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第28話 似合っていると思ったのに
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「はぁ~…」
アルトが出ていき、ようやく緊張の糸がほぐれてため息が出た。
「まさか、こんなにアルトを前にして緊張するとは思わなかったわ…」
でも考えてみれば、私はアルトに嫌われないようにする為いつも気を使っていたような気がする。学園では彼の側にいたけれども、邪魔にならないように静かにしていたし、学食では本当は別に食べたいものがあったとしても、私の代わりに料理を運んでくれるアルトが勝手に決めていた。何が食べたいかなんて、アルトは一度も尋ねてくれたことは無かったのだ。
休みを一緒に過ごすのは月に1度しか無かったし、私とアルトが一緒にいられるのは学園の中で過ごせる時くらいだったのに…。
「どうして私はアルトを親切な人だと思っていたのかしら…?」
ますます謎だった。
けれど、今回の事ではっきり分かった。
「きっと…私は前からアルト様には嫌がられていたって事よね…」
悲しかったけれど、泣きたくなるほどでは無かった。
「…」
無言でソファから立ち上がると、部屋の隅に立てかけられた大きな姿見の前に立ってみた。そこには今日、トビーさんが買ってくれたマダム・リュゼのドレスを着た私が映っている。
白いブラウスに茶色のチュニック風のロングワンピースドレス姿の私…。
女性店員は、よく似合っていると褒めてくれた。
『まぁ、こんなもんじゃないか?』
トビーさんはそう言って私に笑いかけてきた。
…それなのに、アルトは…。
『はっきり言って全然似合っていないよ』
「自分では…似合っていると思っていたんだけどな…」
ポツリと私は呟いた―。
****
肩を落として部屋に向かって歩いていると、足音が聞こえて背後から声を掛けられた。
「あら?ひょっとして…エイミーなの?」
振り向くとそこにはデイ・ドレスを着た母が2人のメイドを連れて立っていた。彼女たちの手には沢山の紙バッグがぶら下げられている。
「お母様、買い物だったのですか?」
「ええ、そうよ。来週お茶会があるからその準備の為の買い物をしてきたのよ。ところでエイミー。そのドレス…」
「あ、変ですよね?こんな大人っぽいドレス…私には似合わないでしょう?今すぐ着替えに…」
すると母が首を振った
「まぁ!着替えに行くですって?!こんなによく似合っているのに?」
「そ、そうでしょうか…?」
「ええ、今迄エイミーがあまりにも子供っぽくて可愛かったから小さい女の子が着るようなドレスばかり与えてきたけれども…そういう大人のデザインドレス、とても良く似合っているじゃない!」
「え?ほ、本当に…?」
アルトはちっとも似合わないって言ってたのに?
「ええ、そうよ。やっぱり貴女ももう19歳だものね~…今度の週末はデザイナーを呼んで新しく大人びたドレスを作り直しましょう?きっとアルト様も褒めてくださって、ますますエイミーの事を好きになるのじゃないかしら?」
「お母様…」
ごめんなさい、お母様。
私は今日、アルトから婚約破棄を告げられました。
とは…目の前で喜んでいる母にとてもではないが、告げることが出来なかった―。
アルトが出ていき、ようやく緊張の糸がほぐれてため息が出た。
「まさか、こんなにアルトを前にして緊張するとは思わなかったわ…」
でも考えてみれば、私はアルトに嫌われないようにする為いつも気を使っていたような気がする。学園では彼の側にいたけれども、邪魔にならないように静かにしていたし、学食では本当は別に食べたいものがあったとしても、私の代わりに料理を運んでくれるアルトが勝手に決めていた。何が食べたいかなんて、アルトは一度も尋ねてくれたことは無かったのだ。
休みを一緒に過ごすのは月に1度しか無かったし、私とアルトが一緒にいられるのは学園の中で過ごせる時くらいだったのに…。
「どうして私はアルトを親切な人だと思っていたのかしら…?」
ますます謎だった。
けれど、今回の事ではっきり分かった。
「きっと…私は前からアルト様には嫌がられていたって事よね…」
悲しかったけれど、泣きたくなるほどでは無かった。
「…」
無言でソファから立ち上がると、部屋の隅に立てかけられた大きな姿見の前に立ってみた。そこには今日、トビーさんが買ってくれたマダム・リュゼのドレスを着た私が映っている。
白いブラウスに茶色のチュニック風のロングワンピースドレス姿の私…。
女性店員は、よく似合っていると褒めてくれた。
『まぁ、こんなもんじゃないか?』
トビーさんはそう言って私に笑いかけてきた。
…それなのに、アルトは…。
『はっきり言って全然似合っていないよ』
「自分では…似合っていると思っていたんだけどな…」
ポツリと私は呟いた―。
****
肩を落として部屋に向かって歩いていると、足音が聞こえて背後から声を掛けられた。
「あら?ひょっとして…エイミーなの?」
振り向くとそこにはデイ・ドレスを着た母が2人のメイドを連れて立っていた。彼女たちの手には沢山の紙バッグがぶら下げられている。
「お母様、買い物だったのですか?」
「ええ、そうよ。来週お茶会があるからその準備の為の買い物をしてきたのよ。ところでエイミー。そのドレス…」
「あ、変ですよね?こんな大人っぽいドレス…私には似合わないでしょう?今すぐ着替えに…」
すると母が首を振った
「まぁ!着替えに行くですって?!こんなによく似合っているのに?」
「そ、そうでしょうか…?」
「ええ、今迄エイミーがあまりにも子供っぽくて可愛かったから小さい女の子が着るようなドレスばかり与えてきたけれども…そういう大人のデザインドレス、とても良く似合っているじゃない!」
「え?ほ、本当に…?」
アルトはちっとも似合わないって言ってたのに?
「ええ、そうよ。やっぱり貴女ももう19歳だものね~…今度の週末はデザイナーを呼んで新しく大人びたドレスを作り直しましょう?きっとアルト様も褒めてくださって、ますますエイミーの事を好きになるのじゃないかしら?」
「お母様…」
ごめんなさい、お母様。
私は今日、アルトから婚約破棄を告げられました。
とは…目の前で喜んでいる母にとてもではないが、告げることが出来なかった―。
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