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マルセルの章 ㊵ 君に伝えたかった言葉
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イングリット嬢からの手紙…。
震える手で机の上の封筒を手に取ると母に告げた。
「この手紙は…部屋に持ち帰ってから目を通します。そして…報告があります」
「報告?どうぞ」
母は手を組むと顎を乗せて俺を見た。
「はい。『キーナ』の医学部に合格しました。明日にでも会社に報告し、退職手続きに入ります」
「そう。…合格おめでとう。マルセル。それで住む場所はどうするつもりなのかしら?」
「はい、当面は大学の寮に仮入居するつもりです。新しいアパートメントが見つかれば引っ越します。入学費用、生活費は貯金があるので大丈夫です」
俺の説明に母は黙って耳を傾けている。やがて全ての説明が終ると母が言った。
「イングリット嬢には…伝えなくていいの?医学部へ合格したこと」
「…それは彼女の手紙を読んでから…決めます」
「そう、分ったわ。先程の話では1週間以内にはここを出ていくと言うのでしょう?色々片付けないとけないことがある筈でしょうから、もう行って構わないわよ」
「はい、失礼します」
母に一礼すると、イングリット嬢の手紙をポケットに入れて自室を目指した―。
****
「ふぅ~…」
背広を脱いで、ハンガーにかけるとネクタイを緩めて書斎机に向かった。
椅子に座り、引き出しからペーパーナイフを取り出して慎重に切り裂き、中から二つ折にされた手紙を取り出した。
「一体何が書いてあるんだ…?」
俺はイグリット嬢からの手紙を読み始めた―。
****
マルセル様へ
お手紙で失礼致します。本来であればお会いしてお話をするのが筋なのでしょうが今の私にはそれが出来難く、お手紙にさせて頂きました。
まず、始めにお詫びさせて下さい。私は貴方をブライアンとの婚約破棄をする為の手段として利用しておりました。ブライアンが私とマルセル様の仲を疑った時に、これを利用させて貰おうと考えたのです。でも決して軽はずみな気持ちではありませんでした。
貴方がアゼリア様の為に願いを聞き入れて婚約破棄を受け入れたことや、アゼリア様とカイザード様が結婚された時も素直に祝っておられたその人柄に心打たれたからです。なので、貴方とならこのまま父と母に流されて結婚仕手も良いかとあさましい考えがいつしか生まれておりました。いいえ、恐らく私は初めて貴方にお会いした時から惹かれていたのかもしれません。
ベンジャミンと別れた経緯を話しましたが、半分の理由しか伝えていませんでした。残りの半分は、マルセル様。貴方に興味が湧いてしまったからです。
何て気が多い女だろうと思われても仕方ありません。ですが、貴方とお会いして話をしている時間はとても楽しかったです。私はマルセル様が結婚の話が進につれ、内心困っているのは知っていましたが、ずるい私は気付かないフリをしていました。恐らくマルセル様は内心困ってはいるものの、このまま私と結婚しても良いと思って下さっているのだと、マルセル様の態度で勘違いしておりました。
ですが、やはりマルセル様はご自分の心に正直な方でしたね。カイザード王太子様に勧められた医学部入学の面接の話をあっさりその場で決めてしまわれたのですから。その時に私は確信しました。
やはりマルセル様は私との結婚をまるきり考えていなかったのだと。
なので、私は身を引く覚悟を決めました。両親はマルセル様の事を大変激怒しておりましたが、私が必ず納得させて怒りを鎮めます。
本当にご迷惑をお掛け致しました。
今までありがとうございました。マルセル様と過ごした時間、とても充実しておりました。
最後に受け取った大きな花束…とても嬉しかったです。
さようなら。どうかお元気で
PS 今更ですが…私は恐らくマルセル様の事が好きだったのだと思います。
「イングリット嬢…」
俺は震える手で手紙を握りしめた―。
震える手で机の上の封筒を手に取ると母に告げた。
「この手紙は…部屋に持ち帰ってから目を通します。そして…報告があります」
「報告?どうぞ」
母は手を組むと顎を乗せて俺を見た。
「はい。『キーナ』の医学部に合格しました。明日にでも会社に報告し、退職手続きに入ります」
「そう。…合格おめでとう。マルセル。それで住む場所はどうするつもりなのかしら?」
「はい、当面は大学の寮に仮入居するつもりです。新しいアパートメントが見つかれば引っ越します。入学費用、生活費は貯金があるので大丈夫です」
俺の説明に母は黙って耳を傾けている。やがて全ての説明が終ると母が言った。
「イングリット嬢には…伝えなくていいの?医学部へ合格したこと」
「…それは彼女の手紙を読んでから…決めます」
「そう、分ったわ。先程の話では1週間以内にはここを出ていくと言うのでしょう?色々片付けないとけないことがある筈でしょうから、もう行って構わないわよ」
「はい、失礼します」
母に一礼すると、イングリット嬢の手紙をポケットに入れて自室を目指した―。
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「ふぅ~…」
背広を脱いで、ハンガーにかけるとネクタイを緩めて書斎机に向かった。
椅子に座り、引き出しからペーパーナイフを取り出して慎重に切り裂き、中から二つ折にされた手紙を取り出した。
「一体何が書いてあるんだ…?」
俺はイグリット嬢からの手紙を読み始めた―。
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マルセル様へ
お手紙で失礼致します。本来であればお会いしてお話をするのが筋なのでしょうが今の私にはそれが出来難く、お手紙にさせて頂きました。
まず、始めにお詫びさせて下さい。私は貴方をブライアンとの婚約破棄をする為の手段として利用しておりました。ブライアンが私とマルセル様の仲を疑った時に、これを利用させて貰おうと考えたのです。でも決して軽はずみな気持ちではありませんでした。
貴方がアゼリア様の為に願いを聞き入れて婚約破棄を受け入れたことや、アゼリア様とカイザード様が結婚された時も素直に祝っておられたその人柄に心打たれたからです。なので、貴方とならこのまま父と母に流されて結婚仕手も良いかとあさましい考えがいつしか生まれておりました。いいえ、恐らく私は初めて貴方にお会いした時から惹かれていたのかもしれません。
ベンジャミンと別れた経緯を話しましたが、半分の理由しか伝えていませんでした。残りの半分は、マルセル様。貴方に興味が湧いてしまったからです。
何て気が多い女だろうと思われても仕方ありません。ですが、貴方とお会いして話をしている時間はとても楽しかったです。私はマルセル様が結婚の話が進につれ、内心困っているのは知っていましたが、ずるい私は気付かないフリをしていました。恐らくマルセル様は内心困ってはいるものの、このまま私と結婚しても良いと思って下さっているのだと、マルセル様の態度で勘違いしておりました。
ですが、やはりマルセル様はご自分の心に正直な方でしたね。カイザード王太子様に勧められた医学部入学の面接の話をあっさりその場で決めてしまわれたのですから。その時に私は確信しました。
やはりマルセル様は私との結婚をまるきり考えていなかったのだと。
なので、私は身を引く覚悟を決めました。両親はマルセル様の事を大変激怒しておりましたが、私が必ず納得させて怒りを鎮めます。
本当にご迷惑をお掛け致しました。
今までありがとうございました。マルセル様と過ごした時間、とても充実しておりました。
最後に受け取った大きな花束…とても嬉しかったです。
さようなら。どうかお元気で
PS 今更ですが…私は恐らくマルセル様の事が好きだったのだと思います。
「イングリット嬢…」
俺は震える手で手紙を握りしめた―。
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