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第42話 美味しい時間
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バアアアンッ!!
すっかり馴染みになった厨房のドアを勢いよく開けると、私はツカツカと中へ入った。そしてシェフやその他料理人たちが私に視線を集めるのを確認すると言った。
「皆、聞いて頂戴!ついに私はデニムの野望を阻止したわ!」
「野望と言うと…あれですか?」
シェフが尋ねて来た。
「ええ、そう。あれよ!」
両腕を腰に当てると胸を張って言った。
「ついにあの阿保デニムが我が実家へ行こうと企てた陰謀を阻止する事が出来たのよ!」
「おおっ!おめでとうございます、奥様!」
シェフが拍手を送ると他の皆も一斉に拍手しだした。
「皆、ありがとう。これも全て日頃から私に協力してくれる皆のお陰よ。これでデニムの見合い計画を完全に打ち砕くことが出来た暁には感謝の気持ちとして臨時ボーナスを払ってあげるわ」
「流石は太っ腹奥様!」
「我々は何所までも奥様についていきますよ!」
「奥様ばんざーい!」
厨房の皆の歓声が止むと私は言った。
「ところでデニムに少し心境の変化があったのよ。いい?聞いて驚いて頂戴。何とあの怠け者が自分で旅支度をしたのよ?」
「ええっ!あのデニム様がですかっ?!」
いつの間に厨房にいたのだろうか、背後からフレディの驚きの声が聞こえた。
「あら、フレディ。いつからそこにいたのかしら?まあ、いいわ。とにかくデニムは自分で旅支度を済ませたのよ。ただし、部屋の中はグッチャグチャだったけどね。けれど今度はその部屋を自分で片付けているのよ、まさに今!」
『えええっ?!』
その場にいた全員が素っ頓狂な声を上げたのは言うまでもない。
「信じられん!あのデニム様が…!」
「これは雷が落ちるかもしれません」
「いやいや嵐になるかもしれないぞ?」
彼等は今にも恐ろしい出来事が起こるのではないかと騒いでいる。つまりそれ程デニムの取った行動が稀だと言う事なのだ。
「ええ。私もあのデニムが自分の部屋を片付け始めるのを見た時は我が目を疑ったわ。挙動不審もいいところよ。だけど、とりあえずそのまま放置してきたわ。また後で熱いお湯を持ってデニムの部屋を訪れる事になっているのよ。だからそれまでここで休憩させて頂くわ」
すると素早くパーシーがカウンターの前に椅子を持ってきてくれた。
「奥様、どうぞこちらの椅子におかけください」
「まあ、ありがとう。気が利くのね?」
パーシーが用意してくれた椅子に座るとシェフがやって来て私の前にスイーツを持ってきてくれた。
「どうぞ、奥様」
カチャリと皿が置かれ、私は目を見張った。
「ああ!こ、これは…!」
皿の上に乗っているのはプディングだった。しかも上にはホイップクリームのトッピング付きである。プディングは私の一番好きなスイーツなのだ。それだけではない。
「奥様のお好きなローズヒップティーですよ」
真っ白なティーカップに注がれた赤みのあるハーブティー。な、何と良い香りなのだろう。
「ありがとう、シェフッ!!」
私は彼の両手を握りしめ、ブンブン上下に振る。
「いえ、とんでもありません。私達は一刻も早く奥様が正々堂々とこの屋敷に戻って来れるのを心待ちにしているのですから」
「ええ、頑張るわ。シェフ。」
そして私は早速シェフが作ってくれた特製プディングを美味しく頂くのだった―。
「ふう~…プディング美味しかったわ。ありがとう、シェフ」
笑みを浮かべながら、私は残りのローズヒップティーをクイッと飲み干すと言った。
「ところで今何時かしら?」
近くに立っていたパーシーに尋ねてみた。するとパーシーは厨房の奥にある時計を確認してくれた。
「そろそろ14時半になりますけど?」
「あら!もうそんな時間なの?大変!すぐにデニムの元へ戻らなくちゃ。お湯を持って行かなくちゃいけないのよ。準備は出来ているかしら?」
慌てて立ち上がるとシェフに尋ねた。
「はい、ちゃんと準備は出来ておりますよ」
シェフの示した場所にはケトルが乗ったワゴンが置いてある。
「ありがとう、シェフ。それじゃあいつの所へ行ってくるわ!」
私はワゴンをガラガラ押してデニムの部屋を目指した。
さあ、いよいよデニムの悶絶した顔が拝めるのだ―。
すっかり馴染みになった厨房のドアを勢いよく開けると、私はツカツカと中へ入った。そしてシェフやその他料理人たちが私に視線を集めるのを確認すると言った。
「皆、聞いて頂戴!ついに私はデニムの野望を阻止したわ!」
「野望と言うと…あれですか?」
シェフが尋ねて来た。
「ええ、そう。あれよ!」
両腕を腰に当てると胸を張って言った。
「ついにあの阿保デニムが我が実家へ行こうと企てた陰謀を阻止する事が出来たのよ!」
「おおっ!おめでとうございます、奥様!」
シェフが拍手を送ると他の皆も一斉に拍手しだした。
「皆、ありがとう。これも全て日頃から私に協力してくれる皆のお陰よ。これでデニムの見合い計画を完全に打ち砕くことが出来た暁には感謝の気持ちとして臨時ボーナスを払ってあげるわ」
「流石は太っ腹奥様!」
「我々は何所までも奥様についていきますよ!」
「奥様ばんざーい!」
厨房の皆の歓声が止むと私は言った。
「ところでデニムに少し心境の変化があったのよ。いい?聞いて驚いて頂戴。何とあの怠け者が自分で旅支度をしたのよ?」
「ええっ!あのデニム様がですかっ?!」
いつの間に厨房にいたのだろうか、背後からフレディの驚きの声が聞こえた。
「あら、フレディ。いつからそこにいたのかしら?まあ、いいわ。とにかくデニムは自分で旅支度を済ませたのよ。ただし、部屋の中はグッチャグチャだったけどね。けれど今度はその部屋を自分で片付けているのよ、まさに今!」
『えええっ?!』
その場にいた全員が素っ頓狂な声を上げたのは言うまでもない。
「信じられん!あのデニム様が…!」
「これは雷が落ちるかもしれません」
「いやいや嵐になるかもしれないぞ?」
彼等は今にも恐ろしい出来事が起こるのではないかと騒いでいる。つまりそれ程デニムの取った行動が稀だと言う事なのだ。
「ええ。私もあのデニムが自分の部屋を片付け始めるのを見た時は我が目を疑ったわ。挙動不審もいいところよ。だけど、とりあえずそのまま放置してきたわ。また後で熱いお湯を持ってデニムの部屋を訪れる事になっているのよ。だからそれまでここで休憩させて頂くわ」
すると素早くパーシーがカウンターの前に椅子を持ってきてくれた。
「奥様、どうぞこちらの椅子におかけください」
「まあ、ありがとう。気が利くのね?」
パーシーが用意してくれた椅子に座るとシェフがやって来て私の前にスイーツを持ってきてくれた。
「どうぞ、奥様」
カチャリと皿が置かれ、私は目を見張った。
「ああ!こ、これは…!」
皿の上に乗っているのはプディングだった。しかも上にはホイップクリームのトッピング付きである。プディングは私の一番好きなスイーツなのだ。それだけではない。
「奥様のお好きなローズヒップティーですよ」
真っ白なティーカップに注がれた赤みのあるハーブティー。な、何と良い香りなのだろう。
「ありがとう、シェフッ!!」
私は彼の両手を握りしめ、ブンブン上下に振る。
「いえ、とんでもありません。私達は一刻も早く奥様が正々堂々とこの屋敷に戻って来れるのを心待ちにしているのですから」
「ええ、頑張るわ。シェフ。」
そして私は早速シェフが作ってくれた特製プディングを美味しく頂くのだった―。
「ふう~…プディング美味しかったわ。ありがとう、シェフ」
笑みを浮かべながら、私は残りのローズヒップティーをクイッと飲み干すと言った。
「ところで今何時かしら?」
近くに立っていたパーシーに尋ねてみた。するとパーシーは厨房の奥にある時計を確認してくれた。
「そろそろ14時半になりますけど?」
「あら!もうそんな時間なの?大変!すぐにデニムの元へ戻らなくちゃ。お湯を持って行かなくちゃいけないのよ。準備は出来ているかしら?」
慌てて立ち上がるとシェフに尋ねた。
「はい、ちゃんと準備は出来ておりますよ」
シェフの示した場所にはケトルが乗ったワゴンが置いてある。
「ありがとう、シェフ。それじゃあいつの所へ行ってくるわ!」
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