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第14話 結婚式を挙げなかった理由
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11時―
私とフレデリックはクレメンス家のエントランス前でセイラと向き直っていた。
「それではリディア様、フレデリック様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ええ、多分今日中に戻ってくるのは無理だと思うの。明日には必ず帰ってくるからそれまでこの屋敷をお願いね?」
私はセイラの両手を握りしめた。
「すみません。セイラさん。なるべく早くに戻ってくるようにはしますが…もし反抗的な使用人が現れたら…」
フレデリックの言葉の後にセイラが続ける。
「ええ、大丈夫です。怪我をさせない程度に痛めつけておきますから」
「駄目よ、セイラ。痛めつけては」
私は慌てて止めた。
「勿論、今のは冗談ですから御安心下さい。でもあまりにも反抗的ならどうなるか分かりませんけど」
笑みを浮かべながら言うセイラ。…時々セイラは好戦的な所があるので一抹の不安を感じるものの、彼女ほど私とフレデリックの不在の穴埋めに適している人物はいないだろう。
するとその時、御者台に座っていたヤコブが声を掛けてきた。
「奥様、フレデリック様。そろそろ出発した方がいいのでは無いですか?」
「ええ。そうね。ノンストップで『ヴヌート』に向かわなくてはならないもの」
「えっ?!ノンストップでですか?休憩は取らないつもりですかっ?!」
ヤコブが驚いたように言う。
「言われてみれば休憩は必要かもしれないわね。第一馬が気の毒よね…1時間走らせたら30分の休憩は取って上げないと可愛そうかもしれないわ」
「そうですね。私もそれが良いと思います」
フレデリックが同意する。
「それじゃすぐに出発しましょう」
そして私達はセイラに見送られ、クレメンス家の屋敷を出発した―。
****
ガラガラガラガラ…
馬車は南へ向けて走り続けている。
「とっても気持ちの良い青空ね…考えてみればジルベールと結婚して以来初めてかもしれないわ。こんなに遠出をするのも。それに今は6月。遠出をするには丁度良い季節だわ」
窓から外を眺めつつ私は言った。
「そうですね。何しろ結婚式どころか新婚旅行すら行かれていませんからね。本当にジルベール様は…我が主ながら最低な男です」
今や、フレデリックは完全に私の味方であった。
「本当にその通りね。ジルベールから結婚式は挙げないと言われた時は驚いたわ。まさか結婚証明書に2人でサインするだけで終わるなんて…だから私の両親にクレメンス家には来ないようにと言ったのね」
ため息をつきながら言うとフレデリックが尋ねてきた。
「それにしても…よくリディア様もご両親も結婚式を挙げないことを了承しましたね?何故ですか?」
「仕方ないわ。私とジルベールが突然結婚する事が決定したのも彼のお祖父様が急逝されて遺言状が見つかったからだもの。『必ず25歳になるまでに結婚しないと遺産を教会に寄付する』って。だから私の実家に連絡が来たのよ。挙げ句に『喪が明けていないから結婚式は挙げない』って言われたら従うしか無いじゃない?」
「まぁ確かにそうなりますよね…」
フレデリックは頷く。
「でも結局ジルベールには愛人がいたから結婚式も挙げず、新婚旅行も無かったって事なのよね」
「リディア様…」
フレデリックの私を見る目に同情が宿っていた。
「大丈夫、気にしないで。逆にね、今となっては愛人共々ジルベールがいなくなってくれて清々しているのよ。尤もお金を奪われてしまったことは悔しいけれど…だから捜索願は出さないわ。1年経ったら失踪届けを出してジルベールは死んでしまった事にするつもりなの」
私はニッコリ笑って言った。
しかし、その1年後にジルベールが愛人を連れて泣きついて戻ってくる事になるとは、この時の私は思いもしていなかった―。
私とフレデリックはクレメンス家のエントランス前でセイラと向き直っていた。
「それではリディア様、フレデリック様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ええ、多分今日中に戻ってくるのは無理だと思うの。明日には必ず帰ってくるからそれまでこの屋敷をお願いね?」
私はセイラの両手を握りしめた。
「すみません。セイラさん。なるべく早くに戻ってくるようにはしますが…もし反抗的な使用人が現れたら…」
フレデリックの言葉の後にセイラが続ける。
「ええ、大丈夫です。怪我をさせない程度に痛めつけておきますから」
「駄目よ、セイラ。痛めつけては」
私は慌てて止めた。
「勿論、今のは冗談ですから御安心下さい。でもあまりにも反抗的ならどうなるか分かりませんけど」
笑みを浮かべながら言うセイラ。…時々セイラは好戦的な所があるので一抹の不安を感じるものの、彼女ほど私とフレデリックの不在の穴埋めに適している人物はいないだろう。
するとその時、御者台に座っていたヤコブが声を掛けてきた。
「奥様、フレデリック様。そろそろ出発した方がいいのでは無いですか?」
「ええ。そうね。ノンストップで『ヴヌート』に向かわなくてはならないもの」
「えっ?!ノンストップでですか?休憩は取らないつもりですかっ?!」
ヤコブが驚いたように言う。
「言われてみれば休憩は必要かもしれないわね。第一馬が気の毒よね…1時間走らせたら30分の休憩は取って上げないと可愛そうかもしれないわ」
「そうですね。私もそれが良いと思います」
フレデリックが同意する。
「それじゃすぐに出発しましょう」
そして私達はセイラに見送られ、クレメンス家の屋敷を出発した―。
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ガラガラガラガラ…
馬車は南へ向けて走り続けている。
「とっても気持ちの良い青空ね…考えてみればジルベールと結婚して以来初めてかもしれないわ。こんなに遠出をするのも。それに今は6月。遠出をするには丁度良い季節だわ」
窓から外を眺めつつ私は言った。
「そうですね。何しろ結婚式どころか新婚旅行すら行かれていませんからね。本当にジルベール様は…我が主ながら最低な男です」
今や、フレデリックは完全に私の味方であった。
「本当にその通りね。ジルベールから結婚式は挙げないと言われた時は驚いたわ。まさか結婚証明書に2人でサインするだけで終わるなんて…だから私の両親にクレメンス家には来ないようにと言ったのね」
ため息をつきながら言うとフレデリックが尋ねてきた。
「それにしても…よくリディア様もご両親も結婚式を挙げないことを了承しましたね?何故ですか?」
「仕方ないわ。私とジルベールが突然結婚する事が決定したのも彼のお祖父様が急逝されて遺言状が見つかったからだもの。『必ず25歳になるまでに結婚しないと遺産を教会に寄付する』って。だから私の実家に連絡が来たのよ。挙げ句に『喪が明けていないから結婚式は挙げない』って言われたら従うしか無いじゃない?」
「まぁ確かにそうなりますよね…」
フレデリックは頷く。
「でも結局ジルベールには愛人がいたから結婚式も挙げず、新婚旅行も無かったって事なのよね」
「リディア様…」
フレデリックの私を見る目に同情が宿っていた。
「大丈夫、気にしないで。逆にね、今となっては愛人共々ジルベールがいなくなってくれて清々しているのよ。尤もお金を奪われてしまったことは悔しいけれど…だから捜索願は出さないわ。1年経ったら失踪届けを出してジルベールは死んでしまった事にするつもりなの」
私はニッコリ笑って言った。
しかし、その1年後にジルベールが愛人を連れて泣きついて戻ってくる事になるとは、この時の私は思いもしていなかった―。
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