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第6話 メイドに扮して
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「お、奥様っ!どうされたのですかっ?!」
私の後を追いかけてメイドのクララが厨房へやってきた。そして残りの使用人たちも慌てて駆けつけてくる。
「ねえっ?!デニムは何処でお見合いをするのっ?!」
私はその場にいる全員に尋ねた。
「え、えっと確かバラ園の良く見える『サンルーム』でお見合いをすると言っておりましたが…?」
クララの言葉に私はプチッと切れそうになってしまった。
「な、何ですって…?バラ園が見える『サンルーム』ですって‥‥?」
「は、はい…」
「フフフ…まさかあの部屋をお見合いの部屋にしようなんて良い度胸をしているじゃないの。デニム…」
あの部屋は私が自ら巨額のお金を出して、目も当てられない惨状だったバラ園を復活させた血と汗の結晶で出来た部屋だった。サンルーム迄自分でデザインし、庭師と何度も話し合いを重ねて1年近くかけて作り上げた自慢の部屋だったのに…。デニムをあのサンルームに何度も誘ったにもかかわらず、彼は一度も足を運んでくれたことは無かった。それをよりにもよって自分のお見合い場所にするとは…。しかも私とまだ離婚すら成立していないのに…っ?!
「クララ。お見合場所にお茶菓子を運ぶ役目は誰がやるのかしら?」
私はデニムに対する怒りを抑えて静かな声で尋ねた。
「は、はい。確かメイドのキティが担当することになっております」
「そう、なら私がキティの代わりにデニムのお見合いの場所にお茶菓子を運ばせてもらうわ。キティにそう伝えてもらえる?」
「な、何ですって!奥様!本気ですかっ?!」
クララが叫ぶ。
「そうです!奥様!そんなことをしたらすぐに追い出されてしまいますよっ!」
「ええ!シェフの言う通りです!いや、それ以前にお見合いの場所に近づくことすら出来ないですよっ!」
「どうか無謀な真似はしないで下さいっ!」
使用人たちが次々と私に言う。
「何言ってるの。この格好で行くはずないでしょう?私にみんなと同じメイド服をすぐに用意して頂戴!お願い!もうあまり時間がないのよっ!」
「わ、分かりましたっ!奥様、こちらへいらして下さいっ!」
クララに案内されて私は更衣室へと向かった―。
****
午前9時35分―
カツン!
私は靴を鳴らして、厨房で待っていた皆の前に現れた。
「どうかしら?皆?」
今の私の姿はメイドたちが来ているお仕着せ姿で、おさげに結った長い黒髪に黒縁眼鏡をかけたメイド姿に扮している。
「おおっ!すごいっ!これなら誰も奥様だと気づきませんぞっ!」
シェフが手を叩きながら喜ぶ。
「ええ、奥様。とても可愛らしい姿です。良くお似合いですよ」
「そうですね、完璧な変装だと思います」
そこにいる使用人たちが私の変装ぶりに感心してくれた。そして私の正面にはデニムのお見合いにお茶菓子を運ぶ担当だったキティが目の前に立っていた。
「ごめんなさいね。キティ。貴女の大切な役割を私が奪う事になってしまって」
するとキティは言う。
「いいえ、奥様とんでもありません。もともと私がお茶菓子を運ぶ担当になったのも、単に朝礼の席でデニム様と運悪く目が遭ってしまっただけですから。大体デニム様は私たち使用人の顔と名前すら興味が無いからなのか、覚えておりませんから」
キティの言葉に使用人たちが一斉に頷く。
「なるほど…人でなしのデニムらしいエピソードね。私も夫婦となった以上は何とか関係改善を図ろうと色々頑張ったのに、結局この仕打ちですものね。」
もう私は決めた。2年前に嫁いできて、私をコネリー家の食卓に混ぜてくれず、夫婦で参加を義務付けられているパーティーにも私ではなく妹のナンシーを伴うという徹底ぶりを続けていたデニム。そんな理不尽な仕打ちに何度実家に帰ろうかと思った事か。それでもいつかは真の家族として迎え入れてくれるだろうと希望を抱いてきた。だから辛い日々にも今迄じっと耐えてきたのに‥。
「キティ、私にお茶菓子セットを貸して頂戴。私がお見合いの場所に代わりに運ぶわ。そしてデニムとお見合い相手の顔を拝んでくるから」
「はい!分かりました!どうぞ、奥様」
私はキティからワゴンに乗った2人分のお茶のセットを託されると、その場にいた使用人たち見渡した。ここにいる彼らは全員私の見方。彼らの目はこう語っていた。
< 奥様、ファイトッ!! >
「皆…それじゃ、行ってくるわねっ!」
『行ってらっしゃいませ!!』
彼らが同時に返事を返す。
そして私はクルリと背を向けると、ワゴンを押してカツカツと靴音を鳴らしながら、まだ夫でありデニムと彼のお見合い相手の女性の顔を拝みにサンルームへと向かって歩きはじめた―。
私の後を追いかけてメイドのクララが厨房へやってきた。そして残りの使用人たちも慌てて駆けつけてくる。
「ねえっ?!デニムは何処でお見合いをするのっ?!」
私はその場にいる全員に尋ねた。
「え、えっと確かバラ園の良く見える『サンルーム』でお見合いをすると言っておりましたが…?」
クララの言葉に私はプチッと切れそうになってしまった。
「な、何ですって…?バラ園が見える『サンルーム』ですって‥‥?」
「は、はい…」
「フフフ…まさかあの部屋をお見合いの部屋にしようなんて良い度胸をしているじゃないの。デニム…」
あの部屋は私が自ら巨額のお金を出して、目も当てられない惨状だったバラ園を復活させた血と汗の結晶で出来た部屋だった。サンルーム迄自分でデザインし、庭師と何度も話し合いを重ねて1年近くかけて作り上げた自慢の部屋だったのに…。デニムをあのサンルームに何度も誘ったにもかかわらず、彼は一度も足を運んでくれたことは無かった。それをよりにもよって自分のお見合い場所にするとは…。しかも私とまだ離婚すら成立していないのに…っ?!
「クララ。お見合場所にお茶菓子を運ぶ役目は誰がやるのかしら?」
私はデニムに対する怒りを抑えて静かな声で尋ねた。
「は、はい。確かメイドのキティが担当することになっております」
「そう、なら私がキティの代わりにデニムのお見合いの場所にお茶菓子を運ばせてもらうわ。キティにそう伝えてもらえる?」
「な、何ですって!奥様!本気ですかっ?!」
クララが叫ぶ。
「そうです!奥様!そんなことをしたらすぐに追い出されてしまいますよっ!」
「ええ!シェフの言う通りです!いや、それ以前にお見合いの場所に近づくことすら出来ないですよっ!」
「どうか無謀な真似はしないで下さいっ!」
使用人たちが次々と私に言う。
「何言ってるの。この格好で行くはずないでしょう?私にみんなと同じメイド服をすぐに用意して頂戴!お願い!もうあまり時間がないのよっ!」
「わ、分かりましたっ!奥様、こちらへいらして下さいっ!」
クララに案内されて私は更衣室へと向かった―。
****
午前9時35分―
カツン!
私は靴を鳴らして、厨房で待っていた皆の前に現れた。
「どうかしら?皆?」
今の私の姿はメイドたちが来ているお仕着せ姿で、おさげに結った長い黒髪に黒縁眼鏡をかけたメイド姿に扮している。
「おおっ!すごいっ!これなら誰も奥様だと気づきませんぞっ!」
シェフが手を叩きながら喜ぶ。
「ええ、奥様。とても可愛らしい姿です。良くお似合いですよ」
「そうですね、完璧な変装だと思います」
そこにいる使用人たちが私の変装ぶりに感心してくれた。そして私の正面にはデニムのお見合いにお茶菓子を運ぶ担当だったキティが目の前に立っていた。
「ごめんなさいね。キティ。貴女の大切な役割を私が奪う事になってしまって」
するとキティは言う。
「いいえ、奥様とんでもありません。もともと私がお茶菓子を運ぶ担当になったのも、単に朝礼の席でデニム様と運悪く目が遭ってしまっただけですから。大体デニム様は私たち使用人の顔と名前すら興味が無いからなのか、覚えておりませんから」
キティの言葉に使用人たちが一斉に頷く。
「なるほど…人でなしのデニムらしいエピソードね。私も夫婦となった以上は何とか関係改善を図ろうと色々頑張ったのに、結局この仕打ちですものね。」
もう私は決めた。2年前に嫁いできて、私をコネリー家の食卓に混ぜてくれず、夫婦で参加を義務付けられているパーティーにも私ではなく妹のナンシーを伴うという徹底ぶりを続けていたデニム。そんな理不尽な仕打ちに何度実家に帰ろうかと思った事か。それでもいつかは真の家族として迎え入れてくれるだろうと希望を抱いてきた。だから辛い日々にも今迄じっと耐えてきたのに‥。
「キティ、私にお茶菓子セットを貸して頂戴。私がお見合いの場所に代わりに運ぶわ。そしてデニムとお見合い相手の顔を拝んでくるから」
「はい!分かりました!どうぞ、奥様」
私はキティからワゴンに乗った2人分のお茶のセットを託されると、その場にいた使用人たち見渡した。ここにいる彼らは全員私の見方。彼らの目はこう語っていた。
< 奥様、ファイトッ!! >
「皆…それじゃ、行ってくるわねっ!」
『行ってらっしゃいませ!!』
彼らが同時に返事を返す。
そして私はクルリと背を向けると、ワゴンを押してカツカツと靴音を鳴らしながら、まだ夫でありデニムと彼のお見合い相手の女性の顔を拝みにサンルームへと向かって歩きはじめた―。
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