上 下
6 / 124

ケリーの章 ⑥ 待ちわびていたプロポーズ

しおりを挟む
「あ、あの…ヨハン先生…」

心臓がドキドキして今にも口から飛び出しそうだった。先生…ひょっとして私に…?けれど次の瞬間、私の抱いていた希望は打ち砕かれてしまった。

「あ、こちらです。ブラウン夫人!」

ヨハン先生が誰かを見つけて手を振った。

「え?」

ヨハン先生の視線を追って振り向くと、50代前後と思われる品の良い女性と、背後には見たことも無い青年がこちらへ向かって近づいて来るのが目に入った。
あの方々は一体…?
ヨハン先生が立ち上がり、頭を下げたので私も慌てて立ち上がると頭を下げた。

「こんばんは、ブラウン夫人。お待ちしておりました」

ヨハン先生はニコニコと笑みを浮かべながら女性に話しかけ…私はその言葉に驚き、先生を見上げた。

何故ですか?ヨハン先生。

今夜は…私と先生の2人だけの食事会では無かったのですか?

その時、突然女性が声を掛けて来た。

「貴女ね?ヨハン先生の元で働いているお手伝いの方と言うのは」

「は、はい。そうです」

誰か分らないけれども、ヨハン先生にとって大切な方かも知れないので丁寧に対応しなければ。

「初めまして。私はマリー・ブラウンと言います。そしてこっちは息子のトマスよ」

マリー夫人の背後に立っていた背の高い青年は私を見るとニコリと笑みを浮かべると口を開いた。

「初めまして。トマス・ブラウンです。貴女の名前を教えて貰えますか?」

「は、はい。私はケリー・ヘイズと申します」

するとヨハン先生が口を開いた。

「挨拶も済んだことだし、それでは皆で座ってお話しましょう」

「ええ、そうですわね」

「そうしましょう」

「はい…ヨハン先生」

マリー夫人とトマスさんが返事をしたので私も返事をし…私の席の右側にはトマスささん。そして左側にマリー夫人が座る形となった。着席するとすぐにマリー夫人が声を掛けて来た。

「ケリーさん。私達家族はこの界隈では有名な商人なのよ。色々なお店を経営しているの。『ブラウン商会』って聞いた事無いかしら?」

『ブラウン商会』…。ここ、リンデンの町では有名な名前だった。

「はい、知っています」

頷くと、マリー夫人が嬉しそうに言う。

「そう?やっぱり知っていたのね?嬉しいわ」

そして次にマリー夫人がトマスさんを見ながら言った。

「実はね、もうそろそろ私の息子に代替わりをさせて後を継がせたいと思っていたの。そこで息子を支えてくれそうなしっかりしたお嫁さんを探していたのよ。そしたらヨハン先生の処にとても働き者で気立ての良い娘さんがいると言う話を聞いて、ヨハン先生にお願いしたのよ。是非、一度トマスと会わせて下さいって…。そうですよね?先生?」

最期にマリー夫人はヨハン先生を見た。

「ええ、その通りです。マリー夫人」

そしてヨハン先生は私に視線を向けると言った。

「ケリー。君ももう20歳…。すっかり大人の女性になった。なのでそろそろこれから先の事を考えてみる年齢になったんじゃないかい?」

「え…?」

その言葉に…私は全身から血の気が引くのを感じた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶
恋愛
あぁ……どうしてこんなことになってしまったんだろう。 私は眠っている男性を起こさない様に、そっと寝台を降りた。 私が着ていたお仕着せは、乱暴に脱がされたせいでボタンは千切れ、エプロンも破れていた。 私は仕方なくそのお仕着せに袖を通すと、止められなくなったシャツの前を握りしめる様にした。 そして、部屋の扉にそっと手を掛ける。 ドアノブは回る。いつの間にか 鍵は開いていたみたいだ。 私は最後に後ろを振り返った。そこには裸で眠っている男性の胸が上下している事が確認出来る。深い眠りについている様だ。 外はまだ夜中。月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗い。男性の顔ははっきりとは確認出来なかった。 ※ 私の頭の中の異世界のお話です ※相変わらずのゆるゆるふわふわ設定です。ご了承下さい ※直接的な性描写等はありませんが、その行為を匂わせる言葉を使う場合があります。苦手な方はそっと閉じて下さると、自衛になるかと思います ※誤字脱字がちりばめられている可能性を否定出来ません。広い心で読んでいただけるとありがたいです

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】 ミシェラは生贄として育てられている。 彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。 生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。 繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。 そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。 生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。 ハッピーエンドです! ※※※ 他サイト様にものせてます

愛のない政略結婚でしたので

杉本凪咲
恋愛
政略結婚から始まった夫婦生活。 しかしそれは思っていたよりも残酷で……

処理中です...