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ヤンの章 ⑮ アゼリアの花に想いを寄せて
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その日の夜の事―
食堂で皆と食事を食べ終え、お茶を飲んでいる時だった―。
コンコンコン
扉をノックする音が聞こえてきた。
「あら?誰かしら…こんな時間に。信者さんかしら?」
シスターアンジュが立ち上がった。
「あ、僕が出ますよ」
シスターアンジュは女性だ。中には時々酔っ払いが教会を訪ねてくる事もあるから夜の訪問者は僕が対応するようにしていた。
「そう?ありがとう」
扉の前に立つと声を掛けた。
「どちら様ですか?」
「俺だ。オリバーだよ」
「え?!オリバーさん?!」
驚いて扉を開けると、そこには仕事帰りなのだろうか。スーツ姿のオリバーさんが立っていた。
「こんばんは、ヤン」
「はい、こんばんは…」
こんな夜にオリバーさんが訪ねてくるなんて初めてだった。
「あ、中へどうぞ」
するとオリバーさんが首を振った。
「いや、中へは入らなくていい。それよりヤン、男同士2人で少し話をしないか?」
オリバーさんはウィンクすると僕を見た―。
****
アゼリア様のお墓のある丘の上に僕とオリバーさんは来ていた。
「今夜は星が綺麗だな~」
オリバーさんは芝生の上に寝っ転がり、夜空を見上げている。
「ええ…そうですね」
それにしても分からない。オリバーさんは何故ここへ僕を連れてきたのだろう?
すると僕の心を見透かしたかのようにオリバーさんはポツリと言った。
「アゼリアは…俺にとっても本当に大切な存在だったよ…」
「え?」
いきなりの話で僕は驚いてオリバーさんを見た。
「初めてアゼリアを見た時、まるで天使かと思う程だった。俺達はまるで奪い合うようにアゼリアの世話を焼きたがったんだ。尤も、ほとんどヨハンにアゼリアをとられていたけどな」
「…」
僕は黙ってオリバーさんの話を聞いていた。
「だから…アゼリアがフレーベル家に貰われていくことが決定したときは本当に悲しかった。でも貴族の家に貰われていくんだ。きっと幸せになってくれるだろうと信じていたのに…」
そこで悔しそうにオリバーさんは唇を噛む。
「アゼリアは…貰われた先で酷い虐待を受けていた。挙げ句に再会したときは…既に余命を宣告されていた…」
「そう…でしたね…」
「だから俺はフレーベル家を憎んだよ。あいつらがアゼリアをあんな目に遭わせなければ白血病にならなかったんじゃないかって。フレーベル家の人間が正当な裁きを受けたことをベンジャミンから聞かされた時は嬉しかったけど…結局法律が改正されて…あいつらは出所してしまった…」
「オリバーさん…」
「ベンジャミンは言ってたよ。今の裁判は貴族に甘すぎると。でもそれじゃ駄目なんだよ。貴族だって平民だって正当な裁きを受けなければ不公平だろう?アゼリアをあんな目に遭わせて置きながら、たった10年で出所なんておかしいじゃないか。だから優秀な弁護士が必要になるんだ。俺はそう思っている。ヤン…お前なら分かるだろう?アゼリアを大切に思っていたお前なら…」
「…」
「実は…俺の方からもベンジャミンに頼んでいたんだ。ヤンを大学に行かせてやりたいからヨハンと3人で援助してやらないかって。そうしたら、ベンジャミンが自分には跡継ぎがいないからヤンを養子にしようと提案してきたんだよ。ベンジャミンから既に養子の話…されたんじゃないのか?」
「そ、それは…」
「…メロディもこの話を知ってるんだよ」
「え?」
「ヤンにはまだ養子縁組の話はいっていないのかって、今日会社にわざわざメロディがやって来たんだよ」
「そう…だったんですか…?」
だから、メロディは先に帰ったのか…。
「ヤンが…メロディと一緒に『ハイネ』の大学に進んでくれると、俺も安心できるんだけな…」
オリバーさんは身体を起こすと僕をじっと見つめた―。
食堂で皆と食事を食べ終え、お茶を飲んでいる時だった―。
コンコンコン
扉をノックする音が聞こえてきた。
「あら?誰かしら…こんな時間に。信者さんかしら?」
シスターアンジュが立ち上がった。
「あ、僕が出ますよ」
シスターアンジュは女性だ。中には時々酔っ払いが教会を訪ねてくる事もあるから夜の訪問者は僕が対応するようにしていた。
「そう?ありがとう」
扉の前に立つと声を掛けた。
「どちら様ですか?」
「俺だ。オリバーだよ」
「え?!オリバーさん?!」
驚いて扉を開けると、そこには仕事帰りなのだろうか。スーツ姿のオリバーさんが立っていた。
「こんばんは、ヤン」
「はい、こんばんは…」
こんな夜にオリバーさんが訪ねてくるなんて初めてだった。
「あ、中へどうぞ」
するとオリバーさんが首を振った。
「いや、中へは入らなくていい。それよりヤン、男同士2人で少し話をしないか?」
オリバーさんはウィンクすると僕を見た―。
****
アゼリア様のお墓のある丘の上に僕とオリバーさんは来ていた。
「今夜は星が綺麗だな~」
オリバーさんは芝生の上に寝っ転がり、夜空を見上げている。
「ええ…そうですね」
それにしても分からない。オリバーさんは何故ここへ僕を連れてきたのだろう?
すると僕の心を見透かしたかのようにオリバーさんはポツリと言った。
「アゼリアは…俺にとっても本当に大切な存在だったよ…」
「え?」
いきなりの話で僕は驚いてオリバーさんを見た。
「初めてアゼリアを見た時、まるで天使かと思う程だった。俺達はまるで奪い合うようにアゼリアの世話を焼きたがったんだ。尤も、ほとんどヨハンにアゼリアをとられていたけどな」
「…」
僕は黙ってオリバーさんの話を聞いていた。
「だから…アゼリアがフレーベル家に貰われていくことが決定したときは本当に悲しかった。でも貴族の家に貰われていくんだ。きっと幸せになってくれるだろうと信じていたのに…」
そこで悔しそうにオリバーさんは唇を噛む。
「アゼリアは…貰われた先で酷い虐待を受けていた。挙げ句に再会したときは…既に余命を宣告されていた…」
「そう…でしたね…」
「だから俺はフレーベル家を憎んだよ。あいつらがアゼリアをあんな目に遭わせなければ白血病にならなかったんじゃないかって。フレーベル家の人間が正当な裁きを受けたことをベンジャミンから聞かされた時は嬉しかったけど…結局法律が改正されて…あいつらは出所してしまった…」
「オリバーさん…」
「ベンジャミンは言ってたよ。今の裁判は貴族に甘すぎると。でもそれじゃ駄目なんだよ。貴族だって平民だって正当な裁きを受けなければ不公平だろう?アゼリアをあんな目に遭わせて置きながら、たった10年で出所なんておかしいじゃないか。だから優秀な弁護士が必要になるんだ。俺はそう思っている。ヤン…お前なら分かるだろう?アゼリアを大切に思っていたお前なら…」
「…」
「実は…俺の方からもベンジャミンに頼んでいたんだ。ヤンを大学に行かせてやりたいからヨハンと3人で援助してやらないかって。そうしたら、ベンジャミンが自分には跡継ぎがいないからヤンを養子にしようと提案してきたんだよ。ベンジャミンから既に養子の話…されたんじゃないのか?」
「そ、それは…」
「…メロディもこの話を知ってるんだよ」
「え?」
「ヤンにはまだ養子縁組の話はいっていないのかって、今日会社にわざわざメロディがやって来たんだよ」
「そう…だったんですか…?」
だから、メロディは先に帰ったのか…。
「ヤンが…メロディと一緒に『ハイネ』の大学に進んでくれると、俺も安心できるんだけな…」
オリバーさんは身体を起こすと僕をじっと見つめた―。
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