上 下
1 / 72

第1話 突如届いた離婚届

しおりを挟む
「おめでとう、マリー」

私は3歳年下の妹の出産祝いの為に2年ぶりに嫁ぎ先から実家へ帰ってきていた。

「ありがとう、お姉ちゃん。」

明るい日差しが差し込むベッドの中、昨日出産を終えたばかりの妹の傍らには可愛らしい男の赤ちゃんがスヤスヤと眠っている。

「は~…それにしても赤ちゃんて本当に可愛いわ…見ていてちっとも飽きないし、癒されるもの」

私は赤ちゃんのほっぺを触ってため息をついた。

「フフ…お姉ちゃんは子供が大好きだものね。だけど…」

途端に妹の顔が曇る。

「あ~いいのよ、貴女は何も気にしなくても。だってマリーは何も悪くないもの。全ては見栄っ張りなお父さんとお母さんのせいだから。でも文句は言えないわ。だって私たちが何不自由なく暮らしてこれたのは2人のお陰だから」

「だけど、その為にあんな薄情男と結婚なんて…!」

姉思いの心優しい妹マリーは私の為に身体をブルブル震わせ怒りをあらわにしている。

「ストップ、ストーップ!駄目よ。出産したばかりでそんな怒りを燃やしちゃいけないわ。美味しくない母乳が出たらどうするの?」

「え?!そ、そんな事があるのかしらっ?!」

途端に青ざめる妹。

「嘘よ、ほんの冗談。でもほら、貴女は常にわが子の為に笑顔でいてあげなくてどうするの?」

妹の肩に手を置いて、私は言った。

「でも私ばかり幸せで…お姉ちゃんは不幸な目に遭ってると思うと辛くて…」

心優しい妹は悲しげに言う。

「何言ってるの。別に私は不幸じゃないわよ?あの家では使用人の人達が皆良くしてくれているし、デザート付きの美味しい食事…いう事なしよ」

「だけど、先方のご両親からは早く孫の顔が見たいと言われているのよね?生まれっこ無いのに!」

「う~ん…まあ、そうなんだけどね…」

そこまで話をしていた時、突如ノックの音が聞こえた。

コンコン

「あら?誰かしら…?」

妹がベッドの上から首を傾げる。

「いいのよ。貴女は出産したばかりなんだから私が出るわよ」

私は椅子から立ち上がり、ドアに向かうと声を掛けた。

「どなたですか?」

するとドアの外で声が聞こえた。

「私だよ、お前たちの父親さ。マリーは授乳中かい?」

カチャリとドアを開けると私は言った。

「マリーなら今ベッドで休んでるわ。でも授乳中じゃないから大丈夫よ」

すると父は満面に笑みを浮かべるといそいそと部屋の中に入ってくるとマリーに声を掛けた。

「マリー、ご苦労だったね。しかも念願の男の子だ。これで我が家も跡継ぎが出来て安泰だ。ところで婿殿はどこだね?」

「いやね、お父さんたら。トマスは仕事に決まっているでしょう?でも昨日は仕事を休んでくれたのよ?」

マリーはあきれ顔で父に言う。

トマスとはマリーとは幼馴染であり、恋人だった男性だ。この家に婿養子に入ることを条件に父は2人の結婚を許したのである。それもこれも自分たちの家の存続を守る為である。

「あ、そうそう。フェリシア、お前にデニム様から手紙が届いているよ。」

父は封筒を私に手渡してきた。

「え…?デニムから?」

デニムとは私の名目上の夫である。何故名目上…というか、それには深いわけがあった。

「まあ、冷たい人だと思っていたけど…お姉ちゃんが実家に戻ってすぐにお手紙を寄こすなんて…本当は優しい方だったのかしら?」

マリーが笑みを浮かべて言うが、私は納得がいかなかった。デニムは決してそんな男性ではない。優しさのひとかけらも無い男だという事は私が一番良く知っている。その彼がわざわざ手紙を送ってくるとは…どうにも嫌な予感しかない。

早速私は手紙を開封するとそこには1通の書類と手紙が入っていた。

「おや?何だ?この書類は…?」

「本当。何かしら?」

父と妹は私が持っている書類に目を通し、顔面蒼白になった。

そこにあった書類は…離婚届けだった―。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...