさんはパメラから無理やりノートを奪ったのよ」
「ひどい人だわ…いきなりページを破くんだから」

「どうだ?彼女たちはああ言っているが?」

そしてニコラスはパメラを振り向くと言った。

「パメラはお前が謝罪してくれれば許すと言ってるぞ?そうだろう?パメラ」

「は、はい…アンジェラさんは私がニコラスと仲が良いのが許せなかったのだと思うの。それであんな真似をしたのでしょう…。きっと頭に血が登っての咄嗟のことだったのじゃないかしら?だから…謝ってくれれば私はそれで構わないわ」

そして私をチラリと見た。

「…」

私は半ば呆れながらパメラを見た。一応私は子爵家の令嬢であり、パメラは平民。通常貴族が平民に頭を下げることなどありえない。それは貴族のメンツを潰すことになるからだ。
パメラは私が余程気に入らないのだろう。なんとしても頭を下げさせたいのだろう。だが、私は今迄一度たりとも頭を下げたことは無い。何しろ私は何一つ悪いことはしていないのだから。

「どうした!黙っていないでさっさと謝れっ!」

ニコラスが怒鳴るが、彼の怒鳴り声など少しも怖くはなかった。

「それはおかしな話ですね」

私は腕組みしながら言う。


「…何がおかしいのだ?」

「それでは聞くけど、何時頃の話なの?」

私はパメラに尋ねた。

「えっと…確か16時半頃かしら?」

16時半と言えば、学生たちはほとんど帰宅している。恐らく誰にも見られていない環境下で私に嫌がらせをされたと訴えたいのだろう。

「それはおかしな話ね。16時半なら私は家に帰っている時間よ」

「あ、な、なら16時くらいだったかもしれないわ。ね?そうだったわよね?」

パメラは焦ったように3人の友人たちに同意を求める。

「そ、そうそう。あれは16時だったわね」
「ええ、そうだったわね」
「私達の勘違いだったわ」

3人の女子学生が慌てて頷く。全く…こんな子供でもバレるような嘘を良くも平気でつけるものだ。

「それなら…つまり3人共私がパメラのノートを破くところを見たというのね?」

「ええ、そうよ」

1人の女子学生が返事をする。

「何だ?お前は何が言いたい?」

不機嫌そうにニコラスが尋ねてくる。

「つまり彼女たちはパメラのノートが私に破かれるのを黙って見ていたと言うことですよね?止めることもせず…。それっておかしくないですか?」

「な…っ!パ、パメラ…」

ニコラスがパメラを振り向く。

「ニコラス…わ、私…嘘なんてついていないわ…彼女たちはアンジェラさんが貴族だったから…何も言えなかったのよ…」

パメラが涙目でニコラスを見る。

「「「…」」」

3人の女子学生たちは黙ってうつむいている。


「あ、ああ…分かった。信じるよ。パメラの事を」

ニコラスはパメラの頭を撫でながら言う。恐らくニコラスはパメラの言葉なんか信用していないだろう。だが、ニコラスに取ってパメラは大切な幼馴染であり恋人だ。彼にとって私はパメラとの仲を引き裂く悪女でしか無いのだろう。

「…いい加減にしてくれませんか?兎に角私は何もしていないので謝るつもりはこれっぽっちもありません」

肩をすくめて言う。

「な、何だとっ?!お前はまたそんな口を叩くのかっ?!」

「ええ。事実を述べただけですが?それに私は昨日、16時には帰宅しています。証拠ならありますよ?屋敷の人たちが証明してくれるでしょうから」

「お前は…本当に可愛げの無い女なのだな?!だから俺はお前のそういう所が嫌なんだっ!」

「ええ。その台詞も聞き飽きました。それではもう戻ってもいいですか?授業が始まりそうなので」

それだけ言うと私はニコラス達を置いて空き教室を出て行った。

「この分だと…今日の放課後また呼び出しを食らいそうね…」

そして私はため息を付いた―。


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