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マルセルの章 ㉘ 君に伝えたかった言葉
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「まずい…このままで非常にまずい…」
「え?!マルセル様…ひょっとするとお料理がお口に合いませんでしたか?」
給仕のフットマンが慌てた様に声をかけてきた。
「い、いや。そうじゃない。すまなかったな。今朝の朝食も美味しいよ」
ハムステーキを口にしながら言う。そうだった、今は朝食の席。母は今朝はまだダイニングルームに顔を出していない為、1人で朝食を食べていた。そして昨夜の両家の顔合わせ?のようになってしまった状況の打開策を見いだせずに、殆ど眠る事が出来なかったのだ。
まずい…このままでは本当にうやむやの内に結婚させられてしまうかもしれない…。
俺は本日5度目のため息をついた―。
朝食を食べ終え、出勤の準備の為に自室でネクタイを締めていた時の事だった。
ノックの音と共に執事の声が聞こえて来た。
「マルセル様、イングリット・オルグレイン様からお電話が入っておりますが…」
「えっ?!何だって?!」
慌てて扉を開けて執事を見た。
「電話は何所の部屋につながっている?」
「はい、リビングの電話で…」
「ありがとうっ!」
最後まで執事の言葉を聞く事も無く、リビング目指して駆けた。途中廊下でメイドや執事たちに擦れ違ったが、彼等は驚いた様子で俺を見ていた。確かに大の大人が廊下を走る抜ける姿は驚かれたかもしれない。
リビングに飛び込むと何故かそこには母の姿があった。しかも受話器を持って楽し気に話をしている。
…一体何を話しているんだ?
思わず足を止めると、母が俺の姿に気が付いた。
「あ、マルセルが来たわ。今電話を代わるわね」
そして受話器を俺につきだしてきた。
「イングリットさんから電話よ」
「は、はは…ど、どうも…」
乱れた髪を撫でつけながら受話器を受け取る。
「そんなに慌てて来るなんて…余程待ち望んでいたのね?」
「えっ?!」
母は意味深な言葉を残し、部屋から去っていく。
今のは一体どういう意味なのだろうか…?
その時―
『もしもし?マルセル様?』
通話口からイングリット嬢の声が聞こえて来た。
「あ、すみません!イングリット嬢。お待たせして」
『いいえ、朝の忙しいお時間に申し訳ございません。それで昨夜の件ですが…』
「ええ、分っています。ですが、電話ではまどろっこしい。どうしても、貴女にお会いして話がしたいんですっ!どうか…どうかお願いです、今夜会って頂けないでしょうかっ?!この通りですっ!」
このままでは結婚させられてしまうっ!何としても2人で話をしなくてはっ!
『マ、マルセル様…』
受話器越しからはイングリット嬢の戸惑いの声が聞こえて来る。
「駄目でしょうか…?どうしても…貴女にお会いしたいのですが…」
つい情けない声が出てしまう。
『マルセル様…そこまでして…。はい、分りました。今夜お会い致しましょう。ですが私も今日は仕事で、残業になりそうなのです。19時には遅くても終わると思うのですが…』
「職場はどちらですか?」
『リンデンの2番街の7番地にある【ラコルテ】と言う出版社です』
「ラコルテ…ああ、その出版社なら知っています。でしたら今夜は俺が貴女を迎えに行きますよ」
『え…?ええ…それは構いませんが…いつ終わるか分りませんけど?』
「構いませんよ。こちらからお誘いしたのですから…貴女が出てくるまでいつまでも待っていますから」
『マルセル様…』
「では、今夜必ずお会いしましょう。イングリット嬢。貴女とお会いできるのを楽しみにしておりますから…それでは失礼致します」
『はい、失礼致します』
そして俺は電話を切った。
「ふぅ…」
良かった。イングリット嬢と今夜会う約束を取り付ける事が出来た。2人で相談して、両家の誤解を解いて穏便に事を終わらせる方法を考えなくては。何しろ彼女の両親は俺達の気持ちを無視して勝手に話を進めようとしている。イングリット嬢だって困っているに違いない。
「…ん?」
ふと視線を感じ、振り向くとそこに部屋の掃除に来たフットマンが立っていた。彼とは年齢も近い事から割と親しく話をしていた。
「もしかして…今の話、聞いていたのか?」
「え、ええ…申し訳ありません。聞くつもりは無かったのですが…」
「そうか…でも聞いた通りだよ」
俺は肩をすくめた。
「ええ、驚きました。まさかマルセル様があそこまで情熱的に女性をデートに誘われるとはっ!」
「はぁ?デートだってっ?」
「え?違うのですか?」
「当然だ!あの電話はそんなんじゃないぞ?」
「ですが、誰がどう聞いてもデートの申し込みにしか聞こえませんでしたけど?」
「何を言ってるんだ。俺と彼女はそんな間柄じゃない。彼女だってそんな事は分り切っているはずさ。さて…それじゃ俺は仕事へ行って来るとしよう」
「は、はい…行ってらっしゃいませ…」
こうして俺は久しぶりに清々しい気持ちで家を出た。
そうだ、彼女と2人で話し合って…今夜、打開策を見出すんだ―。
「え?!マルセル様…ひょっとするとお料理がお口に合いませんでしたか?」
給仕のフットマンが慌てた様に声をかけてきた。
「い、いや。そうじゃない。すまなかったな。今朝の朝食も美味しいよ」
ハムステーキを口にしながら言う。そうだった、今は朝食の席。母は今朝はまだダイニングルームに顔を出していない為、1人で朝食を食べていた。そして昨夜の両家の顔合わせ?のようになってしまった状況の打開策を見いだせずに、殆ど眠る事が出来なかったのだ。
まずい…このままでは本当にうやむやの内に結婚させられてしまうかもしれない…。
俺は本日5度目のため息をついた―。
朝食を食べ終え、出勤の準備の為に自室でネクタイを締めていた時の事だった。
ノックの音と共に執事の声が聞こえて来た。
「マルセル様、イングリット・オルグレイン様からお電話が入っておりますが…」
「えっ?!何だって?!」
慌てて扉を開けて執事を見た。
「電話は何所の部屋につながっている?」
「はい、リビングの電話で…」
「ありがとうっ!」
最後まで執事の言葉を聞く事も無く、リビング目指して駆けた。途中廊下でメイドや執事たちに擦れ違ったが、彼等は驚いた様子で俺を見ていた。確かに大の大人が廊下を走る抜ける姿は驚かれたかもしれない。
リビングに飛び込むと何故かそこには母の姿があった。しかも受話器を持って楽し気に話をしている。
…一体何を話しているんだ?
思わず足を止めると、母が俺の姿に気が付いた。
「あ、マルセルが来たわ。今電話を代わるわね」
そして受話器を俺につきだしてきた。
「イングリットさんから電話よ」
「は、はは…ど、どうも…」
乱れた髪を撫でつけながら受話器を受け取る。
「そんなに慌てて来るなんて…余程待ち望んでいたのね?」
「えっ?!」
母は意味深な言葉を残し、部屋から去っていく。
今のは一体どういう意味なのだろうか…?
その時―
『もしもし?マルセル様?』
通話口からイングリット嬢の声が聞こえて来た。
「あ、すみません!イングリット嬢。お待たせして」
『いいえ、朝の忙しいお時間に申し訳ございません。それで昨夜の件ですが…』
「ええ、分っています。ですが、電話ではまどろっこしい。どうしても、貴女にお会いして話がしたいんですっ!どうか…どうかお願いです、今夜会って頂けないでしょうかっ?!この通りですっ!」
このままでは結婚させられてしまうっ!何としても2人で話をしなくてはっ!
『マ、マルセル様…』
受話器越しからはイングリット嬢の戸惑いの声が聞こえて来る。
「駄目でしょうか…?どうしても…貴女にお会いしたいのですが…」
つい情けない声が出てしまう。
『マルセル様…そこまでして…。はい、分りました。今夜お会い致しましょう。ですが私も今日は仕事で、残業になりそうなのです。19時には遅くても終わると思うのですが…』
「職場はどちらですか?」
『リンデンの2番街の7番地にある【ラコルテ】と言う出版社です』
「ラコルテ…ああ、その出版社なら知っています。でしたら今夜は俺が貴女を迎えに行きますよ」
『え…?ええ…それは構いませんが…いつ終わるか分りませんけど?』
「構いませんよ。こちらからお誘いしたのですから…貴女が出てくるまでいつまでも待っていますから」
『マルセル様…』
「では、今夜必ずお会いしましょう。イングリット嬢。貴女とお会いできるのを楽しみにしておりますから…それでは失礼致します」
『はい、失礼致します』
そして俺は電話を切った。
「ふぅ…」
良かった。イングリット嬢と今夜会う約束を取り付ける事が出来た。2人で相談して、両家の誤解を解いて穏便に事を終わらせる方法を考えなくては。何しろ彼女の両親は俺達の気持ちを無視して勝手に話を進めようとしている。イングリット嬢だって困っているに違いない。
「…ん?」
ふと視線を感じ、振り向くとそこに部屋の掃除に来たフットマンが立っていた。彼とは年齢も近い事から割と親しく話をしていた。
「もしかして…今の話、聞いていたのか?」
「え、ええ…申し訳ありません。聞くつもりは無かったのですが…」
「そうか…でも聞いた通りだよ」
俺は肩をすくめた。
「ええ、驚きました。まさかマルセル様があそこまで情熱的に女性をデートに誘われるとはっ!」
「はぁ?デートだってっ?」
「え?違うのですか?」
「当然だ!あの電話はそんなんじゃないぞ?」
「ですが、誰がどう聞いてもデートの申し込みにしか聞こえませんでしたけど?」
「何を言ってるんだ。俺と彼女はそんな間柄じゃない。彼女だってそんな事は分り切っているはずさ。さて…それじゃ俺は仕事へ行って来るとしよう」
「は、はい…行ってらっしゃいませ…」
こうして俺は久しぶりに清々しい気持ちで家を出た。
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