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第1章 安西航 15

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 翌日10時―

航がホテルへ行くとすでに琢磨はエントランスホールで窓側の席に座り、ホテルから見える沖縄の海の景色を眺めながら待っていた。

「よぉ、お待たせ、琢磨。」

「ああ、来てくれたか、助かるよ。」

琢磨の向かい側のソファに座ると航は尋ねた。

「・・・どうだった?よく寝れたのか?」

「え?何でそんな事聞くんだよ?」

琢磨は不思議そうに首をひねる。

「だって・・お前、目の下にクマが出来てるぜ?」

「え?そ、そうか?」

琢磨はぽかんとした様子で航を見ると、やがて左手でおでこを抑えて、肘で支えると深い溜息をついた。

「ああ・・・実はそうなんだ・・。昨夜は朱莉さんの結婚式に参加した二階堂社長から・・色々朱莉さんの話を電話で聞かされたものだから・・・気になって仕方がなくて・・・。」

「朱莉について・・?一体どんな話を聞かされたんだ?」

本当は今や人妻になって知った朱莉の事は忘れないといけないと思っているのに、それでも航は朱莉の話は聞きたいと思ってしまうのだった。

「う~ん・・あまり気乗りはしないが・・・それでも聞きたいと言うなら聞かせてやる。ただし、悪いが飛行機の時間があるから・・もう空港に向かってくれるか?」

「ああ、分かった。それじゃ車の中で話を聞かせてもらうからな?」

航は車のキーを取り出した―。


****

 青い空の下、ヤシの木が連なる美しい海の景色が広がっている。その景色を背景に走る1台の車。まるでお通夜のような状態の2人の男が車に乗っていた。

「それで・・・二階堂先輩の話だと・・・2人は新婚旅行はモルディブに行くらしいんだ・・・。朱莉さんにとってはある意味思い出の地らしくて・・会いたい人が住んでいるらしい・・。多分あの現地の女性ガイドの事だろうな・・。くっそ・・俺が代わりにモルディブに行きたかった・・。」

心底悔しそうに琢磨が言う。

「え?琢磨・・・お前、モルディブに知り合いがいたのか?」

航がハンドルを握りながら琢磨を見る。

「いや・・・知り合いって程の物じゃない。ただ・・・朱莉さんが翔と仮のハネムーンに言った時・・・。」

「何だってっ?!あの鳴海翔の奴・・・偽装婚のくせにハネムーンに朱莉を連れ出したのかっ?!」

怒気を含めた声で航が言う。

「あ、ああ・・・だが、2人きりじゃないぞ?明日香ちゃんと3人で行ったんだ。朱莉さんをないがしろにして・・・明日香ちゃんと翔は高熱が出た朱莉さんを放っておいて2人で観光に行ったらしくて・・・現地女性から電話がかかってきて・・酷く叱られたよ。当然だよな・・叱られるのは・・・俺がこんなだから・・朱莉さんは俺を選んでくれなかったのかな・・?」

乾いた笑い声と共に自嘲気味に琢磨は言う。

「当然だっ!俺だって・・・当時のお前に怒っているぞ?!何なんだよっ!あの鳴海翔って男は・・・くそっ!日本にいれば首根っこ掴んで2、3発ぶんなぐってやるところだ!」

「確かに・・・翔は本当に最低な奴だったな。次期社長の座を追われても当然だ。」

「言っておくが・・お前だって同罪だからな?」

航はジロリと琢磨を睨みつけた。

「ああ・・分かってるよ。とにかくその後も色々朱莉さんと各務修也の話を聞かされて・・2人の事が頭にちらついて一睡も出来なかったんだよ・・・。」

はあ~・・・再び琢磨は溜息をつく。

「なら、飛行機の中で寝る事だな?ほら、もう着いたぞ。」

気付けばもう車は那覇空港の前に到着していた。



****

「悪いな、中まで見送れなくて。この後仕事が入ってるんだよ。」

運転席から顔を出しながら航は琢磨を見た。

「いや、助かったよ。また沖縄に来たときは・・・よろしくな。」

琢磨は運転席の航に手を差し出した。

「何だよ?」

航は不思議そうに首を傾げる。

「何って・・握手だよ。」

「男と手を繋ぐ趣味は無いんだが・・まぁいいか。」

航はニヤリと笑うと右手を差し出した。

「またな。」

「元気でな。」

琢磨と航は互いに握手を交わすと、琢磨は東京へ、航は次の仕事へ・・・それぞれの居場所へと向かのだった―。




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