72 / 124
ヤンの章 ① アゼリアの花に想いを寄せて
しおりを挟む
「あら?ヤン何処かへ出かけるの?今日は日曜日で学校はお休みじゃない」
朝、出かける準備をしていた僕にシスターアンジュが声を掛けてきた。
「はい、アゼリア様のお墓参りに行ってきます。今日は15日ですから」
「あ…そうだったわね。今日はアゼリアの月命日だったわ…」
シスターアンジュが思い出したかのように言う。
「ね~アゼリア様って誰?」
去年この教会にやってきたばかりのまだ5歳のカレンが不思議そうに首を傾げた。
「アゼリア様って方はね、昔この教会で赤ちゃんだった時少しだけ暮らしていた方で、その後大人になってからはこの国の王太子様のお嫁さんになった方なのよ。でも。病気になって20歳の時に亡くなってしまった方なの。生きていれば私と同じ年齢ね。神秘的な緑の瞳のとってもきれいな方だったのよ」
「…」
シスターアンジュの話を複雑な気持ちで聞きながら僕は教会を出た。
「アゼリア様は赤いアゼリアの花が好きだったな…」
教会の周りにはアゼリアの花が沢山植えられている。それはここの教会出身のヨハン先生とオリバーさんの意向で植えられたのだと聞いている。
一番花が大きくて色が鮮やかなアゼリアの花を10本摘み取り、アゼリア様のお墓へ向かった。
とても青い空が美しい5月。
教会の裏手には小高い丘がある。昔は『見晴らしの丘』と呼ばれていたらしいけれども今では『アゼリアの丘』と呼ばれ、王族の敷地になっていた。勿論誰でもこの丘に立ち入る事が出来る。
そしてこの『リンデン』の町が一望出来る場所にアゼリア様とアゼリア様のご両親のお墓が建っている。そしてこのお墓の周囲にもアゼリアの花が咲き乱れている。
僕はアゼリアのお墓の前に立つと言った。
「アゼリア様…また会いに来ましたよ」
僕はアゼリアの花束をそっとアゼリア様の眠るお墓の上に置いた。
早いもので、僕が大好きだったアゼリア様が亡くなって10年の歳月が流れていた。
僕は18歳になり、今年高校を卒業したら今住んでいる教会を出て一人暮らしをする事になっている。
「アゼリア様、聞いて下さい。僕…アゼリア様のように勉強を頑張って学年1の成績を持っているんですよ。本当は僕もヨハン先生やカイ先生、それにマルセル先生のような医者になりたかったんですけど…お金が集まらなくて医学部に進学するのを諦めてしまいました。アゼリア様の命を奪った白血病の治療の研究をしたかったのに…」
いや、本当はそうじゃない。僕はアゼリア様の贖罪の為に医者を目指したかったんだ。あの時、僕がアゼリア様の異変に気付いていれば…すぐにヨハン先生を呼びに行って命を助けることが出来たかもしれない。なのに僕はアゼリア様が亡くなっているとは気づきもしなかったんだ。
「アゼリア様…。許して下さい…僕は貴女を見殺しにしてしまいまいした…」
そして僕は今日もアゼリア様のお墓の前で許しを請う―。
朝、出かける準備をしていた僕にシスターアンジュが声を掛けてきた。
「はい、アゼリア様のお墓参りに行ってきます。今日は15日ですから」
「あ…そうだったわね。今日はアゼリアの月命日だったわ…」
シスターアンジュが思い出したかのように言う。
「ね~アゼリア様って誰?」
去年この教会にやってきたばかりのまだ5歳のカレンが不思議そうに首を傾げた。
「アゼリア様って方はね、昔この教会で赤ちゃんだった時少しだけ暮らしていた方で、その後大人になってからはこの国の王太子様のお嫁さんになった方なのよ。でも。病気になって20歳の時に亡くなってしまった方なの。生きていれば私と同じ年齢ね。神秘的な緑の瞳のとってもきれいな方だったのよ」
「…」
シスターアンジュの話を複雑な気持ちで聞きながら僕は教会を出た。
「アゼリア様は赤いアゼリアの花が好きだったな…」
教会の周りにはアゼリアの花が沢山植えられている。それはここの教会出身のヨハン先生とオリバーさんの意向で植えられたのだと聞いている。
一番花が大きくて色が鮮やかなアゼリアの花を10本摘み取り、アゼリア様のお墓へ向かった。
とても青い空が美しい5月。
教会の裏手には小高い丘がある。昔は『見晴らしの丘』と呼ばれていたらしいけれども今では『アゼリアの丘』と呼ばれ、王族の敷地になっていた。勿論誰でもこの丘に立ち入る事が出来る。
そしてこの『リンデン』の町が一望出来る場所にアゼリア様とアゼリア様のご両親のお墓が建っている。そしてこのお墓の周囲にもアゼリアの花が咲き乱れている。
僕はアゼリアのお墓の前に立つと言った。
「アゼリア様…また会いに来ましたよ」
僕はアゼリアの花束をそっとアゼリア様の眠るお墓の上に置いた。
早いもので、僕が大好きだったアゼリア様が亡くなって10年の歳月が流れていた。
僕は18歳になり、今年高校を卒業したら今住んでいる教会を出て一人暮らしをする事になっている。
「アゼリア様、聞いて下さい。僕…アゼリア様のように勉強を頑張って学年1の成績を持っているんですよ。本当は僕もヨハン先生やカイ先生、それにマルセル先生のような医者になりたかったんですけど…お金が集まらなくて医学部に進学するのを諦めてしまいました。アゼリア様の命を奪った白血病の治療の研究をしたかったのに…」
いや、本当はそうじゃない。僕はアゼリア様の贖罪の為に医者を目指したかったんだ。あの時、僕がアゼリア様の異変に気付いていれば…すぐにヨハン先生を呼びに行って命を助けることが出来たかもしれない。なのに僕はアゼリア様が亡くなっているとは気づきもしなかったんだ。
「アゼリア様…。許して下さい…僕は貴女を見殺しにしてしまいまいした…」
そして僕は今日もアゼリア様のお墓の前で許しを請う―。
1
お気に入りに追加
911
あなたにおすすめの小説
【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される
未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】
ミシェラは生贄として育てられている。
彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。
生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。
繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。
そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。
生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。
ハッピーエンドです!
※※※
他サイト様にものせてます
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる