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17  ふたりだけの晩餐

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「え?」

突然扉が閉じられたので、私は慌てて振り返った。すると背後から声をかけられる。

「待っていたぞ? ミレーユ姫」

「……陛下?」

振り向くと、燭台の明かりに照らされたテーブルに向かってこちらを見ているクラウスの姿があった。

「そうだ、こちらへ来なさい。姫のために特別な食事を用意した」

「はい」

テーブルに近づくと二人分の豪勢な食事が並べられ、グラスにはワインが注がれている。

こんな戦争の真っ只中で、なんて贅沢な……今まで立ち寄ってきた町や村で人々は貧しい生活を強いられているのに。

クラウスに嫌悪感を抱きながらも尋ねた。

「陛下、王妃様はご一緒ではないのですか?」

「オフィーリアか? ああ、一緒ではない。ふたりだけでは不満なのか?」

不満……不満なら大いにある。何しろ、ふたりまとめて始末しようと考えていたからだ。ひとりずつでは始末するのが厄介だ。

「いえ、そのようなことはありません」

しかし、ここで怪しまれるような言動は避けなければ。私は笑顔で答えた。

「そうか、なら座りなさい」

クラウスは自分の向かい側の席に座るように指し示した。

「はい。失礼いたします」

椅子に座ると、早速クラウスはワインを勧めてくる。

「まずは乾杯することにしよう。グラスを持ちなさい」

「はい」

クラウスと一緒に私もワインを手にする。

「では、姫が我が国に来たことを祝って乾杯だ」

「はい」

クラウスがワインを口にするのを見て、私も早速口に入れる。かなり度数が強いのか、口にした途端、唇が痺れるような感じを覚えた。

「この料理はすべて姫のために特別に用意したものだ。遠慮せずに食べると良い」

恩着せがましい言い方をしながら、クラウスは料理を口にする。

「ありがとうございます……」

私も料理を口に運ぶと、早速クラウスが質問をしてきた。

「家臣から聞いた。姫は『ランカスター公国』の騎士に連れられて、この国へ来たのだろう? 何故そのようなことになったのだ? 確か姫はあの国の公子と婚約していたのではないか? 確か相手の名前は……ジェイクだったか……」

「ええ、そうです。随分私のことについてお詳しいのですね?」

まさか、そんなことまでクラウスの耳に入っていたとは……

「当然だろう? 『戦場の魔女』と呼ばれる姫のことは調べて当然だろう? それで、 何故『ランカスター公国』の騎士たちとここへ来たのだ? ……もしや、婚約者に裏切られでもしたか?」

どこか楽しそうに笑みを浮かべながらクラウスが尋ねてきた。

裏切られた……?
一体、どの口が言うのだろう。私を裏切り、私だけでなく家族まで死に追いやったのは他でもない、クラウスではないか。

私は腸が煮えくり返りそうになる怒りを必死で抑え込んだ――
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