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5章 11 二度目のタブー
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私を庇ったことで、リオンは怪我をしてしまった。
「リオン……?」
呼びかけても返事はない。彼は完全に気を失っている。
私はリオンの髪をそっと撫でた。今の彼が置かれた状況は、ゲームのストーリよりも悪化しているように思えてならない。
ゲームの世界では、リオンは自分の魔力暴走で顔の半分に火傷を負ってしまった。
けれど、この世界で顔に火傷をしたのはロザリンだった。
リオンの火傷は顔の半分で、伸ばした前髪で隠せる程度だったがロザリンは違う。
顔全体に二目と見られないほどの大火傷を負ってしまったのだ。よくあれで命が助かったと思う。
あの大火傷した顔で激しく責められ、詰られるのはさぞかしリオンにとって辛い状況だろう。
リオンの苦悩はそれだけではない。彼は私が死んだと思い込んでいるのだ。
そのことで、酷い罪悪感を抱いていることを知ってしまった。
結局、リオンに良かれと思って取った私の行動が……逆に彼を苦しめることになってしまったのだ。
光の属性がありながら、それらしい兆候の魔法すら使えない私。
「私に治癒能力があればいいのに……」
そのとき……ふと、ある考えが浮かんだ。
「そうだわ……せめて怪我をする前の状態に戻すことが出来れば……」
6年前に偶然禁忌魔法を発動して以来、目覚めてからただの一度も「時を止める魔法」を使ったことはない。
禁忌魔法を使うことは固く禁じられているし、第一どうすればあの魔法を使うことが出来るのか自分でも分らない。
時を止めることが出来るのなら、他のことも出来るかもしれない。
タブーを犯すことになるけれど……試してみる価値はあるかも……!
私は目を閉じると、心の底から祈った。どうか、リオンの身体が怪我する前に戻るように……。
意識を集中させて、イメージする。
すると徐々に首の後ろの刻印が熱を持ったかのように熱くなってくるのを感じた。
恐る恐る目を開けてみる。
すると鞭で打たれて破け、服に滲んでいた血が跡形もなく消えていくのだ。
「やっぱり……!」
思わず口に出したとき。
「う……」
リオンが呻いたので、慌てて私は手を離した。途端に首の刻印の熱も一気に冷めていく。
「ん……あ……れ……?」
床に倒れていたリオンが目を開けた。
「リオン。大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。妙だな……身体が少しも痛まない……あ!」
身体を起こしたリオンは自分の今の状況に気付いたようだ。
「消えている……ロザリンに鞭で打たれた傷が消えている! それどころか、服まで……! もしかして、君が治してくれたのか!?」
リオンがじっと私の目を見つめてくる。
「……ええ。そうみたい……」
嘘をついていることが後ろめたくて、目を伏せて返事をした。
「すごい……本当に君はすごいよ。でも治癒魔法が使えるようになったんだね!? それじゃ、早速ロザリンに報告に行ってこよう!」
「待って! リオンッ!」
部屋を出ていこうとしたリオンの袖を掴んで止めた。
「どうしたんだ?」
「お願い……ロザリンには言わないで。内緒にしておいて欲しいの!」
首を振って必死に訴える。
「何故? だって治癒魔法が使えるようになったじゃないか」
絶対に人前で禁忌魔法を使うことは禁じられている。今回もリオンが意識を失っている状態だったからこそ出来たのだ。けれどそれだって違反していることに違いない。
もし、このことがバレたら……私は絶対にタダでは済まされないだろう。
「も、もう魔力が切れてしまったの……それに、まだまだ私の治癒魔法は完璧じゃ無いわ。リオンの傷はそれほど酷く無かったから治すことが出来たのよ。今の私にはロザリンの怪我は治せない。そしてもっと彼女の怒りを買ってしまうに違いないわ」
私の話に、リオンは少しの間黙っていたけれども、納得してくれた。
「そうだよな。確かに君の言う通りだ。治癒魔法が使えるようになったと言って、治せなかったらロザリンは怒りで手が付けられなくなるかもしれない……」
「リオン……」
リオンは俯き、少しだけ考え込むような素振りの後に顔を上げた。
「クラリス、今夜この屋敷から君を逃がしてあげるよ」
「え?」
それは突然の話だった――
「リオン……?」
呼びかけても返事はない。彼は完全に気を失っている。
私はリオンの髪をそっと撫でた。今の彼が置かれた状況は、ゲームのストーリよりも悪化しているように思えてならない。
ゲームの世界では、リオンは自分の魔力暴走で顔の半分に火傷を負ってしまった。
けれど、この世界で顔に火傷をしたのはロザリンだった。
リオンの火傷は顔の半分で、伸ばした前髪で隠せる程度だったがロザリンは違う。
顔全体に二目と見られないほどの大火傷を負ってしまったのだ。よくあれで命が助かったと思う。
あの大火傷した顔で激しく責められ、詰られるのはさぞかしリオンにとって辛い状況だろう。
リオンの苦悩はそれだけではない。彼は私が死んだと思い込んでいるのだ。
そのことで、酷い罪悪感を抱いていることを知ってしまった。
結局、リオンに良かれと思って取った私の行動が……逆に彼を苦しめることになってしまったのだ。
光の属性がありながら、それらしい兆候の魔法すら使えない私。
「私に治癒能力があればいいのに……」
そのとき……ふと、ある考えが浮かんだ。
「そうだわ……せめて怪我をする前の状態に戻すことが出来れば……」
6年前に偶然禁忌魔法を発動して以来、目覚めてからただの一度も「時を止める魔法」を使ったことはない。
禁忌魔法を使うことは固く禁じられているし、第一どうすればあの魔法を使うことが出来るのか自分でも分らない。
時を止めることが出来るのなら、他のことも出来るかもしれない。
タブーを犯すことになるけれど……試してみる価値はあるかも……!
私は目を閉じると、心の底から祈った。どうか、リオンの身体が怪我する前に戻るように……。
意識を集中させて、イメージする。
すると徐々に首の後ろの刻印が熱を持ったかのように熱くなってくるのを感じた。
恐る恐る目を開けてみる。
すると鞭で打たれて破け、服に滲んでいた血が跡形もなく消えていくのだ。
「やっぱり……!」
思わず口に出したとき。
「う……」
リオンが呻いたので、慌てて私は手を離した。途端に首の刻印の熱も一気に冷めていく。
「ん……あ……れ……?」
床に倒れていたリオンが目を開けた。
「リオン。大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。妙だな……身体が少しも痛まない……あ!」
身体を起こしたリオンは自分の今の状況に気付いたようだ。
「消えている……ロザリンに鞭で打たれた傷が消えている! それどころか、服まで……! もしかして、君が治してくれたのか!?」
リオンがじっと私の目を見つめてくる。
「……ええ。そうみたい……」
嘘をついていることが後ろめたくて、目を伏せて返事をした。
「すごい……本当に君はすごいよ。でも治癒魔法が使えるようになったんだね!? それじゃ、早速ロザリンに報告に行ってこよう!」
「待って! リオンッ!」
部屋を出ていこうとしたリオンの袖を掴んで止めた。
「どうしたんだ?」
「お願い……ロザリンには言わないで。内緒にしておいて欲しいの!」
首を振って必死に訴える。
「何故? だって治癒魔法が使えるようになったじゃないか」
絶対に人前で禁忌魔法を使うことは禁じられている。今回もリオンが意識を失っている状態だったからこそ出来たのだ。けれどそれだって違反していることに違いない。
もし、このことがバレたら……私は絶対にタダでは済まされないだろう。
「も、もう魔力が切れてしまったの……それに、まだまだ私の治癒魔法は完璧じゃ無いわ。リオンの傷はそれほど酷く無かったから治すことが出来たのよ。今の私にはロザリンの怪我は治せない。そしてもっと彼女の怒りを買ってしまうに違いないわ」
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「そうだよな。確かに君の言う通りだ。治癒魔法が使えるようになったと言って、治せなかったらロザリンは怒りで手が付けられなくなるかもしれない……」
「リオン……」
リオンは俯き、少しだけ考え込むような素振りの後に顔を上げた。
「クラリス、今夜この屋敷から君を逃がしてあげるよ」
「え?」
それは突然の話だった――
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