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3章15 揉め事
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『ニルヴァーナ』のゲームのヒロイン、クラリスは周囲から羨ましがられるほどの美貌を持っていた。
そのため女性から嫉妬されることも多く、入寮初日に女子学生から嫌がらせを受けて納屋に半日閉じ込められるストーリーがあった。
ゲームの進行状況により、4人のヒーローの誰かに助けてもらうイベントに発展していくのだが……。
21時にアンディと会う約束があるのに、そんな目に遭うわけにはいかない。
「言っておきたいことって何でしょうか?」
冷静に女性に尋ねる。
「あなた……見かけたことが無いけれど、外部からこの大学に入学してきたでしょう?」
女子学生は睨みつけてきた。
「はい、そうです」
「今日あなたが一緒にいた男性には昔から想い人の女性がいるのよ? だから、私達は遠慮して近づかないようにしていたわ。それなのにあなたは彼と食事までしていたらしいわね? 一体どういうことなのか、説明して頂けないかしら?」
「え……? そうだったのですか!?」
その話は驚きだった。ゲーム中のアンディには、そんな描写は無かった。それが、この世界のアンディには好きな女性がいたなんて……。
だけど、6年ぶりに再会した私に彼の事情なんて分かるはずもない。
「まさかアンディに、そんな相手が……」
私の呟きにより、増々女性たちの機嫌が悪くなる。
「アンディですって!? あの方をそんな親しげに呼ぶなんて……!」
周囲の女性たちも一斉にざわめく。
「一体どういうことなのか、詳しく説明してもらわないと。ちょっと話し合いにいきましょうか?」
女子学生は意地悪に笑うと、突然私の右腕を掴んできた。まさかゲームの流れのように、納屋に閉じ込めるつもりなのだろうか?
何とか波風立てずに収めなければ。
「あ、あの! ちょっと待って下さい! 誤解です! 私とアンディは、ただの……」
すると増々周囲の女性たちが怒りをあらわにする。
「また、そんな呼び方をしたわ!」
「何て図々しいの?」
「ちょっときれいな顔しているからって、生意気な!」
「やはり、ちゃんと話をつけなければいけないようね?」
女子学生が私の腕を掴む手に力を込めたそのとき――
「あなたたち! 一体何をしているのですか!」
凛とした声がその場に響き渡り、一斉に静まり返った。
「何か騒ぎがあると思って、来てみれば……新入生を取り囲んで一体何をしているのですか? ブレンダさん」
人混みを掻き分けて現れたのはメガネをかけた女性で、年齢は私達よりも上に見えた。
「あ……。寮母さん。ただ私は、彼女と話をしようと……」
ブレンダと呼ばれた女性は、うろたえた様子を見せながら私の腕を離した。周囲にいた女子学生たちも俯いて口を閉ざしている。
「ただ話をするだけなのに新入生の腕を掴んで、無理矢理連れて行こうとする必要がありますか? あなた達も彼女を非難していましたよね?」
寮母さんの言葉に、ますます女子学生たちは怯えた様子を見せる。何故、ここまで寮母さんを恐れているのだろう?
「あなた達のことは学長に報告する必要がありそうですね」
学長という言葉に、女子学生たちから悲鳴じみた声が上がった。
「そ、そんな!」
「お願いです! それだけはやめてください!」
「もう、二度とこの様な真似はしません!」
一方、中心人物にいたブレンダは真っ青になって震えている。
「反省しているのなら彼女に謝罪しなさい」
すると次々に女子学生達はまるで競うように私に謝罪し、二度とこの様な真似はしないと誓ってくれたのだ。
そして最後にブレンダが私の前にやって来た。
「……ごめんなさい、悪かったわ……」
けれど、その目は少しも反省しているようには見えなかった。
「いいえ、もう大丈夫ですから」
他に言葉が見つからず、ありきたりな返事をすると、寮母さんがその場を収めるように口を開いた。
「新入生の皆さん、早く部屋に戻って荷物整理をしなさい。夕食まで後2時間もありませんよ!」
その言葉に、寮生たちはゾロゾロとその場を去っていった。
「あの、寮母さん。助けて頂き、ありがとうございます」
お礼を述べると、寮母さんは笑顔になる。
「いいのよ、でもお礼ならそこの彼女にも言って頂戴。あの女性が私を呼びに来てくれなければ気づかなかったかのだから」
「え?」
寮母さんに言われて振り返ると、ハンカチを拾ってくれた女性が私を見つめていた……。
そのため女性から嫉妬されることも多く、入寮初日に女子学生から嫌がらせを受けて納屋に半日閉じ込められるストーリーがあった。
ゲームの進行状況により、4人のヒーローの誰かに助けてもらうイベントに発展していくのだが……。
21時にアンディと会う約束があるのに、そんな目に遭うわけにはいかない。
「言っておきたいことって何でしょうか?」
冷静に女性に尋ねる。
「あなた……見かけたことが無いけれど、外部からこの大学に入学してきたでしょう?」
女子学生は睨みつけてきた。
「はい、そうです」
「今日あなたが一緒にいた男性には昔から想い人の女性がいるのよ? だから、私達は遠慮して近づかないようにしていたわ。それなのにあなたは彼と食事までしていたらしいわね? 一体どういうことなのか、説明して頂けないかしら?」
「え……? そうだったのですか!?」
その話は驚きだった。ゲーム中のアンディには、そんな描写は無かった。それが、この世界のアンディには好きな女性がいたなんて……。
だけど、6年ぶりに再会した私に彼の事情なんて分かるはずもない。
「まさかアンディに、そんな相手が……」
私の呟きにより、増々女性たちの機嫌が悪くなる。
「アンディですって!? あの方をそんな親しげに呼ぶなんて……!」
周囲の女性たちも一斉にざわめく。
「一体どういうことなのか、詳しく説明してもらわないと。ちょっと話し合いにいきましょうか?」
女子学生は意地悪に笑うと、突然私の右腕を掴んできた。まさかゲームの流れのように、納屋に閉じ込めるつもりなのだろうか?
何とか波風立てずに収めなければ。
「あ、あの! ちょっと待って下さい! 誤解です! 私とアンディは、ただの……」
すると増々周囲の女性たちが怒りをあらわにする。
「また、そんな呼び方をしたわ!」
「何て図々しいの?」
「ちょっときれいな顔しているからって、生意気な!」
「やはり、ちゃんと話をつけなければいけないようね?」
女子学生が私の腕を掴む手に力を込めたそのとき――
「あなたたち! 一体何をしているのですか!」
凛とした声がその場に響き渡り、一斉に静まり返った。
「何か騒ぎがあると思って、来てみれば……新入生を取り囲んで一体何をしているのですか? ブレンダさん」
人混みを掻き分けて現れたのはメガネをかけた女性で、年齢は私達よりも上に見えた。
「あ……。寮母さん。ただ私は、彼女と話をしようと……」
ブレンダと呼ばれた女性は、うろたえた様子を見せながら私の腕を離した。周囲にいた女子学生たちも俯いて口を閉ざしている。
「ただ話をするだけなのに新入生の腕を掴んで、無理矢理連れて行こうとする必要がありますか? あなた達も彼女を非難していましたよね?」
寮母さんの言葉に、ますます女子学生たちは怯えた様子を見せる。何故、ここまで寮母さんを恐れているのだろう?
「あなた達のことは学長に報告する必要がありそうですね」
学長という言葉に、女子学生たちから悲鳴じみた声が上がった。
「そ、そんな!」
「お願いです! それだけはやめてください!」
「もう、二度とこの様な真似はしません!」
一方、中心人物にいたブレンダは真っ青になって震えている。
「反省しているのなら彼女に謝罪しなさい」
すると次々に女子学生達はまるで競うように私に謝罪し、二度とこの様な真似はしないと誓ってくれたのだ。
そして最後にブレンダが私の前にやって来た。
「……ごめんなさい、悪かったわ……」
けれど、その目は少しも反省しているようには見えなかった。
「いいえ、もう大丈夫ですから」
他に言葉が見つからず、ありきたりな返事をすると、寮母さんがその場を収めるように口を開いた。
「新入生の皆さん、早く部屋に戻って荷物整理をしなさい。夕食まで後2時間もありませんよ!」
その言葉に、寮生たちはゾロゾロとその場を去っていった。
「あの、寮母さん。助けて頂き、ありがとうございます」
お礼を述べると、寮母さんは笑顔になる。
「いいのよ、でもお礼ならそこの彼女にも言って頂戴。あの女性が私を呼びに来てくれなければ気づかなかったかのだから」
「え?」
寮母さんに言われて振り返ると、ハンカチを拾ってくれた女性が私を見つめていた……。
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