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第10話 まさか?本日2度目のお見合い
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ワゴンを押して厨房に戻ると、そこではすでに昼食の準備が始まっていた。先程のシェフは華麗なる包丁さばきで分厚い肉をスライスしている。他に大勢の料理人たちがあちこちで野菜を洗ったり、切ったり、かまどの上で煮込み料理を作ったり…と忙しそうに働いている。
すると新人と思しき若者が私を見て言った。
「おいおい、ここは厨房だ。今は戦場なんだからメイドが勝手に入ってくるなよ」
あ、そうか。この料理人は私が誰か分らないのか。そう言えばさっきは姿を見ていない。そこで私は言った。
「私はね、デニムの妻のフェリシアよ」
「え?あ!お、奥様っ!」
するとその言葉にシェフが気付いてこちらを振り向いた。
「あ!奥様っ!もう戻って来られたんですか?!」
そして彼は慌てて私の元へとやってきた。
「で?どうでしたか?デニム様の見合いは?」
早速彼は尋ねてきた。
「ええ、ものの30分以内で終了したわ。見合い相手に逃げられたのよ」
「何と!逃げられたのですか?!」
「ええ。私がちょっとお茶とケーキに細工をしたからね。」
「え?」
シェフは首を傾げたが、私は笑いながら言った。
「いーえ、大丈夫よ。あの男の頭の中にはもうそんな記憶は残されていないはずだから。それで?もうお昼の準備をしているの?」
「ええ。次の昼食はお見合い昼食なんです…」
シェフが言いにくそうに私を見た。
「…は?」
何だろう?空耳だろうか?チラリとシェフを見ると彼は白いエプロンを握りしめながらソワソワしている。
「ねえ、今何て言ったの?」
「ですから…午後1時からは昼食を兼ねたデニム様のお見合いなのです…」
「えっ?!な、何ですって!午後もお見合いがあるのっ?!」
「ええ、そうです。ばっちりあります。そこでデニム様からは自分の好物メニューばかり出すように言われています。お見合い相手に偏食が多い人間だと思われたくないからと…」
その話を聞きながら、先ほどまで楽しい気持ちだった私の心にまたフツフツと怒りの炎が灯されてゆく。
「つまり…あの子供じみたイカレタ舌を持つデニムはお見合い相手に偏食人間と思われたくなくて好物ばかり作れと言って来たのね…?」
「ええ。そうなんですが…で、でも奥様に離婚されたら我々はまた無給になってしまいますっ!」
シェフが泣きついて来た。よし、ならば…。
「いい?貴方達の給料の保証をしてあげる代わりに私の言う通りにこれから動いてもらうわよ。」
「はい!勿論ですっ!何なりと申し付けて下さいっ!」
シェフは頭を下げてきた。
「そう‥では今からメニューの変更をお願いできるかしら?」
私が尋ねるとシェフは頷いた。
「ええ、死ぬ気で頑張ります。」
「そう?なら…」
私はシェフにある食材を指定した―。
****
12時半―
急遽料理のメニューを変更したけれども、お見合い用の究極ランチが完成した。
「どうです?奥様」
シェフと料理人たちは出来上がった2人分の料理を私に見せると尋ねてきた。
「ええ、完璧よ。これぞまさしくデニムの為に作られた究極メニューだわ。どれも美味しそうで素敵。早速ワゴンに乗せてくれる?」
「奥様…もしやこのお料理を運ばれるおつもりですか?」
シェフが尋ねる。
「ええ、勿論。というか私以外に誰が運ぶのかしら?」
「しかし…」
「大丈夫だってば!早くワゴンに乗せてくる?デニムとお見合い相手を待たせてはいけないからね?」
「は、はい!分りました!」
そして料理人たちはワゴンの上に次々と食事を乗せていく。
「奥様、準備完了です。昼食を食べる場所は来賓客用のダイニングルームです。場所は…」
「ええ、勿論知ってるわ。だって今まで私が1人きりで食事をさせられてきた部屋だからね」
ワゴンの持ち手を握りしめると私は言った。
「それじゃ、皆さん。行って来るわ!」
『行ってらっしゃいませっ!』
シェフと料理人たちが一斉に頭を下げた。
私は特別メニューが乗ったワゴンを押して、厨房を出た。そして勇ましく廊下を歩く。
デニムの本日2度目の見合いの席に乗り込む為に―!
すると新人と思しき若者が私を見て言った。
「おいおい、ここは厨房だ。今は戦場なんだからメイドが勝手に入ってくるなよ」
あ、そうか。この料理人は私が誰か分らないのか。そう言えばさっきは姿を見ていない。そこで私は言った。
「私はね、デニムの妻のフェリシアよ」
「え?あ!お、奥様っ!」
するとその言葉にシェフが気付いてこちらを振り向いた。
「あ!奥様っ!もう戻って来られたんですか?!」
そして彼は慌てて私の元へとやってきた。
「で?どうでしたか?デニム様の見合いは?」
早速彼は尋ねてきた。
「ええ、ものの30分以内で終了したわ。見合い相手に逃げられたのよ」
「何と!逃げられたのですか?!」
「ええ。私がちょっとお茶とケーキに細工をしたからね。」
「え?」
シェフは首を傾げたが、私は笑いながら言った。
「いーえ、大丈夫よ。あの男の頭の中にはもうそんな記憶は残されていないはずだから。それで?もうお昼の準備をしているの?」
「ええ。次の昼食はお見合い昼食なんです…」
シェフが言いにくそうに私を見た。
「…は?」
何だろう?空耳だろうか?チラリとシェフを見ると彼は白いエプロンを握りしめながらソワソワしている。
「ねえ、今何て言ったの?」
「ですから…午後1時からは昼食を兼ねたデニム様のお見合いなのです…」
「えっ?!な、何ですって!午後もお見合いがあるのっ?!」
「ええ、そうです。ばっちりあります。そこでデニム様からは自分の好物メニューばかり出すように言われています。お見合い相手に偏食が多い人間だと思われたくないからと…」
その話を聞きながら、先ほどまで楽しい気持ちだった私の心にまたフツフツと怒りの炎が灯されてゆく。
「つまり…あの子供じみたイカレタ舌を持つデニムはお見合い相手に偏食人間と思われたくなくて好物ばかり作れと言って来たのね…?」
「ええ。そうなんですが…で、でも奥様に離婚されたら我々はまた無給になってしまいますっ!」
シェフが泣きついて来た。よし、ならば…。
「いい?貴方達の給料の保証をしてあげる代わりに私の言う通りにこれから動いてもらうわよ。」
「はい!勿論ですっ!何なりと申し付けて下さいっ!」
シェフは頭を下げてきた。
「そう‥では今からメニューの変更をお願いできるかしら?」
私が尋ねるとシェフは頷いた。
「ええ、死ぬ気で頑張ります。」
「そう?なら…」
私はシェフにある食材を指定した―。
****
12時半―
急遽料理のメニューを変更したけれども、お見合い用の究極ランチが完成した。
「どうです?奥様」
シェフと料理人たちは出来上がった2人分の料理を私に見せると尋ねてきた。
「ええ、完璧よ。これぞまさしくデニムの為に作られた究極メニューだわ。どれも美味しそうで素敵。早速ワゴンに乗せてくれる?」
「奥様…もしやこのお料理を運ばれるおつもりですか?」
シェフが尋ねる。
「ええ、勿論。というか私以外に誰が運ぶのかしら?」
「しかし…」
「大丈夫だってば!早くワゴンに乗せてくる?デニムとお見合い相手を待たせてはいけないからね?」
「は、はい!分りました!」
そして料理人たちはワゴンの上に次々と食事を乗せていく。
「奥様、準備完了です。昼食を食べる場所は来賓客用のダイニングルームです。場所は…」
「ええ、勿論知ってるわ。だって今まで私が1人きりで食事をさせられてきた部屋だからね」
ワゴンの持ち手を握りしめると私は言った。
「それじゃ、皆さん。行って来るわ!」
『行ってらっしゃいませっ!』
シェフと料理人たちが一斉に頭を下げた。
私は特別メニューが乗ったワゴンを押して、厨房を出た。そして勇ましく廊下を歩く。
デニムの本日2度目の見合いの席に乗り込む為に―!
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