67 / 124
マルセルの章 ㊲ 君に伝えたかった言葉
しおりを挟む
その日の夜は殆ど眠ることが出来なかった。そして完全な寝不足状態で俺は出社する事になってしまった―。
「おはようございます…」
本当は会社に来ている余裕など無かったが休むわけにもいかず、俺はいつもの様に出社した。
「おはよう、マルセル。それで昨夜はどうだったの?」
既に出社していた隣の席の同僚女性が好奇心いっぱいの目で尋ねて来た。
「ああ、最悪だ。やってしまったよ。もう…生きた心地もしない…」
思わず弱音を吐いてしまう。
「え?そうだったのっ?!あんなに張り切っていたのに?!」
「そうなんだ…」
本当に…何と言って詫びに行けばいいんだろう…。自分の席に座り、仕事の準備をしていると同僚女性が声を掛けて来た。
「まずは仕事が終わったらお詫びに行った方がいいわよ。ただし、手ぶらだけは駄目。余計に心証を悪くしてしまうから」
「成程、確かにそうだな」
「けれど何を持っていけばいいのだろう?」
すると彼女は自信ありげに言う。
「そんなの決まっているじゃない。花束を持っていけばいいのよ。両手一杯抱えきれな位にね。花が嫌いな人なんていないんだから。そうね…メッセージカードも添えればより完璧かもしれないわね」
「えっ?!メッセージカードッ?!そこまでしなくては駄目なのだろうか?」
「当然じゃないの。それに花束は自分の気持ちを綴った花言葉…意味のある花なら完璧よ。これでお相手のご機嫌をとるのよ」
「しかし…」
俺は想像してみた。果たしてオルグレイン伯爵が俺からの花束を受け取って機嫌を直してくれるのだろうか…?
すると同僚女性が言った。
「あら?何よそれ。私の言う事が信じられないの?」
「別にそう言う訳では無いが…」
「兎に角。いい?私の言う通りに今夜実践するのよ?分ったわね?!」
「あ、ああ…分ったよ…」
彼女にすごまれて、俺は了承してしまった―。
****
今日は散々な1日だった。オルグレイン家の事が頭から離れず仕事で単純ミスを連発してしまい、退社時間が19時半を過ぎてしまった。
同じ部署の人間は全員とっくに退社し、残っていたのは自分1人だった。そこで帰り際にこのビルの守衛に戸締りの確認をお願いし、会社を出た。
「花束を作って貰えと言われたが…こんな時間に花屋なんか開いているだろうか?」
街灯に照らされた町を見渡しながら花屋を探して歩いていると偶然にもまだ空いている店を見つけた。
「良かった!まだ開いていたか!」
そして俺は急いで花屋へ向かった―。
****
「…」
同僚女性が言った通り、抱えきれないほどお大きな花束を持った俺は馬車に揺られていた。御者は俺が馬車に乗り込むときに一瞬驚いた顔を見せたが、やはり男が花束を抱えるのは少々気恥ずかしかった。
「本当に…この花束でうまくいくだろうか…?」
俺は一抹の不安を抱えながらオルグレイン家を目指した―。
馬車を降りて、オルグレイン家の大きな扉に立った。
「連絡も無しに来てしまったが…大丈夫だろうか?」
そして意を決してドアノッカーを掴み、ドアをノックした。
暫くすると扉が音を立てて開かれ。ドアマンが現れた。彼は一瞬俺を見て驚いた顔を見せた。男が大量の花束を抱えている姿はやはり違和感があるのだろうか?
「アポイントも無しに、いきなり訪ねて申し訳ございません。私はマルセル・ハイムと申します。オルグレイン伯爵にお会いしたく、参りました」
そして丁寧に頭を下げる。
「少々お待ち頂けますか?」
ドアマンはその場を離れると数分でフットマンを連れて戻って来た。
「旦那様がお会いになるそうです。応接室にご案内するのでこちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
そしてフットマンに連れられ、俺は両手一杯の花束を抱えて応接室へと連れていかれた。
「旦那様と奥様が後から参られます。それまでこちらでお待ち下さい」
「ありがとうございます」
頭を下げるとソファに座り、緊張の面持ちでその時を待った―。
「おはようございます…」
本当は会社に来ている余裕など無かったが休むわけにもいかず、俺はいつもの様に出社した。
「おはよう、マルセル。それで昨夜はどうだったの?」
既に出社していた隣の席の同僚女性が好奇心いっぱいの目で尋ねて来た。
「ああ、最悪だ。やってしまったよ。もう…生きた心地もしない…」
思わず弱音を吐いてしまう。
「え?そうだったのっ?!あんなに張り切っていたのに?!」
「そうなんだ…」
本当に…何と言って詫びに行けばいいんだろう…。自分の席に座り、仕事の準備をしていると同僚女性が声を掛けて来た。
「まずは仕事が終わったらお詫びに行った方がいいわよ。ただし、手ぶらだけは駄目。余計に心証を悪くしてしまうから」
「成程、確かにそうだな」
「けれど何を持っていけばいいのだろう?」
すると彼女は自信ありげに言う。
「そんなの決まっているじゃない。花束を持っていけばいいのよ。両手一杯抱えきれな位にね。花が嫌いな人なんていないんだから。そうね…メッセージカードも添えればより完璧かもしれないわね」
「えっ?!メッセージカードッ?!そこまでしなくては駄目なのだろうか?」
「当然じゃないの。それに花束は自分の気持ちを綴った花言葉…意味のある花なら完璧よ。これでお相手のご機嫌をとるのよ」
「しかし…」
俺は想像してみた。果たしてオルグレイン伯爵が俺からの花束を受け取って機嫌を直してくれるのだろうか…?
すると同僚女性が言った。
「あら?何よそれ。私の言う事が信じられないの?」
「別にそう言う訳では無いが…」
「兎に角。いい?私の言う通りに今夜実践するのよ?分ったわね?!」
「あ、ああ…分ったよ…」
彼女にすごまれて、俺は了承してしまった―。
****
今日は散々な1日だった。オルグレイン家の事が頭から離れず仕事で単純ミスを連発してしまい、退社時間が19時半を過ぎてしまった。
同じ部署の人間は全員とっくに退社し、残っていたのは自分1人だった。そこで帰り際にこのビルの守衛に戸締りの確認をお願いし、会社を出た。
「花束を作って貰えと言われたが…こんな時間に花屋なんか開いているだろうか?」
街灯に照らされた町を見渡しながら花屋を探して歩いていると偶然にもまだ空いている店を見つけた。
「良かった!まだ開いていたか!」
そして俺は急いで花屋へ向かった―。
****
「…」
同僚女性が言った通り、抱えきれないほどお大きな花束を持った俺は馬車に揺られていた。御者は俺が馬車に乗り込むときに一瞬驚いた顔を見せたが、やはり男が花束を抱えるのは少々気恥ずかしかった。
「本当に…この花束でうまくいくだろうか…?」
俺は一抹の不安を抱えながらオルグレイン家を目指した―。
馬車を降りて、オルグレイン家の大きな扉に立った。
「連絡も無しに来てしまったが…大丈夫だろうか?」
そして意を決してドアノッカーを掴み、ドアをノックした。
暫くすると扉が音を立てて開かれ。ドアマンが現れた。彼は一瞬俺を見て驚いた顔を見せた。男が大量の花束を抱えている姿はやはり違和感があるのだろうか?
「アポイントも無しに、いきなり訪ねて申し訳ございません。私はマルセル・ハイムと申します。オルグレイン伯爵にお会いしたく、参りました」
そして丁寧に頭を下げる。
「少々お待ち頂けますか?」
ドアマンはその場を離れると数分でフットマンを連れて戻って来た。
「旦那様がお会いになるそうです。応接室にご案内するのでこちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
そしてフットマンに連れられ、俺は両手一杯の花束を抱えて応接室へと連れていかれた。
「旦那様と奥様が後から参られます。それまでこちらでお待ち下さい」
「ありがとうございます」
頭を下げるとソファに座り、緊張の面持ちでその時を待った―。
0
お気に入りに追加
911
あなたにおすすめの小説
貴方の子どもじゃありません
初瀬 叶
恋愛
あぁ……どうしてこんなことになってしまったんだろう。
私は眠っている男性を起こさない様に、そっと寝台を降りた。
私が着ていたお仕着せは、乱暴に脱がされたせいでボタンは千切れ、エプロンも破れていた。
私は仕方なくそのお仕着せに袖を通すと、止められなくなったシャツの前を握りしめる様にした。
そして、部屋の扉にそっと手を掛ける。
ドアノブは回る。いつの間にか
鍵は開いていたみたいだ。
私は最後に後ろを振り返った。そこには裸で眠っている男性の胸が上下している事が確認出来る。深い眠りについている様だ。
外はまだ夜中。月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗い。男性の顔ははっきりとは確認出来なかった。
※ 私の頭の中の異世界のお話です
※相変わらずのゆるゆるふわふわ設定です。ご了承下さい
※直接的な性描写等はありませんが、その行為を匂わせる言葉を使う場合があります。苦手な方はそっと閉じて下さると、自衛になるかと思います
※誤字脱字がちりばめられている可能性を否定出来ません。広い心で読んでいただけるとありがたいです
男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。
二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。
【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される
未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】
ミシェラは生贄として育てられている。
彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。
生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。
繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。
そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。
生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。
ハッピーエンドです!
※※※
他サイト様にものせてます
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる