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4-3 月夜の会話
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「「…」」
2人で暫く寒空の下、月を眺めていた。私はチラリとユベールを見た。彼はただ黙って今だに月を眺めている。今、ユベールは何を考えているのだろう?彼の中で…少しは私の好感度は上がったのだろうか?それともあいも変わらず状態なのだろうか?だけど、私の中でのユベールは確実に印象が変わった。13回目のループで再会した時のユベールは私に取っては恐ろしい存在でしかなかった。何故なら過去の私の死において、幾度となく関わってきた人物かも知れないから。だから彼を私の手元に置かせて貰った。彼の私に対する好感度を上げる為に、そして…本当の目的は、ユベールを監視する為に。
だけど、いつの間にか私はユベールに惹かれていた。彼がジュリエッタを愛しているのを知っているのに、自分はアンリ王子の婚約者候補としてこの城に来ているのに‥。ユベールの不器用だけど優しいところ。私をあらゆるものから守ってくれるその強さ‥。ユベールは私を1人の女性として意識してくれることは決してないだろう。だからこそ、尚更強くユベールに惹かれてしまうのかもしれない。
「シルビア…」
月を眺めながら不意にユベールが話しかけてきた。
「はい、何でしょう?」
「実は今夜一緒に食事をしようと誘ったのは…お前に大事な話があったからなんだ」
「話…ですか?」
「ああ、そうだ。実は明日第1回目の選定日の後…アンリ王子はジュリエッタと半月ほど旅行に行く事になっているそうだ」
「旅行…ですか?」
「ああ、全く…呑気なものだよな?自分の婚約者を選ぶための試験の真っ最中だと言うのによりにもよってジュリエッタと旅行なんて…。俺も今日聞かされた話だ」
ユベールの横顔は寂しそうに見えた。
旅行…過去12回目のループでアンリ王子が旅行に出たことなどあっただろうか?記憶をたどってみても、そんな事例は無かったはずだ。
「そうなんですか…?」
「それだけじゃない、アンリは俺に旅行の際に護衛騎士として俺について来るように言ったんだ」
「え?!」
私は驚き、思わずユベールをじっと見つめた。するとその時ユベールは私に初めて視線を移した。
「それじゃ…」
「…ああ、そうだ。俺は…明日からアンリ王子と‥ジュリエッタの護衛騎士として…城を離れる事になった」
ユベールの青い瞳が揺れていた。可愛そうなユベール。愛する女性とアンリ王子が仲良さげに過ごす姿を傍で見守らなければならないなんて…。ユベールの気持ちを考えると、自分の胸がズキリと痛んだ。
「そうですか…ユベール様にとっては…お辛い護衛の旅になってしまうかもしれませんが…どうかお勤めをしっかり果たしてきてください」
そして私は頭の中で素早く考えた。ユベールがいないこの先…どうすれば私は魔石探しが出来るだろうかと‥。アンリ王子は魔石探しの助っ人として、外部から人を入れても構わないと言っていた。それなら明日は町に出て、お金を払って傭兵を探しに行こう。どのみち私では魔石に触れる事も出来ないし、自分の身を守る事も出来ないのだから―。
そこまで考えていたのに、何故かユベールは予想外の事を尋ねて来た。
「辛い護衛の旅?何故そう思うんだ?」
「え?それは…ユベール様がジュリエッタ様を慕っていらっしゃる‥から‥」
するとユベールは何故か私を凝視している。
ひょっとすると私は今物凄く失礼な事を言っているのだろうか?思わず声が小さくなってしまう。
「!何でそんな事を…」
ユベールは忌々し気に言うと、再び私に尋ねて来た。
「他に何か言う事は無いのか?お前は俺がアンリの護衛騎士に戻ってもいいのか?お前がどうしてもアンリ王子の護衛騎士を辞めてくれと訴えれば、考えないことも無いんだぞ?」
「ユベール様…」
どうして彼はそんな事を言うのだろう?ひょっとして私はユベールに試されているのだろうか?最初に取り決めた通り、ユベールがアンリ王子から護衛騎士復帰を命じられた時‥そこでパートナーは解消する。その約束を守れるかどうかを…。
私はユベールに嫌われたくなかった。だから首を振った。
「いいえ、いいんです。どうかアンリ王子様の言いつけ通りになさって下さい」
「だが、お前はどうするんだ?!1人で魔石探し等出来るはずがないだろう?!」
「私の事なら大丈夫です。明日…町に出てお金を出して私を守ってくれる護衛を探しますから」
「シルビア…ッ!」
ユベールは何故か一瞬悲しそうな目で私を見た。明日アンリ王子とジュリエッタの旅の護衛につくのが余程辛いのだろう。今夜は…早く休ませてあげた方が良さそうだ。
「ユベール様。もう部屋に戻りましょう。ここはとても寒いですから」
白い息を吐きながら、私は背の高いユベールを見上げて笑みを浮かべた。
「食事はいいのか?」
「はい。あまり食欲も無いので」
「…分った。部屋まで…送る」
「送って頂かなくても大丈夫ですよ。部屋までの道は分りますし、第一この時間は魔石探しは終わっているので襲われる事も無いですから」
私は少しでもユベールの負担を減らしたかった。彼は明日から大変な任務に就くのだから。
「また…お前はそうやって…」
「?」
分らず首を傾げるとユベールが言った。
「ああ…分った。なら部屋に戻れ。俺はもう少しここにいるから」
「分りました、失礼致します」
私は背を向けるとユベールを残して1人、自室へ帰っていった―。
2人で暫く寒空の下、月を眺めていた。私はチラリとユベールを見た。彼はただ黙って今だに月を眺めている。今、ユベールは何を考えているのだろう?彼の中で…少しは私の好感度は上がったのだろうか?それともあいも変わらず状態なのだろうか?だけど、私の中でのユベールは確実に印象が変わった。13回目のループで再会した時のユベールは私に取っては恐ろしい存在でしかなかった。何故なら過去の私の死において、幾度となく関わってきた人物かも知れないから。だから彼を私の手元に置かせて貰った。彼の私に対する好感度を上げる為に、そして…本当の目的は、ユベールを監視する為に。
だけど、いつの間にか私はユベールに惹かれていた。彼がジュリエッタを愛しているのを知っているのに、自分はアンリ王子の婚約者候補としてこの城に来ているのに‥。ユベールの不器用だけど優しいところ。私をあらゆるものから守ってくれるその強さ‥。ユベールは私を1人の女性として意識してくれることは決してないだろう。だからこそ、尚更強くユベールに惹かれてしまうのかもしれない。
「シルビア…」
月を眺めながら不意にユベールが話しかけてきた。
「はい、何でしょう?」
「実は今夜一緒に食事をしようと誘ったのは…お前に大事な話があったからなんだ」
「話…ですか?」
「ああ、そうだ。実は明日第1回目の選定日の後…アンリ王子はジュリエッタと半月ほど旅行に行く事になっているそうだ」
「旅行…ですか?」
「ああ、全く…呑気なものだよな?自分の婚約者を選ぶための試験の真っ最中だと言うのによりにもよってジュリエッタと旅行なんて…。俺も今日聞かされた話だ」
ユベールの横顔は寂しそうに見えた。
旅行…過去12回目のループでアンリ王子が旅行に出たことなどあっただろうか?記憶をたどってみても、そんな事例は無かったはずだ。
「そうなんですか…?」
「それだけじゃない、アンリは俺に旅行の際に護衛騎士として俺について来るように言ったんだ」
「え?!」
私は驚き、思わずユベールをじっと見つめた。するとその時ユベールは私に初めて視線を移した。
「それじゃ…」
「…ああ、そうだ。俺は…明日からアンリ王子と‥ジュリエッタの護衛騎士として…城を離れる事になった」
ユベールの青い瞳が揺れていた。可愛そうなユベール。愛する女性とアンリ王子が仲良さげに過ごす姿を傍で見守らなければならないなんて…。ユベールの気持ちを考えると、自分の胸がズキリと痛んだ。
「そうですか…ユベール様にとっては…お辛い護衛の旅になってしまうかもしれませんが…どうかお勤めをしっかり果たしてきてください」
そして私は頭の中で素早く考えた。ユベールがいないこの先…どうすれば私は魔石探しが出来るだろうかと‥。アンリ王子は魔石探しの助っ人として、外部から人を入れても構わないと言っていた。それなら明日は町に出て、お金を払って傭兵を探しに行こう。どのみち私では魔石に触れる事も出来ないし、自分の身を守る事も出来ないのだから―。
そこまで考えていたのに、何故かユベールは予想外の事を尋ねて来た。
「辛い護衛の旅?何故そう思うんだ?」
「え?それは…ユベール様がジュリエッタ様を慕っていらっしゃる‥から‥」
するとユベールは何故か私を凝視している。
ひょっとすると私は今物凄く失礼な事を言っているのだろうか?思わず声が小さくなってしまう。
「!何でそんな事を…」
ユベールは忌々し気に言うと、再び私に尋ねて来た。
「他に何か言う事は無いのか?お前は俺がアンリの護衛騎士に戻ってもいいのか?お前がどうしてもアンリ王子の護衛騎士を辞めてくれと訴えれば、考えないことも無いんだぞ?」
「ユベール様…」
どうして彼はそんな事を言うのだろう?ひょっとして私はユベールに試されているのだろうか?最初に取り決めた通り、ユベールがアンリ王子から護衛騎士復帰を命じられた時‥そこでパートナーは解消する。その約束を守れるかどうかを…。
私はユベールに嫌われたくなかった。だから首を振った。
「いいえ、いいんです。どうかアンリ王子様の言いつけ通りになさって下さい」
「だが、お前はどうするんだ?!1人で魔石探し等出来るはずがないだろう?!」
「私の事なら大丈夫です。明日…町に出てお金を出して私を守ってくれる護衛を探しますから」
「シルビア…ッ!」
ユベールは何故か一瞬悲しそうな目で私を見た。明日アンリ王子とジュリエッタの旅の護衛につくのが余程辛いのだろう。今夜は…早く休ませてあげた方が良さそうだ。
「ユベール様。もう部屋に戻りましょう。ここはとても寒いですから」
白い息を吐きながら、私は背の高いユベールを見上げて笑みを浮かべた。
「食事はいいのか?」
「はい。あまり食欲も無いので」
「…分った。部屋まで…送る」
「送って頂かなくても大丈夫ですよ。部屋までの道は分りますし、第一この時間は魔石探しは終わっているので襲われる事も無いですから」
私は少しでもユベールの負担を減らしたかった。彼は明日から大変な任務に就くのだから。
「また…お前はそうやって…」
「?」
分らず首を傾げるとユベールが言った。
「ああ…分った。なら部屋に戻れ。俺はもう少しここにいるから」
「分りました、失礼致します」
私は背を向けるとユベールを残して1人、自室へ帰っていった―。
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