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ケリーの章 ⑦ 待ちわびていたプロポーズ
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「とにかく、お見合いとかそんな気負いしないで今夜は皆で食事を楽しみましょう?実はね、このレストランも私達『ブラウン商会』が経営しているのよ」
マリー夫人が私の方をじっと見つめながら語り掛けて来る。
「そ、そうなのですか…?」
するとそこへ1人のスーツ姿の男性が現れると、マリー夫人とトマスさんに挨拶をしてきた。
「ブラウン様。お待ちしておりました」
「ああ、支配人。それでは早速料理を持ってきてくれるかしら?あとワインも宜しくね?」
「はい、かしこまりました」
この店の男性支配人は深々と頭を下げると、すぐに歩き去って行った。…すごい。まさか支配人が挨拶に来るなんて…私の身分では考えられない事だった。
「ケリーさんはお酒を飲まれたことがありますか?」
すると不意にトマスさんが話しかけて来た。
「え?あ、あの…ほんの少し、ワインだけなら飲んだことがあります」
そう、あれは私の20歳の誕生日の時…ヨハン先生がサプライズパーティーを開いてくれた。その日はたまたま日曜日で仕事がお休みの日だった。ヨハン先生にアゼリア様に会いに行こうと誘われて、あの丘へ行くとオリバーさん一家とベンジャミンさん、そして教会の子供達とシスター達がお祝いの準備をしてくれていた。
お料理を用意してくれたのはオリバーさんの奥さんと教会のシスター達。
私達はアゼリア様とアゼリア様のお母様が眠っているあの丘で、敷布を広げてお料理を食べた。
『リンデン』の町を離れ、医学部のある大学へ行ってしまわれたカイザード様とマルセル様があの場にいなかったのは少しだけ寂しかったけれども、それでも楽しいひと時を過ごす事が出来た。
そしてその後、ヨハン先生が用意してくれたワインを飲ませて頂いて―。
「ケリーさん?どうしましたか?」
不意にトマスさんに声を掛けられて我に返った。
「あ…す、すみません。初めてワインを飲んだ日の事を思い出して…」
言いながら、チラリとヨハン先生を見ると何故かヨハン先生は悲し気な目でこちらを見ている。…ひょっとするとアゼリア様の事を思い出したのかもしれない。
トマスさんは私の言葉に笑みを浮かべた。
「余程、初めてワインを飲んだ日の思い出が感慨深いものだったんですね?さっきのケリーさん…幸せそうな顔をしていましたから」
「え?」
トマスさんの言葉に驚いて、思わず見つめた時―。
「失礼致します。お食事とお料理をお持ち致しました」
そこにワゴンを押したウェイターが現れた。ウェイターは私達のテーブルに次から次へと美味しそうな料理を並べていく。魚のムニエルや魚介がたっぷり入ったスープ。色鮮やかなサラダにオードブル…どれも私が作る料理とは一味違う。
そして最後にテーブルの上に置かれたグラスにワインが注がれる。全員分にワインが行き届くと、マリー夫人が私達に言った。
「さぁ、皆さん。グラスを持って」
言われた通りに私達はグラスを持つ。するとマリーさんが私とトマスさんを交互に見ると笑顔で言った。
「ケリーさんとトマスの良き出会いを祝って…乾杯!」
「「「乾杯」」」
私達もグラスを掲げて、マリー夫人の後に続く。
そして、私は複雑な気持ちを胸の内で押し殺し…ワインを飲んだ。
何だか、この日のワインは…あの時、あの丘の上で皆と一緒に飲んだワインとは違い、少し苦く感じられた―。
マリー夫人が私の方をじっと見つめながら語り掛けて来る。
「そ、そうなのですか…?」
するとそこへ1人のスーツ姿の男性が現れると、マリー夫人とトマスさんに挨拶をしてきた。
「ブラウン様。お待ちしておりました」
「ああ、支配人。それでは早速料理を持ってきてくれるかしら?あとワインも宜しくね?」
「はい、かしこまりました」
この店の男性支配人は深々と頭を下げると、すぐに歩き去って行った。…すごい。まさか支配人が挨拶に来るなんて…私の身分では考えられない事だった。
「ケリーさんはお酒を飲まれたことがありますか?」
すると不意にトマスさんが話しかけて来た。
「え?あ、あの…ほんの少し、ワインだけなら飲んだことがあります」
そう、あれは私の20歳の誕生日の時…ヨハン先生がサプライズパーティーを開いてくれた。その日はたまたま日曜日で仕事がお休みの日だった。ヨハン先生にアゼリア様に会いに行こうと誘われて、あの丘へ行くとオリバーさん一家とベンジャミンさん、そして教会の子供達とシスター達がお祝いの準備をしてくれていた。
お料理を用意してくれたのはオリバーさんの奥さんと教会のシスター達。
私達はアゼリア様とアゼリア様のお母様が眠っているあの丘で、敷布を広げてお料理を食べた。
『リンデン』の町を離れ、医学部のある大学へ行ってしまわれたカイザード様とマルセル様があの場にいなかったのは少しだけ寂しかったけれども、それでも楽しいひと時を過ごす事が出来た。
そしてその後、ヨハン先生が用意してくれたワインを飲ませて頂いて―。
「ケリーさん?どうしましたか?」
不意にトマスさんに声を掛けられて我に返った。
「あ…す、すみません。初めてワインを飲んだ日の事を思い出して…」
言いながら、チラリとヨハン先生を見ると何故かヨハン先生は悲し気な目でこちらを見ている。…ひょっとするとアゼリア様の事を思い出したのかもしれない。
トマスさんは私の言葉に笑みを浮かべた。
「余程、初めてワインを飲んだ日の思い出が感慨深いものだったんですね?さっきのケリーさん…幸せそうな顔をしていましたから」
「え?」
トマスさんの言葉に驚いて、思わず見つめた時―。
「失礼致します。お食事とお料理をお持ち致しました」
そこにワゴンを押したウェイターが現れた。ウェイターは私達のテーブルに次から次へと美味しそうな料理を並べていく。魚のムニエルや魚介がたっぷり入ったスープ。色鮮やかなサラダにオードブル…どれも私が作る料理とは一味違う。
そして最後にテーブルの上に置かれたグラスにワインが注がれる。全員分にワインが行き届くと、マリー夫人が私達に言った。
「さぁ、皆さん。グラスを持って」
言われた通りに私達はグラスを持つ。するとマリーさんが私とトマスさんを交互に見ると笑顔で言った。
「ケリーさんとトマスの良き出会いを祝って…乾杯!」
「「「乾杯」」」
私達もグラスを掲げて、マリー夫人の後に続く。
そして、私は複雑な気持ちを胸の内で押し殺し…ワインを飲んだ。
何だか、この日のワインは…あの時、あの丘の上で皆と一緒に飲んだワインとは違い、少し苦く感じられた―。
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