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第14話 出ていけ!
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「いいか、ヘンリー。おまえのようなマヌケ男のために、わざわざ私が規約を述べてやるのだ。ありがたく思え」
マイクの乱暴な口調に、ヘンリーは耳を疑う。
「お、おい! マイク……おまえ、本当に執事のマイクなのか!? 態度がまるで違うぞ!」
「ああ、それは今までおまえがビリー様の子息で次期領主になる予定だったからだ。だが、お前は規約を破った。そこで、領主の資格を剥奪されることになるのだ。さぁ! 愚か者のヘンリーよ! 耳の穴をかっぽじって、よく聞くが良い!」
「はぁ!?」
驚くヘンリーにマイクは規約を述べていく。
「一つ! 正当な理由もなく、離婚を告げることを禁ず! 勿論、出ていくことを強要することもだ! 二つ! 領主の仕事を怠るべからず! 三つ! 夫婦である以上、互いを思い、敬うこと! 四つ! 浮気を絶対しないこと! 五つ! 相手の悪口を言わないこと! 六つ! 夫婦生活を拒否しないこと……」
マイクが声を張り上げて規約を述べていくさまを、ヘンリーは真っ青な顔で聞いていた。
「以上! 規約は全部で15項目! そしてヘンリー! お前は全ての規約を破ったのだ。分かったか? このマヌケめ!」
「はぁ!? だ、誰がマヌケだ!」
「旦那様……いえ、ヘンリー。先に、私に出て行けと言ったのは貴方の方です。酔って、規約により今すぐ『イナカ』を出ていって頂きましょう。当主になるのはこの私、ジャンヌです。貴方とは今、この場で離婚です。既に離婚届はいつでも提出できるように用意してありますし」
ジャンヌはペラリと手にした書類を見せる。
「離婚届だと……!? 俺はそんな物にサインは……!」
「いいえ? されましたよ? 婚姻届といっしょにね?」
にっこり笑みを浮かべるジャンヌ。
「な、何だと……」
そのときになって、ヘンリーは自分がはめられたことに気付いた。
「お、おまえ……俺を騙したのか!?」
「いいえ? 騙したなんて、とんでもない。私は初めからあなたの妻になるつもりで嫁いできたのですよ? 良き妻になる為、歩み寄ろうとしたのに拒絶したのは、そちらですよね?」
「何ふざけたこと抜かしてるんだ! そんなデタラメな話、誰が信じるか! 大体俺を追い出そうなんて親父が許すはずないだろう!」
するとマイクが不敵な笑みを浮かべる。
「馬鹿ヘンリーよ。お前は誰がジャンヌ様を妻に選んで、ここに送り込んできたのかまだ気付いていないのか?」
「え……ま、まさか……親父……か……?」
「ああ、そうだ。旦那様はお前を更生させようと考え、優秀な女性を探し出してきたのだ。ジャンヌ様と、この『イナカ』を盛りたてて貰うことを願っていたのに……お前は親心を踏みにじり、ジャンヌ様をも蔑ろにした! お前のような男は領主になる資格など無い! 今を持って、『イナカ』の領主はジャンヌ様になったのだ! さぁ! 荷物はまとめといてやった。これを持って、とっとと我らの前から消え失せろ!」
使用人たちが大きなキャリーケースをヘンリーの前に引きずってくると、1人のフットマンが不敵な笑みを浮かべた。
「さぁ、今直ぐ出ていって頂けますか? さもなくば、不法侵入者として警察に通報しますよ?」
「ひいいいっ!! ち、ちくしょーっ!! だ、誰がこんなところに居座るものかよ!」
ヘンリーはキャリーケースの持ち手を握りしめると、逃げるように部屋から出ていった。
「お前たち! ヘンリーがこの家を出ていくところを見届けるのだ!」
「「「はい!!!」」」
マイクの命令に3人の精鋭フットマンが返事をすると、逃げていくヘンリーの後を追っていく。
「奥様! 見て下さい! ヘンリーが逃げていきますよ!」
窓の外を見ていたメイドがジャンヌに声をかけた。
その言葉を聞いた使用人たちが一斉に窓にかけより、笑い合う。
「やった! やっと出ていってくれた!」
「せいせいしたぜ! 二度と戻ってくるな!」
「良かったわ。これで平和になるわね」
「ばんざーい! ばんざーい!」
喜び合う使用人たちを見ながらマイクがジャンヌに話しかける。
「ジャンヌ様、もう変装する必要は無いのではありませんか?」
「ええ、そうですね」
ジャンヌは自分の髪の毛をグイッと引っ張る。するとその下から見事なブロンドヘアが現れ、目も覚めるような美女が立っていた。
その美しい姿に使用人たちも見惚れる。
「やっぱりジャンヌ様は美しい方だ」
「本当。あんな男の毒牙にかからなくて良かったわ」
「あいつ、ブロンド女性にしか興味ないからな」
使用人たちが口々に言い合う。
「本当に、ビリー様には感謝です。女ということで領主になれずに悔しい思いをしていた私を見つけ出して、今回の計画を提案してくださったのですから」
ジャンヌの言葉にマイクは頷く。
「旦那さまは先見の目がありますからね。以前から、放蕩息子に領主は任せられん。誰か外部から連れてきて、領主にさせたいと話しておられましたから。だが、相手はあの図々しいヘンリー。何が何でも居座ろうとしたでしょう。そこで考えた計画だったのでしょうね」
「ええ、でもこんなにうまくいくとは思いませんでした。でも意外と時間がかかりましたね」
「ええ。存外しぶとい男だったようです」
マイクが苦笑いする。
「では、早速ビリー様に報告しませんか? 今頃は私の故郷でバカンスを楽しんでおられる最中でしょうから」
その後――
ヘンリーが出ていった報告を手紙で受け取ったビリーは『イナカ』へ戻ってきた。
立派で見目麗しいジャンヌの次の夫候補者と共に。
ジャンヌはビリーが連れてきた男性と再婚し、女領主として手腕を振るって『イナカ』は益々発展していった。
そして、『イナカ』を追い出されたヘンリーの行方は……誰も知らない――
<めでたし、めでたし>
マイクの乱暴な口調に、ヘンリーは耳を疑う。
「お、おい! マイク……おまえ、本当に執事のマイクなのか!? 態度がまるで違うぞ!」
「ああ、それは今までおまえがビリー様の子息で次期領主になる予定だったからだ。だが、お前は規約を破った。そこで、領主の資格を剥奪されることになるのだ。さぁ! 愚か者のヘンリーよ! 耳の穴をかっぽじって、よく聞くが良い!」
「はぁ!?」
驚くヘンリーにマイクは規約を述べていく。
「一つ! 正当な理由もなく、離婚を告げることを禁ず! 勿論、出ていくことを強要することもだ! 二つ! 領主の仕事を怠るべからず! 三つ! 夫婦である以上、互いを思い、敬うこと! 四つ! 浮気を絶対しないこと! 五つ! 相手の悪口を言わないこと! 六つ! 夫婦生活を拒否しないこと……」
マイクが声を張り上げて規約を述べていくさまを、ヘンリーは真っ青な顔で聞いていた。
「以上! 規約は全部で15項目! そしてヘンリー! お前は全ての規約を破ったのだ。分かったか? このマヌケめ!」
「はぁ!? だ、誰がマヌケだ!」
「旦那様……いえ、ヘンリー。先に、私に出て行けと言ったのは貴方の方です。酔って、規約により今すぐ『イナカ』を出ていって頂きましょう。当主になるのはこの私、ジャンヌです。貴方とは今、この場で離婚です。既に離婚届はいつでも提出できるように用意してありますし」
ジャンヌはペラリと手にした書類を見せる。
「離婚届だと……!? 俺はそんな物にサインは……!」
「いいえ? されましたよ? 婚姻届といっしょにね?」
にっこり笑みを浮かべるジャンヌ。
「な、何だと……」
そのときになって、ヘンリーは自分がはめられたことに気付いた。
「お、おまえ……俺を騙したのか!?」
「いいえ? 騙したなんて、とんでもない。私は初めからあなたの妻になるつもりで嫁いできたのですよ? 良き妻になる為、歩み寄ろうとしたのに拒絶したのは、そちらですよね?」
「何ふざけたこと抜かしてるんだ! そんなデタラメな話、誰が信じるか! 大体俺を追い出そうなんて親父が許すはずないだろう!」
するとマイクが不敵な笑みを浮かべる。
「馬鹿ヘンリーよ。お前は誰がジャンヌ様を妻に選んで、ここに送り込んできたのかまだ気付いていないのか?」
「え……ま、まさか……親父……か……?」
「ああ、そうだ。旦那様はお前を更生させようと考え、優秀な女性を探し出してきたのだ。ジャンヌ様と、この『イナカ』を盛りたてて貰うことを願っていたのに……お前は親心を踏みにじり、ジャンヌ様をも蔑ろにした! お前のような男は領主になる資格など無い! 今を持って、『イナカ』の領主はジャンヌ様になったのだ! さぁ! 荷物はまとめといてやった。これを持って、とっとと我らの前から消え失せろ!」
使用人たちが大きなキャリーケースをヘンリーの前に引きずってくると、1人のフットマンが不敵な笑みを浮かべた。
「さぁ、今直ぐ出ていって頂けますか? さもなくば、不法侵入者として警察に通報しますよ?」
「ひいいいっ!! ち、ちくしょーっ!! だ、誰がこんなところに居座るものかよ!」
ヘンリーはキャリーケースの持ち手を握りしめると、逃げるように部屋から出ていった。
「お前たち! ヘンリーがこの家を出ていくところを見届けるのだ!」
「「「はい!!!」」」
マイクの命令に3人の精鋭フットマンが返事をすると、逃げていくヘンリーの後を追っていく。
「奥様! 見て下さい! ヘンリーが逃げていきますよ!」
窓の外を見ていたメイドがジャンヌに声をかけた。
その言葉を聞いた使用人たちが一斉に窓にかけより、笑い合う。
「やった! やっと出ていってくれた!」
「せいせいしたぜ! 二度と戻ってくるな!」
「良かったわ。これで平和になるわね」
「ばんざーい! ばんざーい!」
喜び合う使用人たちを見ながらマイクがジャンヌに話しかける。
「ジャンヌ様、もう変装する必要は無いのではありませんか?」
「ええ、そうですね」
ジャンヌは自分の髪の毛をグイッと引っ張る。するとその下から見事なブロンドヘアが現れ、目も覚めるような美女が立っていた。
その美しい姿に使用人たちも見惚れる。
「やっぱりジャンヌ様は美しい方だ」
「本当。あんな男の毒牙にかからなくて良かったわ」
「あいつ、ブロンド女性にしか興味ないからな」
使用人たちが口々に言い合う。
「本当に、ビリー様には感謝です。女ということで領主になれずに悔しい思いをしていた私を見つけ出して、今回の計画を提案してくださったのですから」
ジャンヌの言葉にマイクは頷く。
「旦那さまは先見の目がありますからね。以前から、放蕩息子に領主は任せられん。誰か外部から連れてきて、領主にさせたいと話しておられましたから。だが、相手はあの図々しいヘンリー。何が何でも居座ろうとしたでしょう。そこで考えた計画だったのでしょうね」
「ええ、でもこんなにうまくいくとは思いませんでした。でも意外と時間がかかりましたね」
「ええ。存外しぶとい男だったようです」
マイクが苦笑いする。
「では、早速ビリー様に報告しませんか? 今頃は私の故郷でバカンスを楽しんでおられる最中でしょうから」
その後――
ヘンリーが出ていった報告を手紙で受け取ったビリーは『イナカ』へ戻ってきた。
立派で見目麗しいジャンヌの次の夫候補者と共に。
ジャンヌはビリーが連れてきた男性と再婚し、女領主として手腕を振るって『イナカ』は益々発展していった。
そして、『イナカ』を追い出されたヘンリーの行方は……誰も知らない――
<めでたし、めでたし>
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