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11 行く宛
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「あ……おはようございます。ジェイクさん」
立ち上がり、スカートの汚れを払うと挨拶した。
「おはようございますじゃないよ。こんな朝早くから一体何をしていたんだい?」
「はい、お世話になっているので何かお手伝いをしようと思ったのです」
「それで水汲みをしようとしていたのかい?」
ジェイクは眉間にシワを寄せて私を見つめている。何故かその顔は怒っているようにも見える。
「は、はい」
するとジェイクはため息を付いた。
「水汲みなら俺がするよ。力仕事は男の仕事だ。それに、そんな細腕で水汲みが出来るはずないだろう?」
「すみません……」
以前の私なら、これくらいのことどうってことなかったのに。何て弱い身体なのだろう。
不甲斐なくて頷くとジェイクが慌てたように声を掛けてきた。
「あ、別にユリアナを怒っているわけじゃないんだ。ただ、目を覚ましたら姿が見えなかったから慌てて探しに来たんだよ。この川沿い付近には兵士達が駐屯しているからね。もし奴らに君のような女性が見つかりでもしたら何をされるか分かったものじゃないから」
「ご心配おかけして申し訳ございませんでした」
そうだ、この身体は以前の私のものではない。きっと剣があったとしても、この細腕では持つことすら容易ではないかもしれない。
「いや、分かればいいよ。水汲みなら俺がやるよ」
ジェイクは二つの水桶に水を汲むと、天秤に引っ掛けて軽々と持ち上げた。
「早くここを去ったほうがいい。もうすぐ兵士達も起き出すかもしれないから」
「分かりました」
そして私とジェイクは連れ立って小屋へ戻った――
****
「本当は今朝は目玉焼きを作ろうかと思ったんだけどね。貴重な卵を兵士達に取られてしまって、今朝はこんな物しか用意できなかったよ」
ジェイクがテーブルについていた私の前に皿に載せた黒パンと干し肉入スープを置いてくれた。
「いえ、そんなことありません。ありがとうございます」
「そうかい?なら一緒に食べようか」
笑みを浮かべながらジェイクが向かい側の席に座る。そして二人一緒の食事が始まった。
「味はどうかな?この干し肉はこの間山でしとめた鹿の肉なんだ」
「はい、とても美味しいです」
「良かった、口にあって」
そしてジェイクもスープを口にする。その姿を見ながら思った。今私が口にしている食事は彼に取って、とても貴重な食料であるに違いない。私は彼の生活を圧迫しているだけの存在だ。
もうこれ以上……ジェイクに迷惑をかけるわけにはいかない。この食事が済んだらここを出ていこう。
それに私には成すべきことがある。私と家族を殺した者達に報復するという目的があるのだから。
**
食事が終わると、ジェイクがお茶を淹れてくれた。
「あの、ジェイクさん」
「何だい?」
「今迄お世話になりました。お茶を飲んだら、ここを出ていきますね。今迄お世話になりました」
するとジェイクの顔色が変わった。
「出ていくって……何処か行くあてがあるのか?」
「行くあて……ですか?」
そこで少し考えてしまった。するとジェイクが身を乗り出してくる。
「どうしたんだ?ユリアナ。やはり行くあてなど無いのだろう?もしかして俺に遠慮してここを出ていこうとしているのか?」
行く宛が全くないわけでは無かった。ベルンハルト家の者のみが知る隠れ家がある。
その隠れ家が今も使えるかは分からないが、他に行くあてはそこしか無かった。
「いえ、行く宛ならあります」
そこで私はきっぱりとジェイクに言い切った――
立ち上がり、スカートの汚れを払うと挨拶した。
「おはようございますじゃないよ。こんな朝早くから一体何をしていたんだい?」
「はい、お世話になっているので何かお手伝いをしようと思ったのです」
「それで水汲みをしようとしていたのかい?」
ジェイクは眉間にシワを寄せて私を見つめている。何故かその顔は怒っているようにも見える。
「は、はい」
するとジェイクはため息を付いた。
「水汲みなら俺がするよ。力仕事は男の仕事だ。それに、そんな細腕で水汲みが出来るはずないだろう?」
「すみません……」
以前の私なら、これくらいのことどうってことなかったのに。何て弱い身体なのだろう。
不甲斐なくて頷くとジェイクが慌てたように声を掛けてきた。
「あ、別にユリアナを怒っているわけじゃないんだ。ただ、目を覚ましたら姿が見えなかったから慌てて探しに来たんだよ。この川沿い付近には兵士達が駐屯しているからね。もし奴らに君のような女性が見つかりでもしたら何をされるか分かったものじゃないから」
「ご心配おかけして申し訳ございませんでした」
そうだ、この身体は以前の私のものではない。きっと剣があったとしても、この細腕では持つことすら容易ではないかもしれない。
「いや、分かればいいよ。水汲みなら俺がやるよ」
ジェイクは二つの水桶に水を汲むと、天秤に引っ掛けて軽々と持ち上げた。
「早くここを去ったほうがいい。もうすぐ兵士達も起き出すかもしれないから」
「分かりました」
そして私とジェイクは連れ立って小屋へ戻った――
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「本当は今朝は目玉焼きを作ろうかと思ったんだけどね。貴重な卵を兵士達に取られてしまって、今朝はこんな物しか用意できなかったよ」
ジェイクがテーブルについていた私の前に皿に載せた黒パンと干し肉入スープを置いてくれた。
「いえ、そんなことありません。ありがとうございます」
「そうかい?なら一緒に食べようか」
笑みを浮かべながらジェイクが向かい側の席に座る。そして二人一緒の食事が始まった。
「味はどうかな?この干し肉はこの間山でしとめた鹿の肉なんだ」
「はい、とても美味しいです」
「良かった、口にあって」
そしてジェイクもスープを口にする。その姿を見ながら思った。今私が口にしている食事は彼に取って、とても貴重な食料であるに違いない。私は彼の生活を圧迫しているだけの存在だ。
もうこれ以上……ジェイクに迷惑をかけるわけにはいかない。この食事が済んだらここを出ていこう。
それに私には成すべきことがある。私と家族を殺した者達に報復するという目的があるのだから。
**
食事が終わると、ジェイクがお茶を淹れてくれた。
「あの、ジェイクさん」
「何だい?」
「今迄お世話になりました。お茶を飲んだら、ここを出ていきますね。今迄お世話になりました」
するとジェイクの顔色が変わった。
「出ていくって……何処か行くあてがあるのか?」
「行くあて……ですか?」
そこで少し考えてしまった。するとジェイクが身を乗り出してくる。
「どうしたんだ?ユリアナ。やはり行くあてなど無いのだろう?もしかして俺に遠慮してここを出ていこうとしているのか?」
行く宛が全くないわけでは無かった。ベルンハルト家の者のみが知る隠れ家がある。
その隠れ家が今も使えるかは分からないが、他に行くあてはそこしか無かった。
「いえ、行く宛ならあります」
そこで私はきっぱりとジェイクに言い切った――
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