上 下
29 / 72

第29話 誰が年増だ?!

しおりを挟む
 19時半―

厨房の隣にある使用人たちの使う食堂で、頼もしい仲間たちと一緒に私は素朴な賄い料理に舌鼓をうっていた。

「あ~このグリーン豆のカレーソース和え、最高…」

「奥様、この野菜の田舎風ごった煮も最高ですよ?」

隣に座っていたまだあどけなさが残るフットマンが私の前に煮物料理が乗っている大皿を置いてくれた。

「あら、有難う。そう言えば貴方見た事無いわね?名前は何て言うの?」

すると少年は顔 を赤くすると答えた。

「は、はい。僕はパーシーって言います。まだ見習いですが、奥様の為に頑張ります!」

「あら、そうなの?頑張ってね。応援してるから」

何をどう頑張るのか分からないがパーシーに激励の声を掛けて、早速煮物料理を取り皿に取り分けて食べてみた。

「まあ!本当に美味しいわ!」

その時―

バアアアアンッ!!

扉が勢いよく開かれ、デニムたちのディナーの給仕をしていたフットマンが現れた。

「お、奥様!大変ですっ!非常に面白い事が起きているので、大至急見に来て下さい!親子喧嘩が始まってますよ!」

フットマンは興奮のあまり、自分が妙な言葉遣いをしていることに気付いていない。けれど…。

「何ですってっ?!親子喧嘩ですってっ?!」

私はガタンと勢いよく立ち上がった。食事はまだ食べ掛けだが、この際そんな事はどうでもいい。食べそこなった食事はまた後で温め直して食べればよいだけの事。

「皆、私は今すぐ親子喧嘩を見学して来るわ!だから私の分の食事、ちゃんと残して置いて頂戴ね?」

「勿論ですよ、奥様!」

シェフは親指を立ててウィンクする。実に頼もしいシェフだ。彼は大活躍してくれているから来月の給金は5割増しにしてあげよう。

「それでは行って来るわね!」

メイド服を翻し、私は急いでデニム達のいるダイニングルーム目指して駆けだすのだった―。

****

見張り兼、給仕役を務めるメイドから新しい料理を隣の部屋で受け取った私はノックをした。

コンコン

「失礼致します。次のお料理をお持ち致しました」

そして扉を開けて、ワゴンを押して室内に入る。

「デニム!貴方なんだって1日にお見合いを2件も入れたのよ!もしお見合いの時間が延長されたらと考えたことは無かったの?!」

義母が乱暴にカチャカチャと肉を切り分けながら眉間に青筋を立てている。
おお~確かに親子喧嘩が勃発している。

「仕方ないだろうっ?!俺にはあまりじっくり見合いに時間を掛けている余裕が無いんだから!」

テーブルパンに食らいつきながらデニムが言う。

「…」

義父は知らぬ存ぜぬで無言で舌平目のムニエルを食べていたが、私の姿に気付くとウィンクしてきた。

「御黙りなさい!大体貴方は昔から考えが浅いのよ!だからあんな年増の女と結婚してしまったんでしょう?」

義母の言葉にピクリと反応し、危うくテーブルに置こうとしていたカクテルサラダを取り落としそうになってしまった。誰が年増だっ!!私はまだ24歳だ!大体結婚したのだって22歳。決して晩婚とは思えない。

「何言ってるんだ!あの縁談を持ち込んだのは母さんだっただろう?!大体俺は結婚相手は10代の少女が良かったんだよ!」

ゾワッ!
デニムの言葉に全身に鳥肌が立つ。おのれ、デニムめ。やはり少女趣味の変態男だったのだな?!

「し、仕方ないでしょう?!我が家はあの時お金が無かったのだから!」

義母は顔を赤らめて抗議する。

「…」

相変わらずクールな義父は私が運んできたカクテルサラダを食べていた。

「くっそ~…!それにしてもフェリシアめ…!」

突如デニムの口から私の名前が出て来て一瞬ギョッとしてしまった。

「一体いつになったら離婚届を送って来るんだよ!何か文句の一つでも言ってくるわけでもなし、何の反応も無いのが一番イラつくし、不安になってくる!あいつが何かしかけて来るんじゃないかと思うと安心して眠れないんだよ!」

うん、確かに良く見てみるとデニムの目の下にクマが出来ている。それにもう色々仕掛けているのにこの間抜け男は何も気づいていないのだ。

「そうね…いい加減返事が返ってこないっておかしいわ?届いていないはずないのに…」

義母は首を捻る。

「ちくしょーっ!!フェリシアめっ!!いっつもいっつも人を見下した目で見やがって‥‥!だから年増女は嫌なんだよ!頭が固くて融通が利かなくて…!」

その後もデニムの私に対する悪口が止まらない。駄目だ。これ以上ここにいては…。始めは面白おかしく彼らの親子喧嘩の様子を眺めていたが、今や義母とデニムは互いに私の悪口を言い合っている。これ以上ここにとどまり続ければ、私はこの2人を殴り飛ばしてしまうかもしれない。そこで私は一礼すると、部屋を去ることにした。

「失礼致します」

そして部屋を出た私は怒り心頭に燃えながら小走りで厨房を目指した―。



しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処理中です...