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第21話 2人の物乞い

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 その日、私はフレデリックと馬に乗り、クレメンス家の領地である『ラント』の村にやってきていた。

「こんにちは、領主様」
「ご機嫌いかがですか?リディア様」
「お待ちしておりました」

多くの村人たちが私とフレデリックを歓迎して出迎えてくれた。

「皆さん。こんにちは」

挨拶をしてフレデリックの手を借りて馬から下りると、白い髭を生やした村長さんが村人たちの間から現れた。

「これはこれは領主様にフレデリック様。この様に遠い村まで足を運んで頂き、誠に感謝申し上げます」

「こんにちは、村長さん。腰の具合はいかがですか?」

「ええ。お陰様ですっかり良くなりました。これも領主様が新しい農機具を我らの為に購入して下さったお陰です。お陰で穀物の収穫量も増え、この村はすっかり潤いました」

「そう?それは良かったわ」

すると次に10歳前後の男の子を連れた母親が声を掛けてきた。

「リディア様が学校を作って下さったお陰で、子供が文字の読み書きや計算が出来るようになりました。今では私が子供に勉強を教わっています」

「これからは文字の読み書きや計算も必要な時代ですものね。私は学問は全員平等に受ける権利があると思っているから」

「はい!本当にありがとうございますっ!」

母親が去ると、今度は中年男性がやってきた。

「領主様が井戸水を掘ってくださり、水路も綺麗にして下さったのでこの村で病気をする者たちもいなくなりましたよ」

「そうよね?やはり綺麗なお水じゃないと健康被害をもたらすもの。だけど、本当にあなた達には感謝しているわ。収穫が増えたお陰で、財政も豊かになってきたから」

村人たちを見渡しながら言うと、彼らからパチパチと拍手が上がった―。


****

「良かったですね。村人たちに笑顔が戻って」

視察の帰り道、隣で馬にまたがって屋敷へ向かうフレデリックが声を掛けてきた。

「ええ、改革がうまく言ったお陰ね。ジルベールがいたら、こんなにうまくいかなかったわ」

私はこの1年を振り返りながら言った。

生意気な洗濯女を追い払った後も、次から次へと横領していた使用人や私に楯突く人物が後を絶たなかった。私はそんな彼らを追い払い、ジルベールがいた頃から屋敷に仕えていた使用人たちは全員入れ替わっていた。始めは私をよく思っていなかった義父母達もクレメンス家の財政が黒字に転換したところで、何も言ってこなくなった。まさに順風満帆と言ったところである。

「そう言えば、リディア様。明日でいよいよジルベール様がいなくなられて1年が経ちますね」

「ええ、そうね」

返事をしつつ、先程『ラント』の村を出発する際に村の若い女性から囁かれたことを思い出した。

< フレデリック様とはいつ結婚されるのですか >

その言葉を言われた時は思わず顔が赤くなってしまった。私とフレデリックはそんな関係ではないのに…。隣を馬で進むフレデリックの美しい横顔をチラリと見て思わず顔が赤らむ。

「どうされましたか?リディア様」

私の視線に気付いたのか、フレデリックが声を掛けてきた。

「い、いいえ。何でも無いわ。でも明日がいよいよ待ち望んでいた1年ね。明日の朝で失踪宣告がされるから、死亡届を用意できるわ」

この国では失踪届けを出して1年間見つからなければ死亡したとみなしてくれるのだ。

「もうすぐ、私の中でジルベールを完全抹消出来ると思うと嬉しくてたまらないわ」

思わず笑みが溢れる。

「ええ。私も同感です。本当にジルベール様は最低な領主でしたから」

その後もフレデリックとの会話を弾ませながら、私達はクレメンス家へ向かった―。



****

「只今帰ったわ」

馬番に2頭の馬を託し、屋敷に戻るとドアマンを務めるフットマンが慌てた様子で出迎えてきた。

「お帰りなさいませ、リディア様、フレデリック様!大変なんです。お二方が留守中に小汚い2人の男女の物乞いがこの屋敷にやってきたのですよ。男の方は自分はこの屋敷の当主だと言って聞かないのです。頭がおかしいのだろうと思い、とりあえず
2人を納戸に押し込めておきました!」

「え?男女の小汚い物乞い…?」

その言葉に私とフレデリックは顔を見合わせた。

「分かったわ。すぐにその物乞いに会いに行くわ」

「私もご一緒します」

フレデリックが声を掛けてきた。

「ありがとう、心強いわ」

そして私達は物乞いがいる納戸へと向かった。

まさか、その物乞いが…あろうことか全財産を奪って1年前に逃亡したジルベールと愛人であるとはこの時は思いもせずに―。
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