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カイザード・アークライト ⑩
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あれから時が流れ、僕は八百屋を経営しているおばあさん夫婦の元で従業員として働いていた。
「カイ、今日は青空マーケットの日なんだ。屋台で野菜を売ってきてくれるかい」
おじいさんが僕に言った。
「はい、分かりました」
僕は早速荷馬車に野菜を積んで青空マーケットの会場へ向かった―。
****
青空マーケットが開かれている公園で僕はテントを張って他の露天商の人達に混じって野菜を売っていた。野菜の売れ行きは上々で、空になった陳列棚に野菜を並べていると、不意に声を掛けられた。
「おい!お前…カイじゃないかっ?!」
「え」
顔を上げると、そこには見知らぬ男性が立っていた。彼は目を大きく見開いて僕を見ている。
「あの…どうして僕の名前を知っているんですか?」
すると男性は眉をしかめた。
「ハァ?お前、ふざけてるのかよっ!俺の事忘れちまったのか?!ロイだよっ!」
ロイ…?その時、僕の頭がズキリと傷んだ。
「う…」
思わず頭を押さえるとロイと名乗る男性がさらに続けた。
「旦那様に激しく鞭打たれた後に外に放り出されたんだろう?良く無事だったな…。お前、血まみれの状態で旦那様に命じられた使用人達の手で外に放り出されたそうじゃないか。俺もトニーもその話を聞いた時…てっきりお前はもう死んでしまったかと思っていたんだけど…無事で良かったなぁ。実は俺もトニーもフレーベル家をあの後、クビになったんだよ。始めはお前を恨んだけど…でも今ではお前に感謝してるよ。フレーベル家をやめたお陰で今は良いご主人様の下で御者として働けているからな」
え…?鞭で打たれた?それにフレーベル家…。
「うっ!!」
さっきよりも頭痛が酷くなり、頭を抱えてしまった。
「おい?!大丈夫かっ?!」
男性の声が遠く感じる。頭がまるで脈打つようにズキズキ激しく頭痛が起きている。そして僕の脳裏に鞭で打たれている記憶が蘇ってくる。
「うあああっ!」
思わず、頭を抱えたままその場に倒れ込んでしまった。
「おいっ?!カイッ!大丈夫かっ!しっかりしろっ!」
カイ…違う、僕の本当に名前は…カイザード・アークライト。この国の王子だった。王位を次ぐ為に身分を隠して2年間…平民として市井で働き、城に戻る事になっていた。
「お、思い出した…」
僕はゆっくり立ち上がった。頭痛はいつの間にか消えていた。
「おい?大丈夫か?カイッ!」
僕はロイ先輩を見た。彼は心配そうな顔で僕を見つめている。そうだ…彼は決して悪い人物では無かった。僕がアゼリアをこっそり馬車に乗せているのを知っていたのに傍観者でいてくれたんだ。それはトニー先輩だって同じ事だ。
「…心配してくれてありがとうございます。ロイ先輩」
僕は笑顔で言った。
「おい?本当に大丈夫なのか?」
「はい、お陰様で僕は全て思い出すことが出来ました」
これは本当に神様の思し召しかもしれない。
フレーベル家を追い出されて2年目、僕は失っていた記憶を取り戻したのだった―。
****
あれから少しの時が流れた。僕は今までお世話になった老夫婦の元へ行き、自分の身分を明かした。夫婦はとても驚いていたが、僕を快く送り出してくれた。
城に戻った僕を王子として迎え入れてくれた父はすぐに記者会見を開き、僕をこの国の王子として紹介させた。
そして今、僕は近衛兵達と共にフレーベル家へ戻ってきた。
アゼリア…君はまだこの屋敷にいるのだろうか?
出来ることならこの屋敷を出ていることを心から願いながら、僕は屋敷の中へ足を踏み入れた。
フレーベル家の人間達と対峙する為に―。
「カイ、今日は青空マーケットの日なんだ。屋台で野菜を売ってきてくれるかい」
おじいさんが僕に言った。
「はい、分かりました」
僕は早速荷馬車に野菜を積んで青空マーケットの会場へ向かった―。
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青空マーケットが開かれている公園で僕はテントを張って他の露天商の人達に混じって野菜を売っていた。野菜の売れ行きは上々で、空になった陳列棚に野菜を並べていると、不意に声を掛けられた。
「おい!お前…カイじゃないかっ?!」
「え」
顔を上げると、そこには見知らぬ男性が立っていた。彼は目を大きく見開いて僕を見ている。
「あの…どうして僕の名前を知っているんですか?」
すると男性は眉をしかめた。
「ハァ?お前、ふざけてるのかよっ!俺の事忘れちまったのか?!ロイだよっ!」
ロイ…?その時、僕の頭がズキリと傷んだ。
「う…」
思わず頭を押さえるとロイと名乗る男性がさらに続けた。
「旦那様に激しく鞭打たれた後に外に放り出されたんだろう?良く無事だったな…。お前、血まみれの状態で旦那様に命じられた使用人達の手で外に放り出されたそうじゃないか。俺もトニーもその話を聞いた時…てっきりお前はもう死んでしまったかと思っていたんだけど…無事で良かったなぁ。実は俺もトニーもフレーベル家をあの後、クビになったんだよ。始めはお前を恨んだけど…でも今ではお前に感謝してるよ。フレーベル家をやめたお陰で今は良いご主人様の下で御者として働けているからな」
え…?鞭で打たれた?それにフレーベル家…。
「うっ!!」
さっきよりも頭痛が酷くなり、頭を抱えてしまった。
「おい?!大丈夫かっ?!」
男性の声が遠く感じる。頭がまるで脈打つようにズキズキ激しく頭痛が起きている。そして僕の脳裏に鞭で打たれている記憶が蘇ってくる。
「うあああっ!」
思わず、頭を抱えたままその場に倒れ込んでしまった。
「おいっ?!カイッ!大丈夫かっ!しっかりしろっ!」
カイ…違う、僕の本当に名前は…カイザード・アークライト。この国の王子だった。王位を次ぐ為に身分を隠して2年間…平民として市井で働き、城に戻る事になっていた。
「お、思い出した…」
僕はゆっくり立ち上がった。頭痛はいつの間にか消えていた。
「おい?大丈夫か?カイッ!」
僕はロイ先輩を見た。彼は心配そうな顔で僕を見つめている。そうだ…彼は決して悪い人物では無かった。僕がアゼリアをこっそり馬車に乗せているのを知っていたのに傍観者でいてくれたんだ。それはトニー先輩だって同じ事だ。
「…心配してくれてありがとうございます。ロイ先輩」
僕は笑顔で言った。
「おい?本当に大丈夫なのか?」
「はい、お陰様で僕は全て思い出すことが出来ました」
これは本当に神様の思し召しかもしれない。
フレーベル家を追い出されて2年目、僕は失っていた記憶を取り戻したのだった―。
****
あれから少しの時が流れた。僕は今までお世話になった老夫婦の元へ行き、自分の身分を明かした。夫婦はとても驚いていたが、僕を快く送り出してくれた。
城に戻った僕を王子として迎え入れてくれた父はすぐに記者会見を開き、僕をこの国の王子として紹介させた。
そして今、僕は近衛兵達と共にフレーベル家へ戻ってきた。
アゼリア…君はまだこの屋敷にいるのだろうか?
出来ることならこの屋敷を出ていることを心から願いながら、僕は屋敷の中へ足を踏み入れた。
フレーベル家の人間達と対峙する為に―。
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